誰もが挑戦できる社会をつくる/株式会社D&I/小林鉄郎
若者応援企業を巡るスタディツアー、今回は株式会社D&Iを訪問。代表の小林さんにお話を伺いました。
株式会社D&Iの紹介
株式会社D&I(ディーアンドアイ)は、2009年8月に設立、東京と大阪に拠点を構え、HRソリューション事業を展開しています。主なサービスには、障害者専門の職業紹介「DIエージェント」や在宅雇用支援「エンカク」、教育支援サービス「ワークイズ」などがあり、障害者の雇用促進と教育を通じて多様な人材の活躍を支援しています。また、障害者雇用コンサルティングや「BABナビ」「ワクサポ」などのサービスも提供、潜在労働者層の戦力化プラットフォームを構築し、日本の少子高齢化による労働力不足の問題解決に貢献しています。
杉本さんと一緒なら
ーこんにちは!まずは、小林さんのご自身の事についてお話を伺えますか?
こんにちは!今日はよろしくお願いいたします。小林鉄郎です。現在39歳で、石川県金沢市出身です。関西の大学に通い、社会人になってからはずっと東京で、今は家族と神奈川に住んでます。趣味はゴルフとサウナです。
ーどのような経緯で障害者雇用支援に携わるようになったのですか?
新卒で入った会社は50人程度の所謂ベンチャー企業、将来は起業を考えていたので、若いうちに力をつけたいと思い選びました。入社後、障害者雇用の事業を立ち上げるチームに配属されたのがきっかけですね。その時の上司が、後のD&Iの創業者になる杉本さんです。3年目の時には、10人程度まで事業は成長したのですが、リーマンショックの影響で会社が倒産寸前に。その後会社を辞めて杉本と一緒に会社を立ち上げました。
ー会社を辞めて起業する際は不安はありませんでしたか?
杉本が代表で僕が取締役として会社をスタートしたのですが、起業当初は「障害者領域の事業はビジネスとして成立しない」と周りから言われる事は多かったですね。でも不安はなかった。それぐらい杉本のことは信頼していたし、杉本も自分のことを信頼してくれていたと思います。会社を経営して行く中でいろんな壁や大きな困難はありますが、自分たちが一緒にやれば絶対に乗り越えられると考えていました。
急拡大の代償と学び
ー実際に会社経営をしてみてどうでしたか?
やっぱり実際やってみるといろんなことが起こりますよね。以前、会社が急拡大した時があったんです。社員30人ぐらいから、1年間で一気に20人ぐらい増やして50人ぐらいになった。メンバーが20人ぐらいの頃は僕もプレイヤーとして現場でみんなと一緒に働いていたので、夜遅くまで仕事やって、終わったらみんなで「いくぞー!」と飲みに行って、そのまま朝までカラオケして、次の日は「頭痛えっ…」て言いながら仕事するみたいな感じだった。その頃は自分たちが大事にしていることがちゃんと分かってるから、個々の判断もそんなにぶれないんです。
だけど50人くらいになると組織内に階層ができて、僕も直接関わらないようになって、そうすると、現場で起きたことで「あれ?」と思うことが多くなった。大事にしているものがズレてきている感じがして、結果的に当時いた社員が次々に辞めていくということが起こりました。そこに追い討ちをかけるようにコロナで業績も悪化と大変状況が続きました。
その時に僕らが思ったのが、「分かってもらえていない、伝わっていないのは経営者の怠慢だ」ということ。自分たちが大切にしていることを言葉にして伝え続けることが必要だと思い、D&Iのバリューとスピリットを作り明文化し、とにかく伝えづけることを徹底的にやりました。それによって再びワンチームになることができて、このピンチをなんとか乗り越えました。
自分がこの会社を背負うという覚悟
ー杉本さんのお話を伺ってもいいでしょうか?
はい、もちろんです。杉本の訃報を聞いた時のことは、今でも鮮明に覚えています。当時杉本は出張のため単身で北陸へ行っていました。翌日のお昼ごろ、現取締役の谷口から連絡があり、「今どこですか?大事な話があるので、ビルの下で待ちます」と言われました。嫌な胸騒ぎがして足早に帰社したところ、いつも笑顔の谷口の目には泣いた形跡があり、「谷口自身に何かあったのでは」と不安になって次の言葉を待ちました。すると彼の口から「杉本さんが亡くなった」と伝えられました。
この瞬間、本当に時間が止まったかのような感覚でした。あまりにも急で予想もしていなかった言葉に、最初は何を言っているのか理解できませんでした。ただ、谷口の表情からは嘘をついているようにも見えず、「これは現実なんだ...」と思いました。そして、悲しみの感情が込み上げてくる間もなく、「今この瞬間から、杉本さんの代わりに僕が意思決定をしないと動かない会社になってしまったんだ」と、直感しました。
ーご自身が代表をやることに迷いはなかったんですか?
