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経営に活かしたい先人の知恵…その38

◆小事を捨て置けば大事に至る◆


 『貞観政要』に、太宗(唐二代目皇帝)が「すべて大事というものは小事から起こるものである。小事を問題にしないで捨て置けば、大事の方はどうにも救うことができないようになる」と語ったと記されている。問題が大きくならないうちに手を打つべきとの指摘だが、これは企業経営にも相通じるものがあるだろう。

 労働災害の分野に、ひとつの重大事故の背後には29の軽傷事故があり、その背後には300のヒヤリ・ハット(災害に至らなかったが、ヒヤッとしたことハッとしたこと)があるとする「ハインリッヒの法則」がある。損害保険会社の調査員ハインリッヒが、実際の事故を分析して導き出した法則で、ヒヤリ・ハットの段階で芽を摘んでおけば、災害の数は激減するとされている。

 一般的に、リーダークラスは、いちいち細かいことには口を出さない方がいいとされている。確かにその通りで、大勢に影響を及ぼさない些細なことについては、分かってはいても、そうでない振りをする方がいい時もあるだろう。しかし、放置すれば大事に至りかねない問題は、小さなうちに手を打つ必要があると考えなくてはならない。

 大事に至る可能性を含んでいても、小事の段階で手を打てば、解決に時間は掛からないが、一度大事になってしまえば、解決が困難になるばかりでなく、結果、組織を滅ぼしかねないのだ。

 では、目の前に大事と小事がある場合には、どうすればいいのか。ここで二宮金次郎の手法を紹介したい。

 ある地方で、農家の人が病気になって耕作や草取りに遅れが出た時、金次郎が出した指示は、「草の少ないやりやすい畑から手入れをしろ。草の最も多いところは、最後にしろ」というものだった。草の多いところから手をつければ、刈り取りに時間が掛かってしまい、その間に少ないところの草が伸びてしまう、というのがその理由だ。

 ヒヤリ・ハットに話を戻そう。これまで起きた大災害でも、ヒヤリ・ハットを無視して起きた例が散見される。一例として挙げたいのが、2002年三菱重工長崎造船所で発生したダイヤモンド・プリンセス号の火災事故だ。11万3千トンの豪華客船が完成間近に、火災でその3分の1が燃え、130億円もの損害を出してしまった。52歳の溶接工が、天井に器具をつけるために行っていた溶接作業中の事故で、本来なら階上に可燃物があると危険な為、届けを出した上で、監視員を置き作業すべきところ、それを怠ってしまっていた。ルールから逸脱していたことに、仲間は気付いており、上司にも報告していたという。ところが、ふたつほど年下だった溶接工の上司は、ベテランに遠慮し、会社には伝えていなかった。他にも、同じ船で4回に渡って出火騒ぎがあるなど、問題が多々あったにも関わらず、何の対応もしていなかった結果、あの惨事を招いたのだ。

 小事を捨て置けば大事を至りかねないことを、改めて肝に銘じておきたい。日本では古来より、「蟻の一穴天下の破れ」との教えもある。

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