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募金

 ぼくは不器用で、手放しで優しい人だと褒められるような人間ではない。
 困っていそうな人を見つけても、何かしらの理由を付けて見過ごしてしまうことが殆どだし、ぼくの怠慢のせいで他の人が不利益を被ることもある。
 そんな自分に嫌気が差してはいるものの、それを変えられるほどの勇気や気力を持ち合わせているわけではないし、努力もできない。

 ただ、自分を変えたい気持ちはある。それならぼくに、何ができるのか。大層なことはできない。全ての人間を幸せにすることはできないし、世界の問題をなんとかできるわけもない。それでも小さなことをやり続けるのが大切だと言うけれど、そこまでできるほどぼくは優しくない。
 ある日、スーパーのレジに募金箱があるのを見つけた。その時はただ、認識しただけだった。「募金箱があるな」と、そのくらいだった。会計を終え、お釣りをもらう。細かい金額だったので、小銭の量が多い。財布はパンパンだった。これ以上詰めると小銭が落ちることを知っている。
 こんな状況で、ぼくは募金箱にお金を入れた。本当に少量の数百円程度のお金だ。善意の気持ちの割合がきっと数十%程度の募金。それでも、ぼくは少しだけ良い気分になった。こんな状況でだけれども、ぼくは募金をすることができた。理由がどうあれ、他の人のために行動ができた。それだけで、ぼくは少しだけ優しい人間に近付いた気がした。これから人に優しくできるような気がしたのだ。

 ぼくのために、ぼくが変わっていけるように、ぼくは他人に優しくしていこうと思う。少しでも、善意と優しさを分け与えられるように。自分の未来と、誰かの未来がより良くなれば良いなという微かな希望を抱きながら。


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