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楊家溝のヤオトンマンション by 村松弘一(GEN 世話人)

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 「黄土高原にヤオトンマンションがある」と聞いてどんなところなのか気になりませんか? 2003年に陝西省北部、米脂県楊家溝村の窰洞(ヤオトン)マンションにどういうわけか大学院生を率いて訪問することになった顛末記です。
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 「黄土高原に窰洞(ヤオトン)マンションがある」
そんな話を大学院生のころ、上田信先生(立教大学)が授業でお話されていました。窰洞(ヤオトン)とは横穴式の住居で、黄土高原によく見られるものです(このメールマガジンを読んでいらっしゃる方に説明する必要はないとは思いますが)。このマンションの所在地は、陝西省米脂県楊家溝。黄土高原北部の丘陵に囲まれた谷間の村で、1947年に毛沢東率いる共産党が一時、拠点を置いていたこともある、いわば革命の聖地です。1990年代、貧困から、ヤオトンの住居を棄て都市部に移住する村人が後を絶ちませんでした。現場に行った深尾葉子先生(現・大阪大学)は、移住を考えていた住民の方と、ヤオトンの維持のための資金援助もすると交渉して、とどまってもらいました。その後、次々、あらわれる日本からの訪問者がこの「ヤオトンマンション」に宿泊することとなります。今で言うところの民泊と言ってよいでしょう。ただ、ここは中国ですから、どこでも外国人が自由に泊まっていいわけではないので、宿泊に際しては、役所に提出する宿泊書類も書き、また宿代も支払います。

 私は3度この「ヤオトンマンション」に泊まりました。1回目は2003年9月のことです。もう20年以上前の話なので明かしてもよいかと思いますが、当時、私が勤めていた学習院大学では東アジア学独立大学院構想なんてものがありまして(結局実現はしませんでしたが)、その一環として国内外の東アジア研究の大学院を調査していました。その調査先のひとつが日中天津大学院という日中合弁の学校でした。ちょうどその時、深尾先生がJICAのシニアボランティアとして天津日中大学院に滞在していらっしゃったので、調査と称して訪問しました。この深尾先生こそ、ヤオトンマンションの発起人です。

 天津に2日ほど滞在し、大学院について、深尾先生から情報をお聞きして、ミッション完了と思いましたが、そこからが大変な展開となりました。深尾先生から、せっかく村松さんが来たのだから天津日中大学院の日本人院生5名を連れて、黄土高原を体験させてくれないかとお願いされたのです(ちなみに、この学生のなかに後にGENの職員となる会田さんがいました)。深尾先生の唐突な依頼はいつものことなのですが、さらに、深尾先生自身は忙しくて一緒に行けない、あとは村松さんよろしくという超ムチャぶり。結局、その後、一週間、私は学生たちと共に黄土高原をめぐりました。まず、大同でGENの活動現場を見学し、さらにそこから米脂県へと足を延ばし、楊家溝のヤオトンマンションに宿泊することとなりました。

 楊家溝のヤオトンマンションにはご夫婦とお子さんが住んでいて、私たちをもてなしてくださいました(ご夫婦は亡くなったそうです)。ヤオトンの入り口はきれいに装飾され、部屋のなかにはオンドルがあり、そこで押し出し麺をつくってもらいました。20年経た今でも、ヤオトンの前の庭で日本人学生たちとわいわい話をしながら、おいしくいただいたことを思い出します。このあと、私は2回、楊家溝を訪れることになりますが、その時おきた事件については、また、別の機会にお話したいと思います。

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