見出し画像

前澤友作氏の経営思考

スタートトゥデイ(現株式会社ZOZO)の創業者である前澤友作氏は、一見突飛に聞こえる考えや発言で注目されることが多い。しかし、インタビュー等をよく読んでみると、実はビジネスにおいてある意味で当たり前(だか重要で、実践が難しいよう)なことを、非常にシンプルかつ自分で考えた言葉で表現しているということが良くわかる。いくつか紹介してみたい。

集中して生産性を上げる

起業家というとワーカホリックなイメージが先行するが、前澤氏は「生産性・効率性」を最重要視しており、自分のみならず組織全体が生産性高く働けるよう工夫している。最も有名なのは1日6時間労働制度「ろくじろう」だろう(なお、「ろくじろう」は2019年10月にフレックス制度導入に伴い終了したようだ)。世の中にフレックス制度がまだ全然浸透していない2012年当時に導入し、メディアでも頻繁に取り上げられた。

「1日6時間労働」という言葉のインパクトが強すぎるため、労働時間が短いことばかりに注目が集まりがちだが、労働時間の短縮と生産性の向上がセットで検討されている。例えば以下のインタビューで語られている通り、当時は「資料作り」という無駄の発生しやすい仕事を排除するなど、効率化を徹底していた。

本田 とはいえ、本当に6時間労働や3時帰社が実現できるのでしょうか?
前澤 6時間労働を実現するために、効率化を図ることと集中するという2大テーマを掲げました。無駄な仕事を排除する。特に僕が出席する会議では資料が過度に多いので会議に資料を極力持ち込ませない。どうしても資料がいる場合は、無駄につくりこまずシンプルにし、内容はきちんと自分の口で説明できるようにしてもらう。会議も1時間を45分にするなど4分の3に短縮。結果的に6時間で帰れるスタッフが続々と増えていき、しかも売り上げも右肩上がりが変わらず、会社の成長は継続しています。

https://diamond.jp/articles/-/39316?page=3

不要なものはとことん切っていくスタイルで、それを自身でも徹底していた。例えば、「机」「パソコン」「メールアドレス」は持たずに仕事をする。そして会社には週3日のみ出社し、必要な会議だけに出てオフィスを去る。「忙しそうにしている経営者や従業員は、自分で仕事を増やしているだけじゃないかな」と言い放つ東証一部上場企業(当時)の社長は、そうそういないだろう。

余計な情報を入れない

 -逆に、排している習慣とは?
「情報量」でしょうか。要らない情報は入れたくないタイプで、テレビもほとんど見ないし、情報のアンテナはむやみやたらに広げないですね。限られた方をTwitterでフォローしているんですが、その中には特定のジャンルの情報を収集する能力に長けている方もいる。そういった方や信頼する幹部たちが寄せる情報を取り込むぐらいですね。音楽もほとんど聴かない。かつて自分が作り手側にいたからか、本当は今でも好きなものだからなのかはわかりませんが、感じるものや受ける影響が多すぎて僕には重すぎるんです。何かをしながらBGMとして音楽を聴くというのも絶対できない。もし音楽を聴くなら、一人静かに集中して聴くか、数年に一度ライブに行って身体で感じるかのどちらかですね。

http://www.highflyers.nu/hf/maezawa3/#startcontents

これも、言うは易く行うは難しの典型例だ。インプットを極力制限し、集中と思考を優先する。そのことが重要なのはわかっているが、情報量が多ければ多いほど様々なことを知れるため安心感につながるので、ついつい情報を多く摂取してしまう。上場企業の社長ともなれば、複雑な状況下で重要な意思決定を下す必要があり、それを限られた情報の中で行うことは非常に難しいことのはずだ。

余計な情報をインプットしないことは、生産性の向上にもつながる。そもそも情報インプットのための時間が不要になるし、周囲も余計なレポートをする必要がなくなる。経営層への情報レポートだけで1か月の相当部分を使っている人は、上場企業には少なくない。その時間が無くなり、その分を事業成長のために傾けることができると、組織の生産性は大きく向上する。

競争をしない

――前澤さんにとって商売上のライバルや、意識する起業家はおられるんですか?
前澤
:競争相手は、いないですね。競争すると冷めちゃうんですよ。僕、ゴルフが好きなんですが、勝敗を賭けの対象にしたり、何が何でも自分が1位になろうとする人がいるとダメ。楽しみで仲間とゴルフやってるのに、そこで勝ってどうするの?って思ってしまう。

https://gendai.media/articles/-/56650?page=4

個人や組織の独自性を突き詰めていき、実質的な競争相手を作らない。競争戦略上、「競争相手を作らない」ということにより利益率が上がることはマイケル・ポーター氏の競争戦略理論や、チャン・キム氏&レネ・モボルニュ氏の「ブルー・オーシャン戦略」でも指摘されていることだが、それを地で実践しているということになる。

面白いのが、「競争しない方が経済合理性が高い」という結論を自ら導き出しており、これは「無駄を排して、生産性を上げる」という点にこれまた繋がっているということだ。無駄を嫌い、徹底的に排するという思想が根底にあり、それが「競争を嫌い、競争をしない」という企業戦略にも深く投影されている。

いいなと思ったら応援しよう!