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学習形態の交互転換

 大学院の講義では、「学習形態の交互転換」も検討した。
 授業のプロセスを「まず、ひとりで考えて、次に考えたことをペアやグループで出し合って、最後に全体で発表し合う」と構想している指導案を見ることも多い。「個 → ペア・グループ → 全体」と授業におけるコミュニケーションの形式を展開させていく。子どもたちがひとりで考えたことを、すぐにみんなの前で発表させないで、ペアやグループで、考えを出し合うことには、理由がある。一つには、みんなの前で発表することに自信がない子どもに、グループの中で自らの意見が支持されて、全体でも発表してほしいからである。二つには、一人ひとりが考えた意見をグループで出し合う中で、グループでも最も支持があった正しい意見を発表するのではなく、むしろグループの中で出された意見の違いやグループではうまく答えられなかった疑問や誤答こそ、全体で発表してほしいからである。
 でも、そうした学習形態の転換に込められた教師の願いは、子どもたちと共有されていないことが多い。「個 → ペア・グループ → 全体」と学習形態を転換することで、いつもは発表しなかった子どもが発表したかどうか、グループで解決しなかった疑問や誤答をみんなで解決したいと学習要求が出たかどうか。学習形態の転換に込められた教師の願いは、子どもたちからどう見えているのか、どのような子どもたちの文脈に置かれているかを、教師は常に点検する必要がある。学習形態を転換する意味が、子どもたちとどのように共有されているかという点に、多くの教師は無自覚ではないだろうか。多くの教室では、「個 → ペア・グループ → 全体」と、学習形態を転換させても、全体で発表する子どもは正答を発言する子どもに固定化され、手を挙げる子どももいつも決まった少数の子どもではないだろうか。学習形態が転換する際に子どもたちにもたらす機能が重要であり、何のために学習形態を転換するのを子どもたちと共有し、子どもたちがコミュニケーション形式の決定にどのように参加しているかが大切なのである。
 ところで、「個 → ペア・グループ → 全体」といった学習形態の転換には、必ず一人ひとりの子どもが考えをもつということが前提となっている。あるいは、全体で期待されているまとめを子どもの誰かが発言したら、すべての子どもが理解しているととらえられがちである。子どもたちには、話しながら考えるといった「ペア・グループ →個」といった学習形態の転換も必要であるし、授業内容の重要なところは、 一人ひとりが繰り返し発言するといった「全体 → ペア」といった学習形態の転換が求められることもある。一人から二人ないし四人、そして全員へと、コミュニケーションの範囲を徐々に広げていくだけではなく、学習形態を相互の行き来することが重要なのである。学習形態を「交互」に転換するとき、だれ一人で取り残さない、みんなでつくる授業が成立していくのである。
 

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