多種多様な生薬に姿を変える「ミカン」
冬の薄日の中、こたつにミカンのある風景は、日本の風物詩ですね。冬の季語にもなっているミカンですが、日本で最もポピュラーなのは「温州(ウンシュウ)ミカン」です。温州ミカンは400年ほど前に中国から鹿児島県に伝来した柑橘種から偶然発現したといわれる日本原産の種無しの柑橘です。蜜のように甘い柑橘であることから、漢字では「温州蜜柑」と書きます。温州ミカンは九州から紀州有田(和歌山県)に渡り、「紀州ミカン」の名で知られるようになりました。紀伊出身の紀伊国屋文左衛門も、この紀州ミカンで一財をなしました。また、徳川家康が駿府(静岡県)に隠居した際、献上された紀州ミカンを植えたのが「静岡ミカン」の起源とか。今でも駿府城内には家康が植えたミカンの樹が残っているそうです。
さて、今回は、ミカンの薬効について、元気堂中央研究所の花岡 信義 研究員がコメントさせていただきます。
みなさま方は「ミカン」といえばどのような物を想像されるでしょうか? 鹿児島県出身の私は、果物としては温州ミカン、ブンタン、ポンカン、タンカン、ハッサク、サクラジマミカンなど、風味づけに使われるものとしてはキンカン、ユズ、カボス、レモンなどを思い浮かべます。植物分類学で見ますと、上記のものはキンカン(Fortunella属)以外すべて「Citrus属」になります。
生薬としては、日本の医薬品に関する公定書「第十六改正日本薬局方」に収載されているのは、「キジツ(枳実)」「トウヒ(橙皮)」「チンピ(陳皮)」の3つです。
キジツ(写真1)は「ダイダイCitrus aurantium Linne var. daidai Makino、Citrus aurantium Linne またはナツミカンCitrus natsudaidai Hayata」の未熟果実とされています。作用としては抗アレルギー、抗炎症、抗潰瘍、鎮痛などが報告されており、芳香性健胃薬として腹痛、胸腹部の膨満感、消化不良、便秘、および痰がつまる症状などに用いられています。また、大柴胡湯、四逆散など比較的高頻度で漢方処方の原料として用いられます。別名を「枳殻(キコク)」という場合もあります。
一方、トウヒは「Citrus aurantium Linne またはダイダイ」とされており、使用部位が成熟した果皮である点と、基原植物にナツミカンが記載されていない点がキジツと異なります。作用はキジツと同様ですが、漢方処方には用いられていないようです。ダイダイの皮は、ドイツの薬用植物の評価委員会(コミッションE) においても食欲不振と消化不良への使用が承認されており、洋の東西を問わずその有効性が認められていますが、過剰摂取による副作用も報告されているようですので、摂りすぎには注意しましょう。
次にチンピです。これは以前同サイトの「生薬百選」というコーナーでも紹介しておりますが、日本薬局方には「ウンシュウミカン Citrus unshiu Marcowicz または Citrus reticulata Blanco(マンダリンオレンジ)」として収載されています(写真2)。使用部位は熟した果実の果皮で、古いものほど良いとされています。未熟な果実の皮は「青皮(セイヒ)」という別の生薬として扱われ、こちらは新しいものほど良いとされています(写真3)。チンピは健胃消化薬、鎮咳去痰薬とされ、漢方処方(補中益気湯や六君子湯など)に比較的高頻度で配合されています。食用として、七味唐辛子の原料の1つでもあります。
れらの生薬の主要成分は、いずれもリモネンなどの精油や、ヘスペリジンなどのフラバノン配糖体で、リモネンからは抗菌、脂肪分解、抗酸化、抗腫瘍、抗不安、肝臓強壮など、ヘスペリジンからは抗炎症、血圧低下、血清コレステロール低下、発がん抑制などの作用が報告されています。
ちなみに、植物の学名で「薬」を意味する言葉(medica)が含まれているミカンはシトロン(Citrus medica)で、日本では変種の「ブッシュカン(Citrus medica var. sarcodactylus)」が栽培されています。これはクエン酸の原料として有名ですが、中国では芳香性健胃薬として使用されているようです。
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