♯35 日常で世界を変える(藤枝編)10月15日
自転車の旅は今日で3日目。1日目は、自転車で進むことが多く、2日目は店員と3時間ぐらい話をしていたなどとても濃い2日間を過ごしていた。今日もテントで寝るとなると思っていたよりしんどくなる。そろそろ、ベットで寝たいな。テントで寝て初めてベッドの良さに気づいた。夜空の星を見ながら寝るのは昔からずっと夢だった。けど、そんなものはただの理想論だった。いつものように当たり前にベッドで寝ることがいかに気持ちいか理解できる。ベットに触れた瞬間、柔らかなシーツが肌を包み込むことが彩音に抱かれているようか心地よさがあった。枕に頭を置いた瞬間、何もかも忘れる。ふわりとした感覚はドラッグのようなまどろみもあった。まどろみの中で、夢の世界へと誘われ自分の意識がなくなる。気がつけば夢の中というのが毎日だった。
中川「へぇー。おもしろそうなことしてんな?」
俺 「そうか?」
この前、どこかで聞いたセリフだった。
中川「ああ。興味あるよ、お前みたいなこと」
俺 「じゃあ、やればいいのに」
古谷に言われたことだ。
中川「俺みたいな奴には無理だよ」
俺 「そうか?」
中川「ムリムリ」
気がつけば、俺は田舎のある村に来ていた。俺がいるのは居酒屋だった。店内は、それなりに賑わっており、俺もその中の一人に絡まれたのだった。営業で身につけたスキルがあるため初対面でも緊張することなく話せる。
俺 「どれだけ頑張れるか自分でもわからないよ」
中川「そうだよなぁ。俺も毎日しんどいよ」
ジョッキに入ったハイボールを飲み干した。
俺 「凄い飲みっぷりだな」
中川「ああ。もう、お前俺と一緒に来いよ」
俺 「どこにだよ?」
かなり酔っているようだ。
中川「もう仕事も何もかも嫌になったんだよ」
俺 「どうした」
なんか中川もヤバそうだな。
中川「あー。もう眠いな」
俺 「寝るなよ、そこで」
中川は、ゆっくりと倒れ込む。おいおい、こんなところで寝るなよ。起き上がるには時間がかかりそうだ。
俺 「大丈夫か?」
もう返事すらできない。困ったなぁ、こんな見知らぬ土地で。店員は、忙しくてこちらの話に聞けないから何もできないでいた。とりあえず、俺のテーブルにきて長時間たったなまるいビールがグラスから伝わる。泡立ったビールが口の中に入っていく。喉を通り抜けた瞬間、麦とホップの香りが広がり、心地よい苦味を感じてしまっていた。とりあえず、店員がまわってくることを待つことにしていた。