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仕事における馬力の重要性

仕事で成果を出している人の共通項の1つとして、馬力というものがあると考えている。その理由に入る前に、そもそも馬力とは何だろうか。コトバンクの定義を引いてみよう。

ば‐りき【馬力】
1 《horsepower》仕事率の単位。1馬力は、75キログラムの物を毎秒1メートル動かす力。仏馬力では735.5ワットで、日本では内燃機関などに限り使用が法的に認められ、記号PSを用いる。英馬力では746ワットで、記号HPを用いる。馬1頭当たりの工率に由来。
2 物事を精力的にこなす力。「馬力がある」
3 荷物を積んで運ぶ馬車。荷馬車。
「そこへ―の往来が烈しいと来ているから」〈里見弴・今年竹〉
[類語](2)エネルギー・原動力・活力・体力・精力・パワー・精・動力

https://kotobank.jp/word/%E9%A6%AC%E5%8A%9B-116883#:~:text=%E5%8D%98%E4%BD%8D%E5%90%8D%E3%81%8C%E3%82%8F%E3%81%8B%E3%82%8B%E8%BE%9E%E5%85%B8%20%E3%80%8C%E9%A6%AC%E5%8A%9B%E3%80%8D%E3%81%AE%E8%A7%A3%E8%AA%AC&text=%E5%B7%A5%E5%AD%A6%E3%81%AE%E4%BB%95%E4%BA%8B%E7%8E%87%E3%81%AE,10%E5%88%86%E3%81%AE1%E9%A6%AC%E5%8A%9B%E3%80%82

1つ目の定義は文字通り「馬の力」を基準とした仕事率の単位を記述している。日常会話で使われる「馬力」が指しているのは2つめの定義にある「物事を精力的にこなす力」の方だ。端的で理解しやすい定義だが、より具体的に見ていく必要があるだろう。

「馬力がある」とはどういうことか

「あの人は馬力がある」と言う時、どういう人のどんな状態のことを指しているだろうか。例えば、あるプロジェクトが佳境に差し掛かり、連日深夜までの残業が続いてメンバー皆が疲弊している状況を想像してみよう。そんな時に1人のメンバーが、連日連夜働きまくっているにも拘わらずパフォーマンスを落とさずにいて、プロジェクトをグイグイ引っ張っている姿を見た時に、周囲はその人を「あいつは馬力があるな」と言う。「馬力がある」という言葉が当てはまる具体的なシチュエーションはこんな感じではないだろうか。コトバンクの定義の通り、その人は物事を精力的にこなしているわけである。

他方で、毎日働きまくっている人を見ても「馬力がある」という言葉は通常出てこない。私の知人はそういう人を「鉄人」と表現していたが、ずっと継続的に朝から晩まで働き続けている人は実は馬力がある人なのかもしれないが、その状態を「馬力がある」とはあまり表現しないように思う。

この違いは何だろうか。おそらく、「馬力がある」という言葉のニュアンスは「継続的な力の発揮」よりも「瞬発的な力の発揮」に重点を置いている。競走馬が瞬発力を発揮して一気にレースを駆け抜けるように、比較的短期間で一気にパフォーマンスを上げて成果を出すイメージが強い (*1) 。

加えて、力を発揮するタイミングも重要だと考えられる。誰も求めていないタイミングで瞬発力を発揮しても「馬力がある」という評は得られない。ここで踏ん張る必要がある、というタイミングで瞬発力を発揮して急場をしのぐ行為に対して「馬力がある」という評価が下される。

以上2つのポイントを押さえると、馬力があるとは「ここぞというタイミング」で「瞬発力を発揮して高いパフォーマンスを示す」ことである、と一旦は定義できるだろう。

なぜ馬力が重要なのか

馬力という言葉をある程度理解できたとして、それではなぜ仕事に置いて馬力が重要なのかを深掘りしたい。

冒頭で「仕事で成果を出している人の共通項の1つとして、馬力というものがあると考えている」と記載した。まず仕事で成果を出している人がどのようにして高い成果を積み上げているかを考えてみると、平均的に成果を積み上げ続けていることは大前提としてあるのは当然のこととして、その上で「ここぞという時=有事」に上手く対応して平時の数十倍の成果を出すことでトータルの成果を上げる構造になっている。

「ここぞという時=有事」というのは、例えば「獲得することが出来れば大きな収益につながる提案機会」といったようなポジティブな機会であったり、「大規模な影響を与えうる危機事案発生」のようなネガティブな事象だったりする。様々なケースがあり得るが、成功した場合の成果は大きいが、その代わりに難易度が高いという点において共通している。

有事に成果を出すためには、平時とは異なる仕事の取り組み方が求められる。前述の通り、有事に求められる仕事は得られる成果が大きい代わりに難易度が高く、対応が許される期間も限られているからだ。平時の仕事では1週間に100のアウトプットを出せばよいとすれば、有事にはその10倍や100倍である1,000や10,000のアウトプットが同じ期間に求められる。つまり、有事に要求される力は100/週のアウトプットを1年間出し続ける持久力ではなく、10,000/週のアウトプットを1か月間だけでも出し切る瞬発力ということになる。

仕事ができる人は、この瞬発力がある。この瞬発力は平時には発揮されないため、平時には他の人との差分が見えにくい。しかし有事になると、瞬発力のある人とそうでない人の差は歴然とする。100/週のアウトプットがやっとの人は、瞬発力が求められるシーンで無理をしても200/週や300/週くらいにアウトプットが留まってしまう。瞬発力のある人は、ここぞという時に一気にブーストをかけ、一気呵成に有事へ対応する。そして成果を得ることに成功し、「馬力がある人」という評価を得るのである。

「なぜ馬力が重要なのか」という問いに戻ると、その問いへ端的に答えると「有事対応には馬力が求められ、有事対応は桁違いに高い成果を生むから」ということになる。

馬力はどのように身につくのか

馬力が仕事において重要だとして、それでは馬力はどのようにして身につくものなのか。私の経験および観測を踏まえると、有効な方法は「強い負荷のかかる仕事を経験すること」だ。つまらない話だが、瞬発力をつけるには自分自身のベースをグッと引き上げるような経験を経ることが重要である。

1つのアナロジーとして、サッカーの長友選手のスタミナを形作った経験を引用してみたい。

部活で走力を磨いた中学時代
――当時のトレーニングの流れを教えてください。
 放課後、まずは陸上トラックで400メートル走を10本。それから5キロ走や山に入ってクロスカントリーなど、とにかくよく走りました。その後、サッカーの練習です。

――持久力がグングンついていくのを体感しましたか?
 自分でも驚くほどに。急にスタミナがついて、試合で足が止まらなくなった。

――その取り組みが選手としてのベースづくりにつながったのでしょうか?
 間違いないですね。あのときの厳しいトレーニングが現在の自分の土台になっていると感じます。

長友佑都選手自身が語る「スタミナ」のルーツとは
https://jr-soccer.jp/2014/03/05/post19879/

比較的短期間でも、限界を引き上げる経験を積むことができると土台が形成され、また「限界の引き上げ方」もわかるのでその後に壁が出てきても乗り越えるイメージを持つことができる。仕事で「濃い経験」を積むことが重要とされることの理由は、おそらくここにあるだろう。

「濃い経験」をして限界を引き上げ、馬力を身につける。この「急場をしのぐ馬力」があると、その後の職業人生で大いに自分を助けてくれる。馬力は重要である。


*1 実際には馬は持久力もあり、走るスピードと休憩を調整すると一日最大50-60㎞走ることができ、かつそれを連日続けることも可能である。


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