経営に活かしたい先人の知恵…その28
◆失敗を恐れてチャレンジしないことが最大のリスク◆
「虎穴に入らずんば、虎子を得ず=危険を犯さなければ、大きな利は得られない」(『後漢書』)。
中国・後漢時代の名将・班超の言葉だが、リスクテイクする覚悟がなければ、大きな成果が得られないのは企業経営も同じだ。
1986年4月、私は「アメリカニュービジネス視察団」に参加する機会を得た。当時、日本ではニュービジネスブームで、新規事業先進国・アメリカに学ぼうとの主旨で企画されたツアーだった。ロサンゼルスで、ニュービジネスを立ち上げ成功した数名の経営者に話を聞いたが、彼らに共通していたのは、失敗を恐れずに、自らリスクを背負ってチャレンジする姿勢で、それに誇りを持っていることだった。
創造的破壊で知られるシュンペーター氏は、経営者を継続的にイノベーションを起こし、新しい価値を創造する「企業家」と、企業を循環的に経営していくだけの「経営管理者」のふたつのタイプに分類しているが、虎穴に入る勇気のある者こそ、真の「企業家」だと言えよう。
日本経済が30年以上も停滞していた原因のひとつに挙げられているのが、日本人の多くが持つとされる、失敗を恐れてチャレンジしない現状維持体質だ。ある程度の成功を手にすると、それで満足し、守りに入るタイプが日本には多い。古来、東洋では「足るを知る」ことが善とされてきた。たしかに、人間の生き様としては、欲をかかず満足することが理想的だが、競争のある企業社会では、「現状維持は衰退を意味する」と考えなくてはならない。現に日本は今、「衰退途上国」のレッテルを貼られている。
日本人が、失敗を恐れる民族であることは、データにも表れている。OECDが加盟国の15歳を対象に実施した調査によれば、失敗を恐れる生徒の比率が日本は76,7%(平均は56,4%)と、最も高かった。社会人になる前から失敗を恐れているのだから、リスクを背負ってチャレンジする人間が少ないのも頷ける。
とはいえ、日本にもシュンペーター氏のいう「企業家」がいないわけではない。「失敗は将来の収穫の種」と言って、チャレンジし続けた本田技研の本田宗一郎氏。「私にとって、失敗は成功への第一ステップに過ぎない」と語った日本マクドナルドの藤田田氏。現役の経営者では、「失敗のリスクを100%背負って革新していく」ことが経営者の役割と公言しているユニクロの柳井正氏がいる。
失敗を恐れるなとは言うが、やみくもにチャレンジしろというわけではない。新しい事業をスタートさせる前に、十分な調査、研究をすれば、リスクは軽減できると、私は考えている。情報技術が発達した昨今では、情報収集、シミュレーションが短時間でできるだけに、この手間を惜しまないで欲しい。また、リスクについては、柳井氏の次の考えも参考にしたい。
「リスクを取るには、リスクを量らなければならない。そこを勘違いしてはいけない。僕を冒険主義の経営者だと思う人がいるようですが、それだったら会社は潰れてしまいます。この程度なら失敗しても大丈夫だと、リスクを量っているのです」。
ここに、企業家・柳井氏の真骨頂がある。様々な失敗に遭遇しながらも、今日のユニクロが存在しているのは、この考えがベースにあるからだ。やはり、経営においては失敗を恐れてチャレンジしないことが一番のリスクだと考えるべきだろう。日本が「衰退途上国」から脱却するためにも、真の「企業家」が増えることを願っている。