夏の朝に咲く儚い一日花「ギボウシ」
利尿や腫れ物に利用
まだ梅雨が明けず、湿気が多い7月は体調を崩しやすい季節です。しかし植物にとっては、雨と湿気は成長の恵み。ギボウシは、梅雨に入ると急速に成長し、重なり合った葉の間から長い花茎を伸ばし始めます。7月になると花茎にたくさんのつぼみを付け、下方から花が咲き始めますが、朝開いて午後にはしおれてしまうという儚い命の一日花です。
ギボウシはユリ科の多年草本で、中国や朝鮮半島、日本に生育しますが、日本が分化の中心で、40種以上が生育しています。栽培種と野生種があり、草丈は30cmほど、花茎は1mほどに成長します。『新訂牧野新植物図鑑』にも、類似植物としてギボウシの名を冠しているのは、「大葉ギボウシ」「筋ギボウシ(紫に白または黄色の筋がある)」「小葉ギボウシ」「長葉水ギボウシ(湿地を好む)」「南海ギボウシ」「岩ギボウシ」が収載されています。その他、葉が小型のため薬剤調合に使った「匙ギボウシ」や、淡桃色や白色の花が頂上に向かって咲く「特玉(朝鮮ギボウシ)」、中国原産で夜に芳香のある花が咲き、朝にしおれる「玉簪(たまかんざし)」などがあります。今回取り上げている「ギボウシ」は、これらの総称です。
ギボウシの名前の由来は、つぼみの姿が橋の欄干にある擬宝珠(ぎぼし)と似ていることや、葱坊主に似ていることから生まれたという説があります。別名に、「ギボシュ」「ギボ」「ギボシ」「ウルイ」「ゲーロッパ」「タキナ」などがあります。「ウルイ」は、アイヌ語で「タチギボウシ」を「ウルキナ」と呼んでいることに由来し、「ゲーロッパ」はカエルがこの葉の下に棲みつくこと、「タキナ」は渓流の飛沫を浴びて育つことに由来します。学名のHosta undulataは、属名がオーストラリアの医師Hostの名に由来します。
ギボウシの花の色は、淡紫、紫、白色などがありますが、いずれも淡い色合いで渋みがあるため、日本人に好まれてきました。江戸時代中期になると観賞用に庭園に植えるようになり、園芸種も多数生まれました。16世紀末~17世紀初め頃に書かれた『饅頭屋本節用集』には、「秋法師」の名で登場しています。大型の「玉簪」はこの頃に中国からもたらされたという記録があります。1712年にこの植物を最初にヨーロッパに紹介したのはケンペルで、1789年にヒッツベルトが実際に持ち込みました。現在、ギボウシは欧米でガーデニングに利用されています。
ギボウシが詩歌の対象になるのは、品種改良が進んだ江戸時代以降です。
擬宝珠の 長き花茎の ひとつ立ち 日のゆく道に 傾きはじむ
斎藤茂吉
這入りたる 虻(あぶ)にふくるる 花擬宝珠
高浜虚子
薬用としては、開花期に全草を陰干しするか、必要時に全草を採取して利尿に用います。また、生の茎葉や根をつき砕いた汁をそのまま服用すると、悪性の腫れ物に効き目があるとされています。
芽立ちのギボウシは、歯ざわりのよさと味の淡白さから食用として人気があります。若葉と葉柄の白い部分を浸し物、和え物、汁の実などに利用します。また、花やつぼみを食用にしたり、塩漬けや乾燥させて保存食としても利用します。ただし、若芽が毒草の「バイケイソウ」に似ており、誤食事故も報告されているので注意が肝要です。
花言葉は、「落ち着き」「鎮静」「変わらない思い」「静かな人」です。
出典:牧幸男『植物楽趣』
⇊関連商品はこちら⇊
腫節風片 (シュセツフウヘン) Zhongjiefeng Pian