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文章を書くのが下手だ。【はじめてのnote】
文章がうまく書けない。自分には文才がないのだろうか。ネットを見ると面白い小説、文書が大量に見つかる。それと自分の書いた小説もどきを見比べると、死にたいような心持ちになる。
もともと、本が好きだった。小学校の自己紹介カードの好きな趣味欄に「読書」を必ず書き入れるほどには、好きだった。
読書は面白かった。
本を読むと、その作者の考えを透かして見ることができるからだ。
小説の内容は様々だ。ネット上で度々テンプレと揶揄される、いわゆるなろう系小説、ライトノベルですら、全く同じ内容の作品は二つとない。
作品を記すとき、必ずそこには作者の考えが現れる。
主人公はどんな人間で、何に悩み、何を目標に物語の中を進むのか。そして彼あるいは彼女を取り巻く環境は、障害はどんなものなのか。
作者が面白いと思うもの、憧れるもの、逆に理不尽を感じるもの。
何時間と紙と向き合い、何千と文字を連ねてでも「書きたい」と作者が思うものが、小説には詰まっている。
だから、小説を読むとその作者のことがわかるのだ。
何を考え、どう生きて、何に囚われているのか。大げさに言うと、作者が世界をどう捉えているのかが、滲む。
小学生の私は、そこに魅力を感じた。他人の世界の見方を、小説というファインダーを通して覗くことにハマった。
私は本を読み漁った。母親が図書館から借りてくる本を、片っ端から読破した。
そうして、面白い本つまらない本を読むうち、ふと思った。
小説を書きたい。
小さな憧れ。
早速、家に帰ってノートに自作小説を書いてみた。内容は、当時ハマっていたはやみねかおるに露骨に影響を受けた、怪盗もの。授業中、何度も妄想したので脳内シミュレーションは完璧。あとは書くだけ。
執筆前、その時の私には周囲の人々の賞賛の声と、その中心に自作小説と共に立つ自分の姿がありありと浮かんでいた。
意気揚々と鉛筆を持ち、
3行で挫折した。
意味をなさない支離滅裂な文章。対応しない主語と述語。頭の中ではあんなに面白かったストーリーが、文字に下ろすたびどんどん陳腐に、つまらなくなっていく。すぐに文章を消しゴムで消し、ノートを閉じた。
そうして私は筆を折った。これが1度目。
2度目は、私が高校生になってからだった。
高校1年、私は再び小説を書こうと思い立った。おおよそ、5年ぶりに。
きっかけは、父方の祖父の死だった。
その葬式、私は特に泣かなかった。
別におじいちゃん子というわけではなかった。祖父母宅は私の家から遠かったし、祖父は私が物心つく頃にはボケてほとんど会話ができなかった。
だから正直言って、葬式で泣けるほど、私は祖父との思い出を持ち合わせていなかった。
だが親戚や私の父は違うようで、出棺の時、みなでおいおい泣いていた。火葬場へ向かう途中、それまで晴れていた空に突然雨が降り、祖母は「天国からおじいちゃんの涙が降ってきた」と頬に涙し、数珠を鳴らして天を拝んだ。
私は居心地が悪かった。祖父の死に大した感慨を抱かない自分が、葬式に立ち会うことは失礼な気がして、読経と木魚の音を聞きながら、なんとなく申し訳なく思っていた。
火葬が終わり、祖父は小さな白い箱に入って、私たちは祖父母宅へと帰った。
長年連れ添った旦那に先立たれた祖母は、それでも葬儀のあの時以外、涙を見せず、私に祖父の遺品のいくつかを持たせ、なんなら近々私らの住む関東に行ってみたい、なんて話すらした。
そうこうするうち私たちは関西の祖父母宅から関東の住み慣れたわが家へと帰宅し、そしてそこで私は、祖父の遺品を初めてまじまじと見た。
私に分けられた形見の品は、古びた冊子。ベットの端に座り、何かと思って開く。
それは硬貨のコレクションだった。
年代別、金額別に綺麗に分けられ、記念硬貨を含めて全てコンプリートされていた。趣味だったのだろうか。
そういえば、祖父の昔の話を、私はあまり聞いたことがない。
親戚からは年老いてからの話しかされなかった。
なにか口にするのも憚られる過去があったとも思えないから、単純に話す機会がなかっただけなのだろう。
思えば私は、祖父がどんな人物だったのかほとんど知らない。年齢すらも、死んでから、享年〇〇歳と坊主が言っているのを聞いて、そこで知った。
彼がどこで生まれて、どう人生を歩んだのか。何歳で今の祖母と結婚し、どんな事をしていたのか。趣味は、嫌いな食べ物は、血液型は。
私は何も知らなかった。
私は祖父の孫なのに、何も知らない。
私も、死んだらそうなるのだろうか。
私が死んだら、私の歩んだ人生を知るものは誰もいなくなってしまうのだろうか。
どういうわけか記憶に残っている休み時間の雑談の内容。
