第23話 罪といちごミルク
これは、僕が小学校に入ったばかりの頃の記憶。
土曜日、学校が早く終わり同級生Kの家で遊んでいた。
彼の両親は共働きで、家にはKと僕以外には誰もいなかった。
ミニ四駆を走らせ、テレビを見て、ファミコンで遊んでいるうちに西陽が窓から差し込んできた。
「はらへったな……」
Kは窓外のオレンジ色を見ながら呟いた。
その顔が、妙に寂しげだったことをよく覚えている。
「そうだね」
それほどお腹は空いていなかったが、同意した。
そうしないといけないような気がしていた。すると彼は、じゃあお菓子買いに行こうぜ、とその浅黒い顔をくしゃりとさせて笑った。
「でも、お金持ってない」
僕が告白すると、彼は立ち上がり、
「大丈夫。ママがお金隠している場所知ってるんだ」
と子供部屋を出ていった。
彼の後ろについてダイニングに入り、食器棚の中央に配置された引き出しを開けた。
電気代やガス代の通知書に隠れるように、一万円札が五枚、千円と五千円が二枚ずつ。そして硬貨が、とりとめなく散らばっていた。
「お前も好きなだけ取れよ」
Kは一万円札を片手で握りつぶすように持ちながら言った。
「え、いいよ」
「はやくしろよ」
「いいって」
それが罪であることを知っていた。どろぼう、という人間がいるのだと母から聞いたことがあった。ぬすみ、という言葉も。
「おまえ、絶交だからな!」
Kが唐突に叫んだ。ためらっている僕を彼が睨んでいる。
「はやく取れよ! 俺が大丈夫だって言ってるんだから大丈夫なんだよ!」