中国語は屈折語である【論文】
●序文
筆者の恋人だった、川上とも子先生が亡くなって、十二年が経つ。
声優と歴史言語学の二刀流だった。
恋人になったキッカケは、立花高校にプールと水泳部がなかったからであった。
福岡市東区にある母校である。
福岡県の教育行政が、高校生の体験格差を放置してきた。
その結果が恋につながった。 詳細はいずれ明らかにする。
この論文は川上先生の学説を基に書き上げた。
それでは本題に立ち入ろう。
『中国語は語形替変が乏しい孤立語』
この見方が定説となっている。
しかしこれは誤りである。
「孤立語」は結果論でしかない。
昔の中国語は屈折語であった。
語形替変が豊富な言語である。
そして現代の中国語は「無意識の屈折語」である。
【中国語に潜む語形替変】
意識こそしないが、普通話の中にも語形替変が、多く残っている。
中国語の語形替変には、いくつか特徴がある。
(1)音韻交替で派生語をつくる。
日本語の用言活用、英語の曲用とは別物である。
(2)主に声調素の交替で現れる。これを変調構詞と呼ぶ。
(3)中心義から派生義を展開する系列語がある。これが音韻交替を担っている。
一つの語源から派生した、複数の形態素を「系列語」と呼ぶ。
系列語に共通する潜在的意味、基軸となる意味を「中心義」と呼ぶ。
語形替変で、中心義から分かれた意味を「派生義」と呼ぶ。
(4)派生の種類が極めて多様である。
日本語の用言活用に比べて不規則である。
しかし時制の変化はない。
(5)語形替変の元になる形態素を「形態基」と呼ぶ。
中国語は悠久の歴史を辿ってきた。
必然の結果として、昔とは意味が変わった言葉が多い。
形態基と派生語の意味が、大きくずれた系列語が多い。
現代中国語には一音節一形態素の原則がある。
声調素の対立が形態素を区別する、単音節声調言語である。
語源上のつながりがない、無関係の形態素を声調素が区別する。
この見方がある通説となっている。
しかしこれも結果論に過ぎない。
中国語の声調素は元々、音韻交替の標識だった。
声調素の変化が、そのまま語形替変になっていた。
声調素の起源は形態音素である。
一つの形態素から異なる形態素を派生させる音の単位を、形態音素と呼ぶ。
合成とは違う造語法である。
昔の中国語には、声調素交替で、造語する規則があった。
これを変調構詞と呼ぶ。
そして現代の普通話にまで、多くの変調構詞が残っている。
話し手が意識していないだけである。
これから普通話に潜む、変調構詞を解明する。
【単語の選定基準】
単語の意味を比較して、変調構詞を認定する。
次の条件で、分析する単語を選ぶ。
(1)中国語普通話の単語である。方言詞(方言特有の単語・形態素)は除く。
(2)自立語である。単独で文節になる言葉に限る。
(3)単音節語である。
普通話の単語は複音節が大半だが、形態素単位では単音節が基本だからである。
(4)/-n/-ŋ/の音節末子音がある。
中国語では鼻音韻尾がある音節を陽韻と呼ぶ。
これが音節の典型となっている。
(5)口語で単用する自由形態素である。
【普通話の声調】
中国語普通話には四つの声調がある。調形は次の通り。
陰平声=高平調
陽平声=昇調
上声=低平調
去声=降調
【▼変調構詞第一話】
声調差を除いた音節型ごとに分析を進める。
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【man音節型の声調交替】
口語普通話のman型音節には、次の単語がある。
(1)瞞man陽平声
語義:動詞「真実を}隠す」。
(2)満man上声
語義:形容詞「満ちている」。動詞「達する、満ちる」。副詞「たいへん、非常に」。
(3)慢man去声
語義:形容詞「速度が遅い、時間がかかる」。動詞「遅らせる」。
【man音節型の意味展開】
瞞と慢は「満」の派生語である。満は「瞞」「慢」の形態基に当たる。
満の系列語を貫く中心義は「範囲いっぱい」である。
(1)瞞は「範囲いっぱいに隠す」発想である。
(2)慢は「時間が範囲いっぱい」の発想である。
ここから「時間がかかる」→「遅らせる」の流れで意味を展開した。
【結語】
口語普通話のman音節型にある自立語はすべて同源語であった。
満・瞞・慢は変調構詞=音韻交替=語形替変で区別する系列語である。
大まかに捉えると、満は空間動詞、瞞は心理動詞、慢は時間動詞だから、下位類の品詞転換である。
man音節型の声調対立は、系列語を区別していた。
孤立語と信じた中国語学習者は驚くだろう。
しかしこれは、ほんの一例に過ぎない。
次回「変調構詞第二話」に続く。
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