見出し画像

経営に活かしたい先人の知恵…その52

◆「言行一致経営」のススメ◆


 「信なくば立たず」は、よく使われるフレーズだが、どういう文脈で語られたかについては意外と知られていないように思う。これは「論語」の一節であり、孔子の弟子・子貢が政治について質問した時に出てきた言葉だ。

 孔子が「政治をよくするためには、民の食を十分にし、軍備(兵)を整え、民の信を得ることだ」と答えると、子貢は「やむを得ず、食・兵・信のどれかを諦めないといけないとすると、どれが先になりますか」と問うた。孔子の答えは、「兵を諦めろ」だった。なおも子貢が「残りの食・信のいずれかを諦めないといけないとするとどちらですか」と問うと、孔子は「食を諦めろ。食がなければ大変だが、昔から誰にも死はある。もし、民に為政者に対する信がなければ立ち行かない」と答えたのだった。

 恐らく、普通の考えでは、最後に残るのは「食」になるのだろうが、孔子は「信」だと言い切っている。これは会社組織にも同じことが言え、「お互いが信頼し合わなければ、組織は立ち行かない」。

 では、どうすれば、良い信頼関係が構築できるのか。その答えは、「約束を違えない」ことに尽きる。

 ここで筆者がオススメしたいのは、「言行一致の経営」だ。簡潔に言えば、リーダーは口にした言葉に沿った経営をするべきであるということ。例えば、従業員第一の経営を目指すと言うのなら、従業員のことを最優先に考えた行動を取らなければ信頼されなくなってしまう。

 最近読んだ『フリーダム・インク 自由な組織』という本の中に、考えさせられる記述があった。「『我が社の最大の財産は社員だと考えています』、と話す経営者は多いが、実際のところ、大半の社員はそんな言葉を一言も信じていない。しかし、業績の良い企業は、それを実践している」というものだ。

 経営学者ドラッカーはもっと辛辣に語っている。「あらゆる組織が、『人は宝』と言う。ところがそれを行動で示している組織はほとんどない。本気でそう考えている組織はさらにない」と。

 しかし、この点は「最大の財産は社員」との考えに沿って、その言葉通りの経営に徹すればいいだけのことで、まだ救いはあるように思われる。

 経営の世界をフィールド・ワークしていると、至るところで「言行不一致の経営」が目につく。お客様第一と標榜しながら、自社が第一。自律する従業員を育てたいと言いながら、指示ばかり出すリーダー。下請け企業を大事にすると言いながら、下請けに厳しいコストダウンを要求するetc これでは、信頼される訳がない。

 信頼がないことに、どのような弊害があるのか。ビジネスにおいては「叱る」ことと「褒める」こと、双方がなければ人は育たないと私は考えているが、信頼関係が構築されていなければ、それらの行為が意味をなさなくなってしまう。信頼されていない上司が「叱る」と、部下の不満が募り、より信頼感は低下する。逆に信頼がないのに「褒める」と、それが「仇」になることすらあり得ると、心理学者は指摘している。

 「信なくば立たず」は、まさに「真理」だ。

 



いいなと思ったら応援しよう!