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誰かに受け取ってもらえる幸せ

会計クラスタの片隅で虚空に向かってつぶやいているぶるーどらごんと申します。このアドベントを主催くださっているけいたろうさんとの(多分)初絡みがこちら。

…とっても微笑ましいですね(しろめ)。

25日間の締めくくりとして、少し会計から離れて(ちょうど私も会計クラスタといいながら、今の本業は会計ではないのです)、「語ること」と「受け取ること」について記してみます。(ええんかな。)

あいたくて ききたくて 旅に出る」という本をご存知でしょうか?
1934年生まれの著者が東北の集落を1970年代以降に巡って聞き取った民話とそこに生きた人々の声をまとめたもので、血の通った一人一人の人間が、ままならぬ日常に翻弄されながらたくましく生きてきた様が伝わってきます。

民話を語ってくれた人々は祖父母より少し上、聞き取りを始めた当時の著者が(この本を買った頃の)自分と似た年代であったため、祖父母のことを思い出しながら妙なタイムトラベルをした気分で読んでいました。

とても好きな箇所を二つ引用してみます。

耳ふさがれたまま風化するには、惜しんでもあまりある生きた人間の足跡がにじんでいる。切れば血が吹き上がる切実な現実に彩られた世界がある。わたしはこうした話を捨てがたく思う。

小野和子「あいたくて ききたくて 旅に出る」p56

民話は「むかしむかし」を語ることではなく、語り部という特別な人によってだけ語られるものでもなく、あなたもわたしも語り手なのだということを訴えていて心に残る。
(中略)
いまこうして生きているあなたやわたしの暮らしがある限り、今日も明日も湧くように生まれ続けているのが、命ある民話の姿なのではないだろうか。

同)p186, 187

人の営みがある限り、絶えず生まれ続ける、けれどそれは新聞に載るような事件、あるいはのちの歴史書に載るような政治的な決定等とは異なり、聞く人がいない限り消えていってしまうもの。民話とはそんな性質のものです。


さて、ここで話を会計に戻してみます。会計の目的は、企業の経営成績や財政状況を記録・管理し、社内外の利害関係者へ報告することです。会計情報は基本的には数字で捨象されていますが、数字の背景には紛れもなく人間の営みの積み重ねがあります。それを記録し、短信や有報として、あるいは決算公告として公表する。会計担当者は「歴史書」を編纂し続けているとも言えます。

こう捉えると、会計クラスタは「歴史書」の編纂者の集まりです。司馬遷のように名前が残る人もいますが、その「歴史書」においては代表者とCFO以外の名前は表に出ることは普通ありません。そのため、編纂者たちの「人間としての営み」…社内での悪戦苦闘や複雑化しつづける制度への対応の苦労、会社を離れた家庭人としての生活などの声はあまり顧みられることはありません(証券コード6594の会社のようにやんちゃすぎる創業者のおかげで、公的な記録からも容易にその苦労が想像できる会社も間々ありますが)。実際的な理由は編纂者たちの人間としての営みは財務報告の目的に照らしたときにノイズでしかないからでしょう。短信や有報に「編集後記」がついて、各担当者の怨嗟の声や苦労話が垂れ流されて…(思いつきで書いたけど、あったらめっちゃ読みたい。)

…すみません、話が逸れました。
「歴史書」編纂には多大な苦労がかかっていますが、日々奮闘している担当者の声は、そこになじみの薄い人が聞いて理解を示すにはあまりに「マニアック」なものになってしまい、顧みられにくいものになっている気もしています。さらに、場合によっては同じ社内・部門にいても、立場の違いによって自分の思いが理解されないことも多々あるでしょう。そんなときに覚える断絶と痛みはいかほどのものか。

そう考えると、たとえ匿名であっても言葉の端々から日々職務に向き合って培った専門性を感じさせる内容を発信する人がいて、それに対してリプや引用コメント、RP、いいねなどを相互にしあう仲間がいることがいかに心強くありがたいか、そんなことを思わずにはいられません。このACC企画は、お互いを聞き合う仲間として、「生まれ続ける命ある民話を捨てがたく現実に残す試み」といえるのかもしれませんね。

…よくわからない文章になってしまいましたが、最後に「聞かれること」が語る人にとって大きなギフトとなることを感じさせる箇所を引用して、締めとさせてください。

昔話を語った人が、「たった3回」会った著者に形見を渡した際の言葉です。

「子もないし、家もない。いい着物一枚持っているわけでもない。おれ、死んでもなにも残らないなあと思っていたが、あんたが来て、おれの昔話を一生懸命に聞いて書いていったのがうれしい。そのお礼だ」

同) p129

それではみなさん、良いお年を!

引用 小野和子(2019) あいたくてききたくて旅に出る PUMPQUAKES


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