愛とは関心を持って相手と関わること/株式会社やんかわ商店/袰川咲栄
株式会社やんかわ商店の紹介
株式会社やんかわ商店は、テレビ番組の企画・制作、インターネット映像配信、CM制作などを手掛ける映像制作会社です。「笑顔の『素』を皆さんの『もと』へお届けします」をモットーに、視聴者に夢と感動を与える映像を作り続けています。若手の育成にも力を入れていて、将来のディレクターを目指す20代のスタッフが多く活躍しています。
アナデューサー時代
ー本日はお時間をいただきありがとうございます。まず、袰川さんのご経歴についてお聞かせください。どのような経緯で映像制作業界に入られたのですか?
こちらこそ、ありがとうございます。やんかわ商店の袰川咲栄です。今日はよろしくお願いいたします。私は京都府京都市出身で、元々は京都のテレビ局で番組を制作していました。私が担当していた番組は、とにかく少ない経費で制作することが求められていて「制作費40万円で番組作れ」経費削減型テレビ番組を担当することになりました。なので、自分でカメラを回して、取材先でのレポートもしてというように、アナウンサー兼プロデューサー(=アナデューサー)として仕事をしていました。
その後はフリーランスに転向し、がん治療の最前線を取材する仕事のオファーがありました。3人に1人ががんになり、毎年検診を受けているのに余命宣告を受ける社会現象が背景にある中、母をがんで亡くした経緯があり、お受けしました。当時のライターの仕事って、電話をかけて話した内容を録音していたんです。でも、その録音したものが本物なのかサクラなのかって、判断できない。実際、分からないじゃないですか?それを本当かと疑う人もいたんです。そんな時に、私がテレビ出身で自分でカメラを回せるということもあり、薬品会社などに関係していない立場としてがん治療の最前線を取材してほしいと言う話になりまして、世界各国、全国津々浦々、がん治療がどういう事情になっているのかを取材して本にしたんです。これがインパクトがあったようで、特に「がん検診革命」が多く売れました。その後も結構オファーをいただきました。
ーアナデューサーの経験が、がん治療の取材でも活きたのですね。
そうですね。
会社設立のきっかけとなった出会い
ーやんかわ商店を設立するきっかけを伺ってもいいですか?
大きな転機は、夫である袰川斉(ただし)との出会いでした。彼はテレビ番組の制作会社でディレクターとして活躍していました。周りからの評価も高く引っ張りだこのディレクターだったんです。ただ、会社に所属して番組を制作するのは、マネージメントが主流となり、現場に行けなくなったりして、作品が作りたい彼は悩んで独立を選択しました。
アナデューサーをやるぐらいテレビが大好きな私と、やり手のディレクターだった袰川斉と、もう一人テレビで人生が救われたという経験を持つメンバーの三人が小さな一室に集まり、番組制作を始めたのが、やんかわ商店の設立のきっかけです。
「とにかく楽しいことをやろうぜ」というのを一番にして無我夢中で制作活動に取り組んでいたら、どんどんお仕事をもらえるようになってきて、元々は関西を拠点にしていたのですが、次第に東京からのオファーが増え、2002年には東京に進出しました。
番組制作ってどんなことするの?
ー設立にはそのような経緯があったんですね!番組制作って一般の人には身近じゃないと思うのですが、どんな環境でどんなことをしているのか教えていただけますか?
もちろんです。私たちはテレビ番組の企画・制作、インターネット映像配信、CM制作など、地上波からネット配信まで幅広いメディアに対応した映像を制作しています。お仕事は、広告代理店経由のものもありますが、テレビ局から直接オーダーをいただいてるものが多いです。その中で我々はどういう役割をしてるかというと、現場監督みたいな存在。
テレビ局への企画提案から始まり、「このコンセプトの番組にしましょう」というようなオーダーが来たら、企画に合わせてメインのキャスティングやご出演者の方にオファーを出したり、企画会議や当日の撮影から編集、納品まで一元管理をするのが仕事です。番組で使用する小道具や美術品の多くは、専門のチームが手作りしています。大阪に制作チームがいて、そこで番組や企画に合わせて自分たちで制作しています。
ーすごいですね!小道具なども自社で制作しているのですね!
そうなんです。全部外注していると予算内に収まらなくなるんで、なるだけ自分たちで作っています。
考え方を変えた仲間の死
ーその後も順調に会社は成長していったのですか?
