♯31 日常で世界を変える(藤枝編)10月11日
チャリでいくか。それが俺の決意だった。そんなことしなくてもいいのに。いろんなことが脳裏によぎった。自分とは何なのだろうか?そんなことすらわからない。そんな俺が歩み出していた。午後3時。店内は所狭しと自転車が並んでいた。今まで見てきたことのない色や様々なデザインで俺を魅了させられた。その中でも、鮮やかな青色のなシンプルなデザインに目を取られた。その自転車に近づき、試しにまたがった。自分が想像していた以上にしっくりときた。
これが本物の自転車か。値段を見ると約15万。とてもじゃないけどフリーターが買うモノではない。俺は、自転車のハンドルを握り触り心地を確かめる。やっぱりいい。俺はいつのまにか目を輝かせながら、自転車に夢中になっていた。でも15万。そんな簡単に判断できるものではない。他の自転車にもひとつひとつ目を通してじっくり見ればいいものがあるじゃないかと思った。俺のお気に入りの自転車の横には、赤いスポーツバイクや白のマウンテンバイクなどたくさんある。その奥にもおしゃれなカゴ付きの自転車もあった。けど、自分にピンとくるかと言われるとそうではない。
やっぱりさっきのやつがいいとなってしまう。俺が迷っていることに気がついたのか、店主が後ろから「いいのありました?」と声をかけてきた。店長を見ると少し強面だった。一瞬、動揺したがすぐに切り替えて話しかけた。「あの、今度旅行行くんですけど、強くて安い初心者向けの自転車ってありますか?」店主はにっこり微笑んだ。「ここらへんかな」。店主の方には、俺がいいと思うのがない。ただ、とりあえず店主の説明は聞いておくしかなかった。ゆっくり頷いていたが、俺の心は見透かされていた。「本当に欲しいのはこれじゃろ?」。店長の指差す先には、さっきまで見ていた青色の自転車があった。すこし値ははるけど、この先ずっと乗れるいい自転車じゃよ。店長の声に耳を傾けた。しかし、15万は払えない。いくらいいからと言っても。
しょうがない。特別にサービスじゃ。店長はポケットからペンを取り出し値札に二重線をいれる。そして、その上から、10万と書きかえた。まさか、5万も安くなるなんて。いいんですか?俺の声にゆっくり頷いて反応する。申し訳ないです。俺は、頭をさげお礼を言った。どうやら、このバイクは店内でも人気商品のようで、今まで売ってこなかったそうだ。本当に乗りたい人に売ろうと決めていたみたいだった。