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環境を変化させることが重要とされる本質的な理由
同じ環境に留まらずに、異なる環境に飛び込むべきという話はよく聞きますが、その理由を見てみると「環境変化が早い現代においては、変化に対応する力が重要」といった、わかるようなわからないような言葉が並びます。この「変化への対応力」をもっと具体的に理解する必要があるのですが、意外にもあまり説明されることがないように思います。
慣れ親しんだ環境から全く異なる環境に移ることの重要性は、「経験の抽象化を強要する」ことにあります。
以前、「一度きりの経験を次に活かすことができる人は「構造」を捉えることに長けている」という記事を書きました。どんな経験も、突き詰めて考えれば一度きりの経験です。他の経験とは全く別個のものであり、1つの経験を他の経験に活かすことは本来できません。しかし、経験を抽象化し、構造として捉えることで、1つの経験を別の経験へと活かすことができる。簡単にいうとそういう主旨のことを説明しました。
慣れ親しんだ環境にいると、だんだんと行動がパターン化されていきます。仕事に慣れていない時には、1つの経験や失敗から必死に学びを得ようとして、準備や復習を怠らずにいたかもしれません。その時には、経験の抽象化も行っていたはずです。
しかし仕事に慣れてくると、過去抽象化したもので一定の仕事をこなせるようになり、新しく抽象化を行って学びを引き出そうとしなくなります。
ところが、環境を大きく変えるとそうはいきません。過去の経験をもう一度振り返り、抽象化して新しい環境に適用することで何とか生き抜いていかないとならないからです。新しい環境は、経験の抽象化を強要する。これこそが環境を変えることの最も重要なポイントです。
言い換えれば、ぬるま湯につかって学ばなくなった状態から、学びを引き出して生き抜かざるを得ない状態に引き戻すということです。一般的には、経験を抽象化し、異なる経験に活かすことを「変化への対応」という表現に詰め込んでいるわけですが、この表現の解像度を高くしておかないと単純にコロコロ環境を変えて、何も経験から学びを引き出せていないという状態に陥ります。ポイントは抽象化の強要。これを押さえておくのが肝要です。