そうですね。でも、法人化して8期目くらいの時は大変でした。売上は右肩上がりの成長を見せていたので、「余裕ができたからどんどん人を雇おう」ということで急速にスタッフを増やしたんです。そしたら、急な雇用で組織としての仕組みの整備が追いつかずに労務問題や人材育成の課題が次々と噴出しました。
そんな中で大きな出来事がありました。ある社員が体調を崩して、1週間ほど咳き込んだりしていたのですが、そこから症状が急激に悪化して亡くなってしまったんです。私は、彼が体調を崩していることを知りませんでした。周りはそのことを知っていたのに、「体調悪いみたい」というぐらいで、そこまで気に留めていなかった。本人も「大丈夫」と言って私に報告をしなかったと言われました。
これは、非常にショックでしたね。一緒に働く仲間が体調が悪いことを大事と捉えていない、そんな組織にしてしまっていることに大きな責任を感じました。「笑顔の素を届ける」と言っているのに、こんなに人に無関心ではダメだ。これはなんとかしないといけないと思い、そこからいろいろと改革に乗り出しました。
愛の反対は無関心
そこで何より重要だと考えたのが、普段のコミュニケーションです。愛の反対は無関心と言はれていますが、「相手に関心を持つ」こと。これが全てのコミュニケーションのスタートだと思います。その為にも、自分自身がメンバーにもっと関心を持って関わることを意識しました。この業界は早朝や深夜の仕事も多く、メンバーは自分が担当している番組に合わせて働いています。その為、どうしても直接会う機会が減ってしまう。そこで社内のコミュニケーションを取るためのシステムを導入して、細かいことでも入力したり報告をするようにしました。
最初は反発もありました。入力や報告は面倒だとやらない人もいましたし、たった一言だけしか書かれていない、とても報告とは言えないレベルのものもたくさんありました。それでも、一人ひとりと向き合うと決めて、メンバーからのメッセージに対して「どうすれば相手の為になるか?」を真剣に考えて一つひとつ返信しました。とにかく自分が一生懸命やり続けることで、みんなに想いを伝えたかった。私たちが何を大切にしていくのかを伝えたかったんです。
経営理念に込めた想い
ーそれが現在の報告文化に繋がっているのですね。他にも取り組んだことはありますか?
自分が学んだことで少しでも良いと思ったことは取り入れて実践したし、社外での学びにも力を入れました。そんな中で、自社の経営理念を改めてつくることにしたんです。半年間かけて自分とメンバーと向き合い、合宿なども行いながら作った理念がこちらです。
経営理念
私たちは人々の人生に彩りを加え豊かにします。
私たちは心を揺さぶり夢と感動を与える映像を創出します。
私たちは関わるすべての人と物、時間を宝として大切にします。
そして、この理念を実現するための行動指針として、以下の8つを掲げています。
愛:全てのことに愛を持って行動する
信じる:精神誠意してきたことは裏切らない
相手:どんな時も相手がいることを忘れない
良い心:純真な自分の心で感動することが大切
経験:たくさんの経験の中から自分らしさが生まれる
伝える:伝わるまでとことん創意工夫すること
学ぶ:才能よりも学び上手な人になる
自発性:自らが発想し、自ら進んで取り組む
これらの行動指針を日々意識できるようにメンバーに伝え続けています。
若手育成と健康管理の取り組み
ーリーダーが本気になって伝え続けることが大事なんですね。
そうですね。私たちは夢と感動を創出する素敵な職業と自負しています。ここ最近では、若手の採用に力を入れていて若いメンバーも増えてきました。将来はディレクターになって自分の番組を作ることを目指す学生も入社しています。だからこそ、特に新人AD(アシスタントディレクター)の育成には注力していて、新人ADが業務を理解しやすくなるように、現場で培ってきたノウハウを凝縮したマニュアルを作成したり、新人研修プログラムも充実させ、実践的なスキルを身につける機会を提供しています。
また、社員の健康管理の為に保健士さんに相談ができる仕組みも整えました。体の不調に関する相談や、食生活の改善など、その人にとって最適なストレスケアを保健士さんが提案してくれます。毎月Zoomでの健康指導や一対一で保健士さんとの面談を実施して病気の予防やセルフケアができるようにしています。
これからのやんかわ商店
ー最後に、今後のビジョンや目標について教えてください。
やんかわ商店はこれからも「笑顔の『素』を皆さんの『もと』へお届けします」というモットーを大切にし、見ている人に夢と感動を与える映像を作り続けていきます。また、新しいメディアやプラットフォームに対応しながら、多様なコンテンツを提供していきたいと思います。具体的には、地域密着型のドキュメンタリーや、若手クリエイターの育成にも力を入れていく予定です。さらに、社員一人ひとりが成長し続けられる環境を整え、クリエイティブな発想を持ったスタッフと共に、より多くの人々に感動を届けることが目標です。
ー本日は貴重なお話をありがとうございました。
こちらこそ、ありがとうございました。
今回のスタディツアーの学び
やんかわ商店さんを訪問して感じたのは、制度や仕組みも大事ですが、それよりもどう相手と向き合うかが重要だということです。普段から「相手に関心を持つ」「相手のことを想ってコミュニケーションを取る」これを愚直に実践し続ける袰川さんの姿勢は本当に素晴らしいと感じました。
主催:ボーダレスキャリア株式会社