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自分の中にあるものしか現れない

日々読書₋教育実践に深く測りあえるために

宮沢章夫『演劇は道具だ』理論社、2006年。
 
 本書は、演劇のことだけでなく、人そのものについて考えることができます。細かい演技テクニックが書かれているのではありません。演劇の力をもとに、からだのことや人とのかかわりかたを示した本です。
 たとえば、病気のためにベッドでずっと寝ている役でも、ずっと鉄棒にぶらさがっている役でも、俳優は舞台に立っていると言います。舞台に立つとは、もたれかかることではありません。演出家にもたれかかっていれば、安心していられるが、危険でもあると本書は指摘します。なにものにもたよらず、俳優はただそこにいればいい、そこにただ立っていればいい。「なにかしよう」ということではありません。かっこつけようとか、いいところを見せようなんて、そんなことはゆるされないのです。ただ立つ。ただのあなたがそこにいる。もともと、あなたのなかにあるものしか舞台の上にあらわれない。立つということは、そういうことではないかと問いかけてくるのです。
 おもしろかったのは、何周も自己紹介、うその自己紹介、他人を取材して紹介するという三つの自己紹介です。たとえば、何周も自己紹介をやってみると、なにを話せばいいか、もう、みんなわからなくなってゆく。どうでもいいことを話しだす。そのどうでもよさと、わからなさこそが、またべつの「ふれる」を生みだすというのです。言葉を使いながら言葉からはるかに遠い、人とのコミュニケーションが「ふれる」ということなのだと本書は指摘していました。
 

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