宿題をやらなくてはならないのにスマホから手が離れない時の、あの吐き気がする焦燥感。
今でもフラッシュバックする、思い出すのも恥ずかしい黒歴史。
第一志望に合格した、その帰り道で親と食べた、高級なうどん屋の天ぷらの味。
そして、これから先経験するであろう数多の挫折、あるいは成功、そして取るに足らない出来事。
それらは全て、私が死んだら忘れられてしまうのだろうか。忘却の彼方に私の人生は消え去り、後には「私が存在した」ということしか、ただそれだけしか残らないのだろうか。
そう思うと急に怖くなった。死ぬことが、忘れられることが。
忘れられたくない、と思った。私が何を考え、どう生きたのか、忘れられたくない。
私は考えて、そして、閃いた。
小説を書こう。
小説には作者の考えが現れる。小説を通して、自分の世界の見方を公開すればいい。
自分の人生の全てを小説に注ぎ込んで、それが1000年後も読まれる名作になったなら、その小説を通して私の気持ちが1000年生きられるかもしれない。
私の人生はこの小説を書くためにあった。そう言えるほどの小説を書けたなら、私の人生は消え去らないのではないか。
早速二百字詰めの原稿用紙を買い、執筆を始めた。
当然、うまく書けない。だが、今度は挫折しなかった。最初からうまく書けるはずがない。そう言い聞かせ何度も書いた。5,000字の原稿用紙のノートを二冊書きつぶし、それからはパソコンやスマホで小説を書いた。
物語はなかなかできなかった。
冒頭をうまく書けなかったり、設定ばかりがごちゃごちゃして起承転結が消えていったり、偶然開いたネット小説サイトで、自分が書こうとしていたのと同じような話が、自分より面白く書かれていたり。
その度自信を喪失し、作品を消し、また1から新たな話を考える、というのを繰り返した。
しかし、ある程度纏まった小説が、ようやく出来上がった。何度も推敲を重ね、内容も悪くない出来。されば、と勇気を振り絞り、ネットにその小説をアップした。
結果は、閲覧100、いいね7。
ショックだったと言えば嘘になるが、まあ、予想はしていた。有名YouTuberも、初期は一桁再生だった、なんて話もよく聞くし、そんなにうまくはいかないだろうなとは思っていた。むしろ7人もいいねしてくれただけ光栄だ、と。
しかし、問題は閲覧数やいいねの数、それ自体ではなかった。
私が精神的にこたえたのは、少し別のところだった。
私は小説を書くにあたって、ネット小説をたくさん読んだ。面白いものもあったし、全くつまらないものもあった。
まだ私の方が面白いと思うものも。
しかし、その私がつまらないと断じた小説のほうが、閲覧もいいねも上だった。
読み返してわかった。
私が下に見ていた小説よりも、私の書いた小説もどきの方がつまらなかった。
自分より下手だと思っていた相手が、自分より遥かに小説が上手いとわかった時。
私は耐えられなかった。
そして筆を折った。
これが2度目。
こうして私は小説家への道を諦め……
なかった。
結局筆を折ってから一ヶ月で、私はまた小説を書き始めた。
相変わらず文章は下手だし、よく自信を無くして作品を消しもする。いまだに完結した話は一話もない。
だがなんとなく書いて、もう2年になる。
小説なんか書くもんではない。
疲れるし、時間かかるし、ヘコむ。
小説は読むのに限る。その方が万倍楽しい。
だが、私はどういうわけか小説を書いている。今のところ1000年残る名作はおろか、まともに完結した物語すら一点もない。
だのに小説を書いている。
今、文字を打っている。
こんな愚痴とも自分語りともつかない内容の文章を、睡眠時間を削って打ち込んでいる。
どうしてだろう。
あるいはまだ憧れているのだろうか。子供の頃、図書館に並ぶ文庫本を見て、小説を書きたいと思った、あの時の感情を。
あるいはまだ恐れているのだろうか。自分が死んだあと忘れられるのが。その怖さに耐えきれず、私は現実を見た後も未練がましく、公開するわけでもない小説や、こんな文章を書いているのだろうか。
あるいは……ただ単純に文章を書くのが、物語を考えるのが、好きなのだろうか。
わからない。もしかすると数ヶ月後には小説に飽いて別の趣味を見つけているかもしれない。
いい加減文才のなさに嫌気がさして、今度は永久に筆を折るかもしれない。
ただ……今のところは、私は小説を書くことをやめないつもりだ。
おそらく。たぶん。
最後に。
もし、小説投稿サイトで、面白くない作品と出会っても。
できれば最後まで読んでみてほしい。
小説を、文章を書くということは、意外と難しくて手間なのだ。
そしてもし、少しでもいいなと思う作品を見つけたら。
気軽にいいねやコメントをしてあげてほしい。
それを書いた作者は、きっとあなたが想像する何倍も、何十倍も喜ぶはずだがら。