クリエイターを殺す病(うつ編)
一般的に創作することは素晴らしいことだ、といわれています。
創作に打ち込むことで自分自身と向き合うことができますし、試行錯誤の中で成長し、完成したときには達成感が、認められることで自己肯定感が得られます。
なにより、創作するというのは楽しい行為です。
クリエイターやクリエイター志望者の方には、創作に熱中して夜を明かしてしまったという経験が何度もあると思います。
このように有意義な行為である創作ですが、一般論から離れて、あえて警鐘を鳴らしてみたいと思います。
創作は確かに、人生に彩りを与える素晴らしい行為です。
適量を守りさえすれば。
なにごとも過ぎたるは猶及ばざるが如し。
「創作」と「飲酒」はすこし似ていると思っています。
(お酒の飲めない方にはわかりにくい例えで申し訳ありません)
お酒は適度に嗜むことで、人間同士のコミュニケーションを円滑に、日頃の疲れや気苦労をリフレッシュすることができます。
しかし、毎日浴びるように飲酒していたらどうでしょうか?
場合によって人間関係は破綻し、体を壊し、日常生活もままならなくなり、最悪死に至ってしまう可能性があります。
創作にも同じ危険性が潜んでいます。
誤解を恐れずにいうと、過度に創作することは危険な行為です。
場合によって人間関係は破綻し、体を壊し、日常生活もままならなくなり最悪死に至って可能性があります。
なぜクリエイターはそんなに危険なのか?
表題に繋がるわけですが、もっとも大きいリスクは「うつ」です。
うつはクリエイターの職業病です。
何人もうつになったクリエイターを見てきましたし、私自身も過去二度ほど心療内科に通ったことがあります。
無事回復して日常生活を送れるようになりましたが、そこで再起不能になってもまったくおかしくなかったわけです。
うつはクリエイターを殺してしまう悪魔で、この病といかに向き合うか?は大きな課題です。
しかし厄介なことに、うつ病の実態はまだ解明されておらず、明確な治療法は存在しません。
また大多数が罹患する病気ではないため、まだまだ社会的な理解を得られているとは言い難いです。「うつ病は甘え」「宝くじに当たればうつ病なんて治る」という不理解極まりない言説もあります。
そんな状況に絶望し、果たしてもう治らないんじゃないか、周囲に理解されないんじゃないか、自分自身に原因があるんじゃないか……と負のループに陥り、無限回廊を果てしなく彷徨うことになります。
自分は医者ではないので医学的な答えは提示できません。
ただ、うつに対してあらかじめ知識を持っておくことで、いざ罹患した際に適切な行動が取れるのではないかと思います。
なぜうつになるのか?
対処を知るには原因から。
なぜうつになるのかというと、第一の原因は精神的負荷、つまりストレスです。「うつ病は心の風邪」といわれることがありますが、むしろ「うつ病は心の外傷」と呼んだほうがしっくりくると思います。
包丁で指を切ると、痛みを感じますよね。
なぜ痛みを感じるかというと、傷を負うというのは危険な状況である可能性があるからです。タマネギを切ろうとして手を滑らせただけですが、脳はそんな細かい解釈はしません。場合によっては刃物を持った通り魔と対峙しているかもしれない、と最悪の状況を想定するわけです。だとしたら一刻も早くその場から逃げなければいけないわけで、痛みという感覚を通してそのメッセージを伝えるわけです。
切った瞬間も痛いですが、その後もずっと疼痛に悩まされます。これも同じく脳からの指令で、傷口を保護しろというメッセージを伝えているわけです。
うつ病も外傷によく似ていて、心に強い負荷がかかった際に、いますぐその危険な状況から逃げるように、十分な時間をかけて心を保護するように、という脳の防御反応なのだと思います。
あらゆる人はうつになる可能性があります。
どれだけ耐えられるのかは個人差がありますが、人を鉄アレイで殴り続けるといつか死んでしまうように、どんなにタフな人間でも負荷をかけ続けるといつか折れます。
「自分はうつになるような弱い人間ではない」という人もいるでしょう。
しかし、あなたが一番大切にしているもの、例えば財産や能力、愛情すべて失ったときのことを想像してみてください。それでも正気を保っていられますか? YESと答えられないなら、あなたもうつになる可能性があります。
なぜクリエイターはうつになるのか?
クリエイターは繊細です。
繊細だからクリエイターになるというほうが正しいですね。
内省的な性格や、物事を深く考える気質があるからこそ他人と違うものが生み出せるわけで、結果として触れると壊れるようなセンシティブヒューマンが揃ってしまうわけです。
またクリエイターというのはその才能一本で生きてきた人間が多いです。
裏を返せば寄辺は自分の能力だけ。腕一本で飯を食ってきて、世間に認められてきた。作品に愛情を込め、我が子のように大事にしてきた。しかし、クリエイター人生は順風満帆ではありません。締め切りになってもまったくアイデアが出なかったら? 上手く作品が作れなかったら? 作ったものがまったく認められなかったら?
クリエイターは創作することで生きているわけですが、プロとして日常的に創作するということは、同時に常に自己否定される危険性と隣り合わせです。こうして日々うつ病クリエイターは量産されていきます。
うつにならないためには?
長時間労働を避けましょう。
疲労は大きな精神的負荷です。ストレスは足し算で襲ってきます。ひとつひとつは耐えられても、まとめてかかってこられると耐えられません。クリエイター的なストレスは仕事をする上では避けられないものですが、業務時間はコントロールできます。特に現在は働き方改革によって残業時間が強く規制されるようになりました。法令を遵守する職場環境を整えましょう。
十分な睡眠時間を取る、栄養価の高いものを食べる、規則正しい生活をする、適度な運動をするなど心身の健康を保つことは有効です。いざ負荷がかかったときの総量を減らすことでうつになりにくくなると思います。
うつになったらどうすればいいのか?
結局のところ時間をかけるしかない、と思います。
うつが治ることを寛解というのですが、一時的に症状が軽くなったり消失しているということで、完治という言葉は使いません。
つまり、そもそもうつは治らないということです。
はじめてこの事実を知ると絶望するわけですが(私もそうでした)、そもそも心というのはそういうものではないでしょうか?
例えば手痛い失恋をすると「もう恋なんてしない」等と言い出して、恋愛に不信感を抱いたり、ひどく慎重になったりします。
だからといって失恋をする前の無垢だった自分に戻りたいと思うでしょうか。失った在りし日に焦がれるのではなく、心の痛みを抱えて進んでいくほうがいい(というか、そうするしか選択肢がない)のではないでしょうか。
薬物治療は効果的です。
一時的にうつが悪化したとき、どうしても痛みを和らげる必要があります。心がバランスを取るまでには猶予が必要で、その時間を稼ぐために投薬するのは有効な手立てです。
その他にもスポーツやレジャー、カウンセリングや認知改善などさまざまな方法がありますが、これは個人差があるので一番いい方法を見つけるしかないですね。
いつか回復すると信じること。痛みも苦しみも自分の一部だと思って付き合っていくこと、それが重要なのかなと思います。
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