見出し画像

イーストマン・コダックと富士フイルムの事例から見る変化への対応力

経営戦略で有名な事例として、「イーストマン・コダックと富士フイルムの戦略転換」というものがある。例えば以下の記事でも事例として取り上げられている。

イーストマン・コダックと富士フィルムはともに、写真フィルム事業で世界的シェアを誇る企業だった。しかし、1990年代にデジカメが登場すると写真フイルム業界の市場規模は縮小し始め、そのトレンドをうまく掴んで自社の経営資源を適切に組みかえて事業の軸を移していった富士フィルムは飛躍を遂げたが、環境適応できなかったイーストマン・コダックは業績が落ち続け、最終的にChapter 11を申請する結果になった。

富士フィルムはその後も成長を続け、今では写真フイルム事業からは一見遠く離れた主力事業として展開している。有名なのはヘルスケア事業であり、今では6,000億円以上を売り上げる稼ぎ頭だ。

2社の明暗を分けたポイントとしてよく挙げられるのが、「ダイナミック・ケイパビリティ」である。ダイナミック・ケイパビリティの説明は以下の記事が詳しい。

しかし、こうしたやり方を続けていては、変化の激しい環境には対応できません。重要なのは、コスト削減よりも付加価値を最大化することです。そのためには、パラダイムの変革が必要であり、企業には、従来と異なる能力が求められます。それが今、経営学の世界で注目されている「ダイナミック・ケイパビリティ(変化対応自己変革能力)」です。
提唱者のデイビッド・ティース(カリフォルニア大学バークレー校教授)は、企業の能力をオーディナリー・ケイパビリティ(通常能力)とダイナミック・ケイパビリティの2つに区別しています。
オーディナリー・ケイパビリティとは、現状を維持しながら、より効率を高める能力、コスト削減能力、管理能力などのテクニカルな能力(技能的適合力)を指します。この能力は利益を最大化しますが、付加価値を最大化するものではありません。
環境が変化すると、この能力だけでは対応できなくなります。変化によって生じた環境と企業活動のギャップを埋める能力がダイナミック・ケイパビリティです。変化に対応するために、既存の資源(資産・知識・技術など)を再形成、再配置する能力(進化的適合力)のことです。変化を感知する(センシング)、利益を生み出す機会を捕捉する(シージング)、資産を再編成し変容する(トランスフォーミング)、という3つの能力によって構成されます。

コダックが倒れ富士フイルムが残ったワケ
https://president.jp/articles/-/27318?page=1

オーディナリー・ケイパビリティとダイナミック・ケイパビリティ。この2つの対比は、個人における「マネジメント」と「リーダーシップ」に相当する。つまり、前者は既存の仕組みの中で上手く運用していく力であり、後者は変革を促す力である。

イーストマン・コダックと富士フィルムを見ていて面白いのは、イーストマン・コダックの方が富士フィルムよりも技術力や組織能力は高かった可能性があるにもかかわらず、結果は逆転してしまったという点だ。

既存の市場に適合しているということは、市場に大きな変化が訪れると一気に脆弱性として発現する可能性がある。その時に重要なのは「資産を再編成し変容する(トランスフォーミング)」、つまり「一回崩して、再構築する」ということになる。神宮の式年遷宮のように、ゼロからもう一度立ち上げることで、本質を残しながら組織を新調することが初めて可能になる。

既存の市場を基準とした組織能力の高さと、変化への対応力は決して相関しない。この事例のような大規模な変革だけではなく、部分的な変革も含めた必要性と頻度の高まっている現代においては、変化への対応力は益々重要性が増しており(コッター氏によると、「大企業の事業部や大半の企業は、中規模の組織変革を少なくとも年に一度は実施し、4-5年に一度は大きな組織変革に取り組まなければならない」)、イーストマン・コダックと富士フイルムの対比から学び取れることは益々重要性が高まっている。

いいなと思ったら応援しよう!