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経営に活かしたい先人の知恵…その46

◆小さな改善の積み重ねで大きな飛躍◆


 老子は「九層の台(うてな)も、塁土より起こる。千里の行も、足下に始まる。九層建ての高殿も、元は小さな土くれを積んだところから起工する。千里の道を行くのも、足元の一歩一歩から始まる」と説いている。

 この老子の教えを実践して篤農家と呼ばれるようになったのが、二宮尊徳(金次郎)翁だ。1787年、相模の国・栢山(現小田原市)の農家に生まれた尊徳翁は、14歳で父を、16歳で母を亡くし、伯父の元に引き取られた。尊徳翁は、伯父の手伝いが終わった後、夜は寝ずに燈油をつけて勉強していたが、伯父から「夜学のために俺の燈油を使うな」と叱られる。自分で燈油を手に入れることを考えるが、買うためのお金はない。そこで、近所の川べりの不毛の土地を耕作して油菜を播き、その実りで7,8升の燈油を手にし、それを灯して夜勉強に勤しんだ。

 尊徳翁が第一に考えたのは、二宮家を復興させることであったが、そのきっかけは、油菜を植えた土地にあった。17歳の時、そこに村民が捨てた苗を植えておいたところ、秋には一俵の米が収穫でき、この米が、二宮家復興の元手となったとの逸話が残されている。この時の経験から尊徳翁は、「積小為大=小を積んで大を成す」を、一生涯貫く信念にしたという。

 米一俵は、元手としては小さなように思われるが、決してそうではない。小の積み重ねによって大きく飛躍できることは、あらゆる分野で証明されている。

 「失敗の科学」(マシュー・サイド著)に「マージナル・ゲイン=小さな改善・大きな飛躍」の考えが紹介されているが、その事例として、取り上げられていのが、ホットドッグの早食い大会で、何度も世界チャンピオンなった小林尊さんだ。

 小林さんは、大会参加を決めた後、従来のチャンピオンを参考に、もっと効率の良い食べ方はないかと、小さな改善を積み重ねていった。歴代のチャンピオンは皆ホットドッグを端から口に押し込んでいたが、小林さんは、半分に割ってから食べようと考えた。やってみると、咀嚼しやすく、手も自由にり、ペースよく次のホットドッグを口に運べた。次に、ソーセージを先に食べてからパンを食べてみた。しかし、ソーセージは食べやすかったが、パンにはてこずった。そこでパンを水につけてみた。水の温度を変えたり、水のなかに植物油を数滴混ぜたりもした。様々な噛み方、飲み込み方、食べたものが胃に入りやすいように腰を揺らす方法も考えた。こうして小林さんは、小さな仮説をひとつずつ丁寧に検証していき、初参加で、当時の早食い世界記録の倍近い50本(12分で)のホットドックを食べて優勝している。

 「失敗の科学」には、2000年以降、オリンピックで金メダルを取るまでに飛躍したイギリスの自転車競技チームも紹介されている。その成功の秘訣を問われ、1997年にイギリスチームのアドバイアーに就任したデイブ・プレイルスフォード氏は、次のように答えている。

 「小さな改善の積み重ね。大きなゴールを小さく分解して、ひとつひとつ改善して積み重ねていけば、大きく前進できるんです。壮大な戦略を立てても、それだけでは何の意味もないと早いうちに気づきました。もっと小さなレベルで、何が有効で何がそうでないかを見極めることが必要です。たとえ、それぞれのステップは小さくても、積み重なれば驚くほど大きくなります」。

 日本における経営の世界でも、「カイゼン」を積み重ねることで、世界有数の企業になったトヨタ自動車という好例が存在する。


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