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重松清「きよしこ」を読んで。


読み始めた次の日くらいに、NHKでドラマ化されるというニュースを知りました。


安田顕主演の単発ドラマ「きよしこ」の制作がスタート。3月20日21時よりNHK総合で放送される。本作は、重松清の同名小説をもとにした物語。同書に収められた「きよしこ」「どんぐりのココロ」「東京」の3編を中心に、少年時代から吃音を抱えている小説家・白石清が、温かい生活の中で1冊の本を書き上げるまでの姿が描かれる。

作者である重松清さんご本人が吃音であったということを踏まえ、それを知った、吃音の子供を抱える母親から「息子を励ましてやってくれないか?」っていう手紙をもらったけど、返事を返すことが出来ず、代わりに物語を書いていく・・・、ってところから始まるお話。


これねえ、私は読んでいて、とても悲しくなりましたねえ。

なんというか、主人公の境遇や起きたアレコレがかわいそう・・・、ってことはもちろんのこと、主人公の吃音の少年が世界に対して感じる悲しみや苦しみ、切なさが、子供だった頃の私の悲しみなんかに共振し、よみがえってきたというか。

別にね、過去のトラウマがフラッシュバックした、とか、そういうことではないんです。

子供の頃ってね、物凄く傷つきやすいじゃないですか?

知らない場所で迷子になっただけで、世界の終わりであるかのような孤独感や絶望感にとらわれ、すさまじい恐怖に包まれます。

今はね、知らない場所で迷子になったって、「すいません、ここどこでしょう?最寄りの駅はどのあたりでしょうかね?」って聞けばいいし、タクシーを拾って、家なり、近所の駅なりに乗っけていってもらえばいい。

そんなことで世界の終わり感なんて全く持たないし、実際、昨日、自ら知らない道を歩くことによって、小さな旅感を満喫してきたばかりです。

誕生日やクリスマスに欲しかったプレゼントと全然違ったモノをもらったとしても、今は、「これじゃねえしw」ってなるだけですが、子供の頃は身が削がれるような悲しみがありました。

自分が大事にしていたおもちゃやぬいぐるみを、「汚いから捨てた・壊れたから捨てた」って言われると、それはもう、比喩ではないレベルで身が削がれる痛みそのものでした。

そんなあの頃の痛み・悲しみ。忘れていた痛み・悲しみ。


物語は、主人公の少年が吃音になったきっかけのような出来事から、友達にバカにされること、言いたいことを言えないこと、わかってもらえないこと、両親に心配されること、大人に過剰に哀れみの目で見られることなど、多くの人が子供の頃に、それぞれなりに感じるような「悲しみの断片」が、「吃音の少年」という切り口から迫ってくるお話ですね。

もちろん、「心温まる物語」って風に感じる人もいるでしょうし、「そういう人もいるのねえ・・・。」って感じで教訓的にとらえる人もいるでしょう。

ただ、45才になってこの作品を読んで、私は子供の頃の繊細すぎて傷つきやす過ぎて、同時に、だのに周りの人間を無思慮に傷つけてしまっていたあの頃を思い出してました。

そして、「なんでああいう色んなことを、痛く辛く悲しいと強く強く感じ続けていた日々の感覚」を失ってしまったんだろうか・・・ってことを思いつつ、「いや、そりゃそうだろ、だってあのままじゃあ生きにくいもんw」ってことも思いましたね。


多分、重松清さんの作品を読むのはこれが初めてですが、とても良い作品でした。

自身、教師になりたいと夢見、早稲田の教育学部で教員免許も取った作者が最後に書いている文章がとても素敵で、基本的に物語の筋とも関係ないので、物語の内容を私のつたない理解とつたない文章で書き記すことより興味が引かれると思いますので、そこをご紹介させていただきます。


少年は、君と似ていただろうか。ぼくは、君になにかを伝えられただろうか。

いつか-いつでもいい、いつか、君の話も聞かせてくれないか。うつむいて、ぼそぼそとした声で話せばいい。ひとの顔をまっすぐに見て話すなんて死ぬほど難しいことだと、ぼくは知っているから。

ゆっくりと話してくれればいい。君の話す最初の言葉がどんなにつっかえても、ぼくはそれを、ぼくの心の扉を叩くノックの音だと思って、君のお話が始まるのをずっと待つことにするから。

君が話したい相手の心の扉は、ときどき閉まっているかもしれない。でも、鍵は掛かっていない。鍵を掛けられた心なんて、どこにもない。ぼくはきよしこからそう教わって、いまも、そう信じている。

~ 

きよしこは言っていた。

「それがほんとうに伝えたいことだったら・・・・・伝わるよ、きっと」



極めて読みやすい、難しい言葉のない短編が集まった物語なので、小学校の高学年くらい子でも(本好きな子なら中学年くらいでも)読める作品だと思います。

吃音の子にも、吃音の子を育てているパパママにも、そして、そうではないけど子育てをしている親御さん、学校の先生、対人援助をしている人にもオススメです。












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