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エンヴィー・ジェロシア 〜キャラクタープロフィール〜

◆名前

エンヴィー・ジェロシア

◆登場物語

DiROOK

◆詳細

 生命が生まれながらにして特殊な能力を授かる世界『リーベエステレラ』。
 その色を帯びた能力の質は様々であり、ある者は身体の能力を向上させ、ある者は自然を操り、ある者は物質を具現化や破壊の力を持ち、そしてまたある者は人の傷を癒すことさえ出来る。
 それを人は"エトスの力"と呼び、また生まれながらにして力を授かることは世界の祝福であるという考えが根付くと、「エトスの祝福」という言葉さえもが生まれた。

 ──そんな世界に生を受けたエンヴィー・ジェロシア。
 彼女の「エトスの祝福はライトグリーン」。視野に捉えた者の思考を意識的に読み取ることの出来る力を持つ。

 大都市カローブ=グラディウスのエトス研究員の一人であり、マオ・イェシルとは古くからの知り合いである。

エンヴィー・ジェロシア
マオ・イェシル

 日々エトス能力にまつわる様々な研究を行っており、その内容は人の日常生活を支えるエトス能力を活用した機械の発明・開発、都市を犯罪から守るための防衛設備の構築など多岐渡る。
 
 中でもエンヴィーの専門分野は「都市防衛設備の改良」・「都市防衛と地域安全確保を目的とした兵器開発」、また人が移動手段に使用する乗り物(列車)などの駆動動力の開発である。乗り物の設計士との繋がりを得てからは、彼女自身も模型などを集めたり、模型を作る趣味などに目覚めた。
 その他にも個人的に”エトスの応用理論”についての研究を熱心に行っており、人が未だ解明していないエトスの秘密、実態、活用方法などを研究対象としている。

 性格は我が強く、初対面の相手を簡単には信用しないタイプ。
 また本人は気にしないフリをしているものの、他人からの評価や意見の内容にとても敏感。時と場合によっては感情的になるような一面も持っており、自分の考えを否定されればその理由を追求し、自身の理論について誤解されているようであれば、それを正さなくては気が済まない。自分の気持ちに素直であるとも言える。
 幼い頃から勉強全般が大好きで、遊ぶことも忘れて学業に精を出すと、教え手からも"優秀"だと、その成績をいつも褒められるようになった。

 彼女のエトス能力はいわば「相手の心を読める」というもの。
 一見、便利な能力に捉えられるが、彼女はこの能力によって苦労の目立つ時期を送ってきた。

 当時、彼女が通っていた大学「メガロ」。
 いわゆる”天才”、"秀才"と呼ばれる人間が入ることの出来る理系や経済面に強い大学であり、中でもエンヴィーやマオ・イェシルは、特に頭の切れる頭脳派としてちょっとした有名人だった。
 やがて周囲は事あるごとに出される成績で、彼女たちの結果をどこからともなく知っては「エンヴィーは努力家」、「マオは天才肌」という認識で捉えるようになっていった。
 これはエンヴィーがマオの成績を上回ったことがないというのが主な理由であったが、ただ一度だけ”例外”が起こった──。
 
 ある時の学力テストでエンヴィーは、その年の学年のトップ成績を出した。
 それはメガロの門の内で勉学に励むすべての生徒を対象としたもので、その中での上位成績というのはあらゆる企業、研究機関に対しての人材アピールのようなものであり、それがましてやトップとなれば頭脳明晰な逸材を欲する場所から引っ張りだこになることは必至であった。

 このことに周囲も一度は驚きの声を漏らしたものの、やがてすぐに怪訝な眼差しとひそひそと話す声が、影の中にじわじわと現れ始める──。

「…ねぇ聞いた?エンヴィーの祝福って"心を読む"ものなんだって」
「見たやつの考えを抜き取る能力だって、僕は聞いたよ?」
「どちらにせよあいつ、学力テストの時、マオの後ろに座ってたんだぜ?」

「なぁ聞いた?エンヴィーのやつ、この間の学力テストでカンニングしたらしいぜ?」
「カンニング?マジで!?」
「なんでもエトスの力で、他人の心を抜き取れるらしい。でも力を使った証拠はないからお咎めは無しらしいよ」
「うわぁー、真面目に勉強した俺バカみたいじゃん。あいつにとっちゃあい色んな意味での"祝福の力"ってわけか」

 エンヴィーがマオの成績を上回ってトップになったことに対して、周りから納得のいく声は聞こえこず、ましてや教授たちまでもがエンヴィーを密かに呼び出し、「正直に言いなさい」などと事の真相を暴こうという姿勢であった。

