♯34 日常で世界を変える(藤枝編)10月14日
暖簾をくぐると、50代くらいの女性が俺の方を見つめた。
店員「いらっしゃい」
俺 「一人で」
俺は一人であることを告げた。
店員「そこのカウンターどうぞ」
俺 「ありがとうございます」
もう店内の客はほとんどいなかった。もう時刻は14時を過ぎていることも影響していた。
店員「これメニューになります」
俺 「はい」
受け取ったメニュー表には、3つしか記載されていた。俺は、すぐさま①の唐揚げ定食に決めた。店員はすぐさま俺が決めたことを理解したようだ。
店員「注文うかがいます」
俺 「えっーと。この定食もらっていいですか?」
メニュー表を指差した。
店員「唐揚げ定食でいいかい?」
俺 「はい」
ここの人気メニューだろうか?唐揚げ定食のところは、少し汚れている。
店員「野菜のドレッシングはどれがいい?」
俺 「このAのやつで」
定食の野菜にはドレッシングが選択できるようになっていた。
店員「チョレギドレッシングね」
俺 「お願いします」
すると店員は、厨房に向かって、唐揚げ定食をつげる。厨房にいた男性は急いで作り始めた。
店員「今日は、何で来たの?」
俺 「ここまで自転車で来ました?」
店員「こんなところを自転車で来たのかい?珍しいね」
俺 「そうですよね」
おそらくこのお店は夫婦で経営しているんじゃないかと思った。店員は机を拭きながら話を続けた。
店員「なんかしてるのかい?」
俺 「自転車で旅をしてまして」
店員「自転車で?」
俺 「はい」
ビックリしているが、手が止まることはなかった。
店員「おもしろいね」
俺 「どうなんでしょうね?」
店員「怪我には気をつけなよ」
俺 「ありがとうございます」
やはりこの店員さんは優しい。
店員「何歳?」
俺 「今、27歳です」
店員「仕事はどうしたんだい?」
俺 「最近やめました」
もう会うこともないし、自分のありのままを伝えることにした。
店員「おー。それは、何でやめたんだい?」
俺 「特に理由はないんですけど、もうやり切ったんでいいかなと思いまして」
店員「人生長いから頑張りなよ」
俺 「そうですよね」
これは、人生の先輩からのエールとして受けとることにした。
店員「なかなか人生は思い通りいかないからね」
俺 「この店は前からあるんですか?」
店員「20年前くらいかな」
俺 「長いですね」
店員「私たちにはこれしかないからね」
そんなことはないだろう。こんなところで店ができる人はどこでもやれると思っていた。