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1年の邪気を払う「屠蘇」

8種の生薬が含まれた縁起物の酒

お正月に、1年の邪気を払い、長寿を願って飲む縁起物の酒「屠蘇(とそ)」。正式には「屠蘇散(とそさん)」といい、漢方薬でもあります。屠蘇は中国の三国時代(220~280年)の名医、華侘(かだ)の処方によるものと伝えられていますが、実は唐時代(618~907年)の名医、孫思獏(そんしばく)が考えたという説が有力です。孫思獏は流行風邪の予防のために、屠蘇を薬として作り、年末にそれを知人に贈ったところ、おいしいと評判となって定着したといわれています。孫思獏が住んでいた草庵は「屠蘇庵」という名で呼ばれていたそうです。屠蘇とは、鬼気を屠絶し、人魂を蘇生させるという意味であることから、1年中の邪気を払って延命長寿を願う飲み物となったのです。孫思獏は、「人、故なくば薬を飲むべからず。臓気不平にして病生ず」と、健康に対する心構えを常に語っていたようです。屠蘇散は三角の緋色の袋に入れて、大晦日の日中に井戸の底につかないようにして沈め、それを元旦に取り出して酒に浸します。それをお正月三が日に飲んで、かすは井戸に投じておくと、1年間無病で過ごせると伝えられています。

日本では、嵯峨天皇(9世紀初頭)の時代に宮中で典薬頭が調合し、薬子(毒見係)に試飲させてから献上したのが屠蘇の始まりとされています。屠蘇の飲み方は、年少の者から順に東を向いて飲むことになっています。この習慣は、『五経』の1つ『礼記』の「君の薬を飲むは臣先ず嘗む、親の薬を飲むは子先ず嘗む」によるもので、忠孝の思想である毒見の慣行として今日まで伝わっています。盃を年長者から年少者に回すと、次第に歳が減って先細りになるので縁起が悪いという意味もあるようです。年少者から年長者に盃を順に回す習慣が庶民の間に広まったのは、江戸時代以降です。
屠蘇は詩歌にもよく詠まれています。

屠蘇によい 耳赤き子と 遊びけり   高田風人子
屠蘇の酔い 大福長者と なりにけり  尾崎紅葉

屠蘇に配合されている生薬は、時代によって変化していますが、今は次の8種——「白朮」は利尿、「桔梗」は去痰、「山椒」と「肉桂」は健胃、「大黄」は下痢、「乾姜」は新陳代謝促進、「防風」は解熱、「細辛」は鎮痛(または「烏頭」:強心)が含まれています。

出典:牧幸男『植物楽趣』

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