 これについてエンヴィーは否定し続けたが、この一件以来彼女は”チーティングガール”という蔑称のあだ名で呼ばれるようになった。

 ただし、これで彼女が意気消沈して精神を病んでしまったかというと、そんなことは微塵もなく、むしろ売られた喧嘩は真っ向から買っていく性格が相まって、より勉学や”エトスの応用理論”に関する研究に、寝る間も惜しんで注力するようになっていった。
 陰口や嫉妬、誹謗中傷の声にも正面からぶつかり続け、激昂する彼女の姿は卒業の日まで見られた。

 ──卒業を迎えたエンヴィーは、自宅へ帰ろうとするマオの跡を後ろからつける。
 人通りの少ない鉄製の歩道橋を歩く。
 通りと通りを結ぶ橋だが、階段が急勾配なことを理由に利用者は普段ほとんどいない。
 橋の下の大通りには車がちらほらと行き交い、その車を眺めるようにしながら通りの向こうに渡ることを、信号の合図によって許されるのを待つ人々がいる。
 西に伸びる大通りの向こうから燃えるオレンジの光が差し込み、マオの眼鏡に反射する。丁度中程のところで、エンヴィーが後ろから声を掛けた。

「ねぇマオ。あんた、あの時負けて悔しかった?あんたも私が能力を使って勝ったって思ってる?」 
 そう言う彼女の顔は、明日の遠足を楽しみにする子どものような、それでいながら勝機を得たスポーツマンのような、高揚感を感じさせる笑顔を見せた。
 マオは彼女の言葉に足を止めたものの、振り返らずにその場に佇む。
 二人の間には、行き交う車のタイヤと地面が擦れる音、空気を切る音、そして卒業の季節特有の肌に優しい、穏やかな風がそっと通り抜けた。
 エンヴィーはマオが何か言うまで、彼女のブロンドの後ろ髪が少し揺れるのを眺めていた。
 するとマオはまた何も言わずに歩き出したので、エンヴィーはすかさず駆け寄って言った。
「いいのよ、隠さなくても?そうやって黙って行こうとするのは、”聞かなくてもわかるでしょ”ってことよね?たしかに今、あんたの考えを知ろうと思えば知れる。けれどもここで一方的に力を使って知ったら、結局私はあんたにエトスを使ったことになるでしょ?私はあんたを"カンニング"なんかしない。あんなたの口から直接聞きたいのよ。ねぇ、どうだったのよ?悔しかったの?あの日私は、実力であんたに勝ったのよ?」
 言い終わってからマオがゆっくりと振り返った。エンヴィーと同じ緑の瞳が美しく光りを帯びる。そして涼しい表情のまま、薄い唇が動く。

「信号が変わる前に渡りたいから、もういい?」
 それを聞いたエンヴィーは、胸の内側の熱が確かに沸騰したのを感じた。真剣に取り合おうとしない彼女に向かって、思わず眉間に皺を寄せながら大声で罵声の言葉を浴びせる。
 突然聞こえてきた甲高い声に、橋の下にいた人々が一瞬だけ頭を上げて確認をした。
「あ、あんたのその態度は悔しいからでしょ?!あんたは、自分を負かした私を前にすると、悔しい気持ちが湧いてくるから!私の顔をちゃんと見て話そうとしないんでしょ!出来ないんでしょ!?だったらそうはっきりと、正直に言いなさいよ!!」
 歯を食いしばり、望んだものが手に入らないもどかしい表情を浮かべるエンヴィー。マオは肩を軽く持ち上げて息を吐いた。
「成績が、そんなに大事?」
「なッ…………!」それしか出てこなった。喉奥に言葉が詰まって、何か言い返そうと思うのに適切な言葉が見つからない。
 その後、エンヴィーは去っていくマオを呼び止めることも、追いかけることもなかった。
 マオは歩道橋の階段を降りると、信号が変わって道を渡り始めていた人より、少しだけ早く通りの向こうを歩いていった。
 
 歩道の信号が再び赤に変わる。
 夕日がやがて姿を隠し、歩道橋は街頭として設けられた灯りだけが、周囲を確かめる為の頼りになる。だが暗くなって改めて顕著になったのは、エンヴィーのすぐ隣にあった街灯は電球が切れかかっており、まるで感情が昂った人間の呼吸のように明点を繰り返していることであった。

 エンヴィーは拳を強く握りしめたまま、踵を返してその場を去った。


 知識の本も恐縮するほどに努力を続けたエンヴィーは、やがて大都市カローブ=グラディウスの研究機関の一員となる。

 そしてそこで、マオ・イェシルとの再会を果たすのだった──。

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