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インデックス投資という心理ゲーム

私はインデックス投資家である。以前は全米株式インデックスファンドと全世界株式インデックスファンドの双方に投資をしており、2つに分けて投資する意味があまりないことが分かったので、直近では全世界株式インデックスファンド一本に絞って投資している。厳密に言えば少しの個別株は持っているのだが、ポートフォリオ全体から見ると10%以下であり、投資している資金の大半はインデックスにペッグされた投資信託に投資している。故にインデックス投資家を自認している。

タイトルに書いている通り、インデックス投資はもはや心理ゲームである。 インデックス投資を実行するにあたり、投資家に求められる決断や行動は極めて少ない。証券会社で口座を開設し、現金を入れ、インデックスに連動した投資信託を積立購入する設定を行う。ただこれだけである。あとは定期的に現金を追加入金したり、資金の状況に応じて積立金額を変更したりするくらいのもので、ひたすら放置する以外にやることがない。個別株投資では当然に必要とされる「銘柄分析」「株価分析」といった、投資する前のプロセスがほとんど求められず、また長期投資が基本であるため売買もほとんど行わないため、本当にやることがないのだ。つまり、良い投資先に良いタイミングで投資するという投資ゲーム的要素は、インデックス投資には殆どない

そこで相対的に重要になってくるのが、「何もせずに放置し続けるということに耐えられるか」という心理面の問題である。Xの投資垢を見れば、どの個別株が上がるか下がるか、どのマクロイベントが株価に影響を及ぼすか、どの適時開示情報が業界に影響を及ぼすかなど、「重要な投資イベント」のように見える情報で溢れている。そういったイベントをいち早く捉え、投資行動に繋げ、一喜一憂する個人投資家の姿がまるでスマホから透けて見えるようだ。自分がインデックス投信に資金を寝かせている間に、大きなチャンスが幾度となく通り過ぎて行っているのかもしれない、自分は大きな機会損失をしているのかもしれないという思いに駆られてしまうのが人間心理というものである。インデックス投資の効率性や有効性を頭では理解しつつも、心はざわめいて初志貫徹から遠ざかってしまう。この(ある意味でごく自然な)心の動きに抗って、いかに初心を貫くかがインデックス投資の急所である。

インデックス投資から離れるということは、想像以上に大きな川を渡ることになる。個人投資家のスタンスは、ものすごく大雑把に2つに大別することができる。1つは、個別株の株価を予測することはある程度可能だと考える一派。もう1つは、それは予測が不可能であると考える一派だ。

前者(個別株の株価を予測可能)であれば、やるべきことは上場企業の業績や株価、マクロイベントの影響度合い等の勉強と、それら知識を総動員した投資の実践である。世の中には、個別株の値動きを信じられない精度で予測して大儲けする人もいる。一方で、勉強すれば全員がそのレベルに達することができるかというとそんな甘い世界ではなく、大儲けしている人の裏には数百倍以上の屍が転がっているのだ。個人投資家の井村氏も、「個別株投資に向いているのは5%の人」と言い切っている。人が羨むほど利益を上げている人は更に少ないだろう。

一方で後者(個別株の株価予測は不可能)であれば、重要なのはいかに個別株の変動リスクをヘッジしながら、株式の持つリターンを享受するかを考えることになる。あらゆる個別株をまとめて、株式市場全体の成長性をリターンとして享受するために開発されたのが、インデックス型の金融商品だ。セクター(半導体セクター等)⇒ソブリン(全米株式等)⇒複数国(先進国等)⇒全世界(いわゆるオルカン)という順序で、個別変動リスクはヘッジされていく。もちろん、全世界株式インデックスに投資しても株式投資のリスクは完全にはヘッジされるわけではない。オルカンで(長期的に)リターンを期待するということは、「世界の株式市場をまとめると中長期的には成長するだろう」という考えを持つことになるが、当然ながら必ずそうなるとは限らないので、常に損をする可能性は抱えることになる。

インデックス投資家が個別株投資に魅力を感じてしまう瞬間があるのはある意味で当然のことだ。個別株投資の方が一般的に株価変動リスクが大きい。リスクが大きいということは、潜在リターンも大きいということである。全世界株式インデックスが短期間で数倍になることはない。しかし、個別株ならば銘柄次第で大いにあり得ることだ。

しかし上で述べた通り、インデックス投資と個別株投資はそもそも全く流派が異なるので、その間を超えて投資スタンスを変えるということはルビコン川を渡ることになる。「ちょっと手を出してみようかな」くらいに思っていても、それは根本のスタンスを揺るがす想像以上の変化である。

ではインデックス投資家が、この心理ゲームを制するためにはどうしたらよいのか。私が重要だと思うのは「思想の漆塗りをし続ける」ことだ。要は、インデックス投資の効率性と重要性を再確認し続けることである。例えば私は、以下の鉄板本を定期的に読み返し、「やっぱりそうだよね」を繰り返すようにしている。

より大きなリターンの可能性を見ると、その裏にはリターンに応じたリスクが隠れていることは頭でわかっていても、心は揺れ動いてしまうというのが人間というものである。それを理解しながら、そういう心の動きをなだめすかし、淡々とインデックス投資を続ける。インデックス投資家に求められるのはこの心理ゲームを制することであり、いわゆる「投資ゲーム」に求められる勉強や知識の獲得に走るとむしろインデックス投資の心理ゲームからは遠ざかって行ってしまうことを念頭に置くことが肝要だろうと思う。

※本記事はあくまでも執筆者の一意見です。投資は自己責任で。

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