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第12回 Q&A物語を面白くする「発見」の集め方

Q. 曜子さん
文章を書くとき用に、日ごろから「部品」になるようなエピソードやネタを集めていらっしゃいますか? 脚本や小説、エッセイなどにより異なるかもしれませんが、どんな「部品」を集めておくと使いやすいか、教えていただきたいです。本などを読んで、「名文」や「良い言葉」を集めても、あまり使えないような気がします。日常生活で、感動した出来事をためておいても、書くテーマにはなり得ても、そのテーマにつながる(そのテーマを面白くする)「部品」というのは、もっと違うもののような気がします。文章や物語を作るうえで、日ごろから何を集め、ためておけばよいのか、切り口や目線のヒントをいただけると有難いです。

A. GK
はじめに、「部品」という言葉だと少しかたい気がするので、僕は「発見」と呼ぶようにします。有効な「発見」は物語を豊かに、説得力のあるものにしてくれます。

おっしゃる通り、本などにある「名文」や「良い言葉」はすでに使われてしまっているものなので物語を面白くする効果は薄いかもしれません。

しかし物語を書くと決めてから世界を見ると、なぜだかその物語に必要な「発見」が目に飛び込んでくるようになります。もちろん、取材や読書によって「発見」することも増えてきます。それらがキャラクターやセリフと噛み合ってくると、物語が俄然面白く、オリジナリティのあるものになってくるのです。

僕の「発見」の実例をいくつかお伝えするのがわかりやすいかもしれません。

『私の馬』という小説を書くことなり、いろいろな乗馬クラブの馬に乗りに行きました。
「馬が合う」という言葉があるくらいで、相性の良い馬とそうではない馬がいます。
馬が合うと、不思議な体験をします。

自分が右に曲がろうと思うと、その”すこし前に”馬が右に曲がってくれたりするのです。これには驚きと共に、心が動かされました。
家族や同僚など人間同士がこれだけ言葉を尽くしてもわかり合えない時代に、言葉がなくてもこれだけわかってもらえることに感動したのです。
なぜ馬には人の気持ちがわかるのか?
数々の騎手に取材をする中でわかってきたことがあり、それが物語の展開に大きく寄与しました(その詳細は『私の馬』に書いています)。

『私の馬』新潮社刊

馬に関する本を読んでいると、色々な発見がありました。
エルメスは元々「馬具屋」として創業している。フェラーリもポルシェも馬のエンブレムである。車のパワーは「馬力」と表現する。ナポレオンもチンギスハンもアレキサンダーも有名な馬乗りだった。
贅沢や権力の頂点にあるものが、馬に由来している。
そんなことを知ると、馬の世界がぐっと深くなってきました。

『私の馬』は主人公の瀬戸口優子が愛馬にのめり込んで、横領を重ねていく物語です。それだけに、お金や欲望とこれらの「発見」が物語を大きく転がしていくことになりました。

『億男』という小説の時は、お金についてのいくつか決定的な「発見」がありました。

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