「柿蔕(してい)」の生薬名で知られる「カキ」
甘柿は渋柿の突然変異種
芭蕉の句に「里古(ふ)りて柿の木持たぬ家もなし」とあるように、古来より日本には柿の木が多く植えられています。生育環境が日本の国土に適しており、食の対象としても、保存食としても重要な役割を果たしてきました。
また、黒灰色の木肌や黄赤色の実が青い秋空に映えるのは、日本人の郷愁をそそる代表的な風景でもあります。
平安時代にはすでに「さわし柿」が作られ、干し柿にできる甘い白い粉は「柿糖」として甘味料にも利用されてきました。『延喜式(えんぎしき)』には、御料地の果樹園に柿が百株植えられていたという記録もあります。
『新撰姓氏録(しんせんしょうじろく)』には、万葉歌人である柿本人麻呂の姓について、由来は「門前に柿の木があったからだ」という説も見られます。しかし、『万葉集』には柿を詠んだ歌がありません。
鎌倉時代に編さんされた『夫木和歌抄(ふぼくわかしょう)』にも、柿を詠んだ歌はごくわずかしかありません。
その後、時代が下り、一茶などの俳句に詠まれるようになってからは、秋の季語として多く登場するようになりました。
役馬の 立眠りする 柿の花
小林 一茶
柿落ちて うたた短き 日となりぬ
夏目 漱石
柿の木は日本の西南部に自生しており、日本だけでも1,000 種以上あります。弥生時代以降に栽培種として大陸から伝来したものが多く、鎌倉時代の遺跡から立木が発見された事例もあります。
柿の実には甘柿と渋柿があり、甘柿は渋柿の突然変異種と考えられ、日本の特産品種です。気温差が激しい地域では、生育場所により甘柿になったり渋柿になったりするようです。
植物名の由来ですが、黄赤色に熟すことから「かがやき」や「あかつき」と呼ばれていたのが短縮されたなど諸説あります。別名に「朱果(しゅか)」「赤実果(せきじつか)」など。
学名はDiospyros kakiで、属名はギリシャ語のDios(神)とPyros(穀物)の合成語で、「神の食べもの」の意味です。種小名は日本名をそのまま用いており、これはスウェーデンの植物学者カール・ツンベルグが命名しました。ヨーロッパでは流通は少ないようですが、「ディオスピロス」(神の食べ物)として尊ばれています。
一方、中国では、唐時代の段成式(だんせいしき)が『酉陽雑俎(ゆうようざっそ)』で柿の七徳を示し、評価された時代もありました。その七徳として、「1. 樹齢が長い 2. 葉陰が多い 3. 小鳥が巣を作らない 4. 虫が付きにくい 5. 紅葉の美しさ 6. 果実が美味 7. 紙の代用として習字ができること」と書かれています。
薬用としては生薬名を「柿蔕(してい)」といい、柿の蔕(へた)の部分を薬としてしゃっくり止めや鎮咳、夜尿症に使います。
柿は生薬になる蔕以外の部位も用途が多く、葉は茶剤として血圧降下に、果実は滋養強壮に用いられています。
甘柿は生食のほか、ジャムやようかんに、渋柿は渋抜きをして加工、または干し柿にして食すことが可能です。葉は柿の葉寿司やお茶の材料としても利用。木材は緻密で堅いため、お茶道具やおけ、傘などに使われるなど、余すところなく多様に活用されています。
花言葉は、「恵み」「優美」「自然美」です。
出典:牧幸男『植物楽趣』
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