なぜ僕らはこんなにも『ピークアウト』が大好きなのか~コミックス1巻発売に寄せて~
■俺は『ピークアウト』が好きだ
どのくらい好きかというと、あまりの面白さに第1話からずっと感想を書き続け(そしてささやかながらファンアートを書き続け)ているぐらいだ。
それが今月、とうとうコミックス発売にまで至ったのだから、嬉しいことはこの上ない。
そして、この喜びが俺に限ったものではないようであることは、作者のウヒョ助先生によるコミックス購入報告のリポストが、発売から2週間ほど経っても絶えないことからも自明であろう。みんな、待っていたのだ。
というわけで、今回は『ピークアウト』コミックス1巻発売に寄せて、俺がなぜこんなにもこの漫画が大好きなのかを語らせてもらいたい。
■『鉄鳴きの麒麟児』と天鳳
『ピークアウト』について語ると言って早々にあれだが、『鉄鳴きの麒麟児』は自分が初めて触れたウヒョ助作品であるため、どうしても触れておかなければならない。
『麒麟児』の魅力といえば、渋川難波プロの監修によるマニアックな領域にまで踏み込んだ闘牌が第一に挙げられる。また、主人公・桐谷鈴司を中心とする新宿歌舞伎町の雀荘に巣食う麻雀打ちたちとの人間模様、そしてそこから織りなされる物語も、『麒麟児』の大きな魅力といっていいだろう。
しかしながら、自分が惹かれたのはそこだけではない。
ネト麻雀士。鈴司のもう一つの戦場であるネット麻雀の仮想空間にアバターとして登場する彼らが、実在するオンライン麻雀「天鳳」のユーザーをモデルにしていると知ったのは、Twitterでウヒョ助先生のアカウントをフォローしてからだった。
自分の好きな漫画に登場しているキャラクターが、実在する。……もちろん、モデルはあくまでモデルであって、キャラクターとそのままイコールではない。それは承知なのだが、それでも、自分が手にしているコミックスと現実がささやかながらも接点を持っているということは、俺を密かに興奮させた。
だが、モデルとなった彼らはあくまで個人的にネット麻雀を楽しんでいる一般人である。なかにはブログなどで情報発信をしていたり、戦術本を出したりしている人もいたりはしたが、別にそれが本業ではない。
キャラクターを通してモデルの人物に興味を持ったとしても、そこから先に追いかけ甲斐のある何かがあるとは限らないのだ。
一応、彼らとの接点を作る道がまったく無かったわけではない。その唯一ともいえる方法は自分も「天鳳」を始めることであったのだが、麻雀Flashでの一人打ちがせいぜいだった当時の自分には、ネット麻雀で対人戦をするなんてことは思いもよらなかった。
俺は『キリンジゲート』で完結を迎えるまで『鉄鳴きの麒麟児』という漫画を十分に楽しんだと胸を張って言える。しかし、この漫画における「ネット麻雀ネタ」については最後まで外野であったことには違いない。
■Mリーグ開幕
2018年に発足したMリーグ。しかし開幕当初、麻雀観戦にさほど興味があるとはいえなかった自分はほぼほぼスルーしていた。
そんな自分の目をMリーグに向かせたのは……もちろん、この人である。
ご存じウヒョ助先生のMリーグ漫画。類まれなるデフォルメセンスと、1ページでネタをまとめる漫画力というプロの技を惜しみなくつぎ込んで生み出される漫画の数々を前にして、俺はMリーグより先にMリーグ漫画を好きになってしまっていた。
ちなみに俺の推しチームはセガサミーフェニックスだが、これはウヒョ助先生の描くさや姉がすごく可愛かった(言うまでもなくゆーみんも可愛い)(しかし一番かわいいのは誠一さんだと知るのはもう少し先の話……)からである。
そして、気が付けばDisordで観戦通話をするぐらいにはMリーグのファンとなっていた。
■そして始まる『ピークアウト』
Mリーグの盛り上がりは、『近代麻雀』におけるMリーグ比率も押し上げていくこととなった。『鉄鳴きの麒麟児』最終シリーズ『キリンジゲート』の連載終了も、そうした風潮にあっては仕方ない面もあったのかもしれない。
そして始まった新連載、『ピークアウト』第1話には……
たかはるがいた。
さらに続く第2話で描かれる「Mピーク」の対局風景は、卓を囲んでいる選手だけでなく、実況・解説からインタビュアーまで、まさに俺がAbemaで見てきたMリーグであった。
どのキャラクターも、誰をモデルにして描いているのかが手に取るようにわかる。だって俺、Mリーグ観てるもん!!
