Genki

京都市内の大学で非常勤教員として勤めています。   noteでは、映画の感想を綴っています。記事はネタバレを含みます。 プロフィール画像は「リト@葉っぱ切り絵」さんから (https://twitter.com/lito_leafart

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最近の記事

映画『ゴジラ-1.0/C』鑑賞

「綺麗」に過ぎる白黒映画 モノクロ化の意義とは  モノクロ化されたことで、初代ゴジラのような怖さやある種の荘厳さが付加されたものを観られるかと期待していたが、単に情報量が減って見にくく分かりにくくなってしまった印象を受けた。もしかすると、あえて画質を落とすと逆に迫力が出たかも知れない。綺麗に過ぎる白黒映画だった。  とはいえ、銀座蹂躙、四式戦車の反撃、放射能火炎と爆風、キノコ雲とゴジラの咆哮からの敷島の叫び、とどめを刺すかのような黒い雨、という一連のシークエンスは、モノクロ

    • 映画『シビル・ウォー アメリカ最後の日』鑑賞

      一発の銃声は恐ろしく、連射音は娯楽になる  この写真を撮ったのか、彼女は  物語の最終盤、エンドクレジットで浮かび上がる写真こそが、この映画の全てを表しているように思われた。銀塩写真の現像そのままの、徐々に鮮明になる写真の正体を観て、得も言われぬ気持が渦巻いた。写真として切り取られた被写体が満面の笑顔を見せる姿は皮肉が効きすぎている。正確には、被写体のうち、一人(一体と言うべきか?)を除いて、だが。  素晴らしい演出だった。  「どの種類のアメリカ人だ?」   この映画に

      • 映画『ロッキー』鑑賞

        何度観ても、色褪せない  「原点にして頂点」という言葉がマッチする映画、『ロッキー』。  シリーズとの初めての出会いは『ロッキー4』で、同作を子どもの頃にを観て以来、シリーズ作品がTVで放映される度に繰り返し夢中に観ていた。今回、第1作を初めて字幕版で通して観て、あの頃とはずいぶん感覚に違いがあるけれども、「ああ、やっぱり面白い」と思わずにいられなかった。  物語の前半、ペットショップのケージ越しに映るロッキー、同じくペットショップのケージに入れられて小さくなっているブル

        • 映画『オッペンハイマー』鑑賞

          極上のエンターテインメント映画なのだろう  映画は、前半部分と後半部分とに綺麗に分かれる。前半はマンハッタンプロジェクト、後半はストロースとの物語が描かれており、後半は映画として面白く感じられた。  この映画を語る大前提として、「自分が日本人だからという理由で、自動的に、79年前の米国による核攻撃に関して被害者視点で語る資格が付与されるわけではない」ことを肝に銘じたい。この映画を「唯一の被爆国の、同じ日本人として」語ることはむしろ不誠実なことだと感じるし、被害者としては語れ

          映画『原子怪獣現わる』鑑賞

          98年版『GODZILLA』の祖先かのような  映画『ゴジラ』に影響を与えたという本作。  前々から観たいと思いながら術がなく、先日U-NEXTに加入したことでようやく鑑賞できた。  話の展開は一本調子で起伏に欠けている印象。主役のはずの怪物=リドサウルスは、ニューヨーク現れて暴れた後、淡々と「駆除」されてしまった。  この流れ、どこかで観たことがあるなと頭を巡らせ、はたと思い出す。そうか、本作は映画『ゴジラ』(1954年)の祖先というよりは、「あの」エメリッヒ版『Godz

          映画『原子怪獣現わる』鑑賞

          映画『青島要塞爆撃命令』鑑賞

          第一次世界大戦が50年前の出来事だった時代の戦争映画  日本映画で第一次世界大戦を描いた希少な作品の1つ。  1963年(昭和38年)公開とあって、戦争を映画として描くこと対する姿勢がカラッとしている。  主人公(加山雄三)と上官(池部良)の関係、現地人女性(浜美枝)のキャラ付け、候補生(伊吹徹)の死など、人物描写に時代を感じるが、戦争と人物の描き方こそがこの映画の魅力だろう。だれ場となるようなウェットな描写はほぼない。黎明期の海軍航空隊の真価を証明してみせようとする隊員達

          映画『青島要塞爆撃命令』鑑賞

          映画『フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン』鑑賞

          テンポとリズムの心地良さ  アポロ計画への関心を高めるために政府に雇われたPRマーケティングのプロ(スカーレット・ヨハンソン)と、アポロ計画ロケット発射責任者(チャニング・テイタム)とが、反発つつも惹かれ合う物語を縦軸に、マーケティングのプロが政府によって「嘘の月面着陸」撮影を命じられる話を横軸として、その両者が絡み合いながら映画は進む。 テンポよく、話がさくさく進むのが嬉しい。主人公の2人が変に葛藤に耽溺して動きが止まることもなく、一方で、アポロ1号犠牲者慰霊碑前の花壇に

          映画『フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン』鑑賞

          映画『漂流ポスト』鑑賞

          雪中梨世の佇まいに惹き込まれる映画  映画開始4分頃からスタートする回想シーンの美しい風景描写と瑞々しい2人の姿が観られただけで、心が満たされていくのを感じた。主人公の若き日を演じていた中尾百合音と親友役神岡実希は生命力に溢れていて、魅入られてしまう。  しかし、この物語の白眉はポスト前に立つ主人公の佇まいだろう。主演の雪中梨世は、若い2人の存在感を圧する程に恐ろしく美しかった。 「もしポストに投函してしまったら」。  電話に出られず、折り返しかけ直すこともなかった主人公の

          映画『漂流ポスト』鑑賞