全く予想もしていない急なバトンタッチだったし、会社最大のピンチだと思ったんですけど、自分がやらないという選択肢は一切なかった。それよりは「僕がやるんだ、あとはどうやるかを考えるんだ」という思考しかなかったですね。同じトップの下で10年以上No2をやり続けるって結構珍しいらしいんですよね。先輩経営者たちからは「なんで小林くんは、杉本さんの下でずっとやってんの?独立しないの?」とか言われることはありました。でも、杉本が亡くなって目の前からいなくなった時に「これは天命だな」と思いました。社会人になってからずっと彼と一緒にいて、いろんなことを見て、いろんなことに挑戦してきた。そうして一緒に作り上げた自分たちの想いを世の中に届ける。そのために、僕は杉本と一緒にやってたんだと思ったんです。
代表としての新たな挑戦
ー小林さんが代表になられてからのお話を聞かせていただけますか?
そうですね。まずは、やっぱりトップとNo2って似て非なるポジションだなと自分がやってみて思いますね。杉本はピンチの時ほど「大丈夫だよ、なんとかなるから」と笑って周りを安心させてくれて、彼についていけばきっとなんとかなるだろうなと思わせてくれる。人間力の塊のような人で絶対の安心感がありました。だけど、自分がトップになった時に同じようにはできない、 そんな人間力ないって思いましたし、自分達の想いを世の中に届けるためには、メンバーがトップについていくよりもビジョンについていく、そんな会社にするべきだなと思ったんです。
とは言え、トップが自分の言葉でメンバーに語れるかは大事なので、自分が人生をかけてやりたいこの想いを自分の言葉で伝える為にはどうすればいいかを考えました。そして決めたのが、ビジョンを再策定して、会社の方針や中長期計画を立ててメンバーに示すこと。でもすぐにできることではないので、「整理して考えたいんで、半年間時間をください」とメンバーにも説明して半年かけてビジョンと中長期計画を作りました。あの時は、メンバーも不安だったかもしれませんが、今も当時のビジョンや大きい方向性は変わらずに会社も進んでいるので、あの半年間は大事な時間だったなと思っています。
日本の障害者雇用の現状
ー今後の展開についても伺えますか?
もちろんです。現在日本では、企業は従業員の2.5%に相当する人数の障害者を雇用することが法律で義務付けられています。2026年にはこの割合が2.7%に引き上げられる予定です。しかし、国際的に見ると、この雇用率はまだ低い水準にあります。例えば、ドイツやフランスでは法定雇用率が5%から6%とされています。現状、企業からはこの義務に対する不満の声も少なくありませんが、障害者の人口は増加しており、今後も雇用率が上がることが見込まれています。
D&Iの事業と提供するサービス
ー具体的には障害者の雇用状況はどうなっているのでしょうか?
日本では、人口の約9パーセントにあたる1,160万人が何らかの障害を持っていますが、労働人口における就業率は23パーセントと低い水準です。この現状を変えるべく、D&Iは、採用支援、雇用支援、定着支援の3つの柱でサービスを展開しています。採用支援では、人材紹介サービス「D&Iエージェント」を通じて障害者と企業のマッチングをサポートしています。また、求人メディア「BABナビ」を運営しており、業界最多の障害者向け求人を掲載しています。
雇用支援では、テレワークを活用した障害者雇用を推進しています。特に「エンカク」というサービスでは、企業が在宅で働ける障害者を雇用できるようにサポートしています。企業内での業務創出支援やオンボーディング支援を行い、障害者が戦力として活躍できる環境を整えています。また、定着支援では、精神保健福祉士などの資格を持つカウンセラーが定期的に面談を行い、企業と障害者の相互理解を深めることで、定着率を高めています。これにより、離職率が低下し、障害者が長期にわたって活躍できるように支援をしています。
障害者が自立して活躍できる環境を提供し続ける
ーD&Iのサービスを利用しているお客様について教えてください。
弊社のサービスを利用するお客様は、主に大企業様が中心です。特に法定雇用率を満たすために障害者を雇用したいと考えている企業が多いです。具体的には、テレワークを活用した障害者雇用を希望する企業や、障害者の定着支援を必要とする企業が多く見られます。また、地方の障害者を都市部の企業がテレワークで雇用することで、地方創生に貢献する取り組みも行っています。
業界としては、製造業やサービス業、IT業界など幅広い分野の企業がサービスを利用しています。特にIT業界では、テレワークを活用した障害者雇用が非常に有効であるため、多くの企業が関心を寄せています。また、企業だけでなく、官公庁や地方自治体も弊社のサービスを利用しており、障害者雇用のモデルケースとして評価されています。これからも、多様なニーズに応えるために、障害者が自立して活躍できる環境を提供し続けることを目指します。
ー企業だけでなく行政もとも連携して障害者が自立して活躍できる環境づくりを行っているのですね。小林さん、今日は貴重なお話をありがとうございました。
今回のスタディツアーの学び
今回D&Iさんを訪問して感じたのは、社内ですれ違うスタッフの方が明るい表情で挨拶をしてくれること、オフィス内も見せていただきましたが、皆さんがいきいきとした表情で働いているのが印象的でした。「誰もが挑戦できる社会をつくる」ということを、きっと一人ひとりが本気で目指している。それが皆さんの表情に現れているのだと思います。
主催:ボーダレスキャリア株式会社