……そう、言ってしまえばこれは大きな大きな「内輪ネタ」だ。
だから俺が『ピークアウト』を読んで喜んでいるのは、『麒麟児』シリーズでは結局最後まで「天鳳」という内輪に入ることなく終わってしまった自分が、ついに「Mリーグ」という巨大な内輪に入ることができたことを実感しているからなのだ。
とはいえ、内輪ネタだからいけない、ということはない。
なぜなら、いったんその中にさえ入ってしまえば、内輪ネタほど面白いものはないのだから。クラスメイトと担任のモノマネをしてゲラゲラ笑ったという体験をしたことがある人は多いだろう。赤の他人からは理解さなかったとしても、笑いあっている当人たちにとって、その面白さは本物なのだ。
■内輪から外へ
なるべく肯定的な書き方に努めたつもりだが、ここまで俺が言っていることは結局「『ピークアウト』はMリーグ好きにしか楽しめない内輪ネタの漫画」というDisにしか聞こえないかもしれない。
事実として、Mリーグを知っているほうが『ピークアウト』を楽しめる。そこは否定しようがない。
だが、「この熱狂を外へ」をスローガンとして活動してきたのがMリーグである。Abemaの配信をリアルタイムで追っかけなくとも、ネットの海を漁っていれば関連コンテンツにはいくらでもたどりつける。
例えばYouTubeで動画を検索すれば、高原星二ならぬ多井隆晴プロが漫画に負けず劣らずの顔芸を披露している様子も見ることができるし……
実況のお兄さん(仮名)もとい日吉辰哉プロに至っては、漫画のコマから想像できるものをはるかに超えた絶叫を聞くことができる。
たかはるの顔芸に思わず吹き出したら、日吉さんの絶叫に何か心揺さぶられるものを感じたら、それだけでもうMリーグという「内輪」の立派な一員だ。それほどハードルは高くないと俺は思っているし、そういった理解はMリーグの目指すところからも外れてはいないだろう。
俺は昔、プロ野球もJリーグもろくに観ていなかったのに、コロコロで「マツイくん」や「ラモズくん」を読んで笑っていた。
Mリーグという開かれた「内輪」が、いずれそんなポジションになってくれれば良いと、心から思う。
■Mリーグだけじゃない
……と、ここまでの話をひっくり返すようだが、Mリーグ関係者以外の麻雀プロを知っているとさらに面白いのが『ピークアウト』である。Mリーガー以外にもモデルがたくさんいるからね。
というわけで俺が過去に感想でイラストを描かせてもらったキャラを中心に、ちょっと紹介してみようと思う。
庄田棒太郎こと庄田祐生プロは年始の震災で被災しながらも、精力的に活動している姿をTwitterで知ることができる。先日の若獅子戦では残念ながら敗退となったようだが、まだまだ若手。いずれユキトも吃驚の活躍を現実でも見せてくれることを期待したい。
安住瓜子お姉さんこと和泉由希子プロは、最近noteを書き始めた。1発目の内容が「ベテラン人気女流プロやし引く手あまたやろ……」などとろくに動向も追わずにぼんやりしていた俺にとってはなかなかショッキングだったが、記事をきっかけに仕事が入ったそうで何よりである。
レム様裏瀬レムこと一瀬由梨プロは最高だ。レム様が最高なので俺にはわかる。ここだけ現実と漫画の区別がついてないぞお前と君は言うだろうが俺は知らん。ほっとけ。
また、第3話で登場したオリ子ちゃん(仮称)にもしっかり上田まみプロというモデルが存在する。頻繁にnoteも更新されているので要チェックだ。
……このように、モデルが世に名が知られてナンボの麻雀プロである。追っかけ甲斐があるなんてレベルのものではない。さらにいえばここで紹介している以外にもモデルとなっているプロはいるし、何ならモデルであることを俺が把握しきれていない人もまだまだいるようだ。沼は深い。
『ピークアウト』はあくまで架空の世界の物語だ。しかし、そこに登場する麻雀プロたちは、現実で日々戦っている人々をモデルとしている。その事実は、「何者か」になろうと奮闘するユキトの戦いが決して絵空事ではないということを僕たちに信じさせてくれる。
それもまた、僕たちがこんなにも『ピークアウト』が大好きな理由であることに間違いない。
「ところでさー、不二子さんのモデルって誰ー?」
「それはね、藤田チェアm
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