避妊をしている高校生は○○%!?若者の性の実態に迫る本を紹介
この記事を簡単にまとめると...
・現在の性教育は一定の効果があり,確かに中高生の性知識の充実に貢献している
・一方で相手とうまくコミュニケーションできず,知識があっても避妊できていない人もいるため,その面に関しては学校以外でのサポートが必要である
・データを見て議論するのは大切
・『「若者の性」白書』はとってもオススメです.2000円くらいで買えるのはとっても安い!
1.知ることから始めよう
こんにちは!今日は本の紹介です.
世の中では性暴力を含めて様々な性に関する問題が日夜起っています.そんな中で性教育の重要性が説かれており,性教育の充実に向けて活動している人もたくさんいます.
そんな風に注目を集めている性教育ですが,皆さんは学校での性教育の実情をご存知でしょうか?大学生の方でしたら,なんとなく記憶があるかもしれませんが,あまり覚えていないという人もいると思います.また,学校での性教育がどれくらい効果をあげているか,まで知っている人は少ないのではないでしょうか?
そこでオススメなのが『若者の性白書』という本です!
2.『「若者の性」白書』ってどんな本?
『若者の性白書』は,「青少年の性行動全国調査」の結果をまとめ,考察したものです.
「青少年の性行動全国調査」は,日本性教育協会が6年ごとに実施しているアンケート調査です.対象は中学1年生から大学4年生までで,全国の学校から選ばれた数十校で調査を行っています.全ての学校に対して調査を行っているわけではありませんが,適切に選ばれた学校で調査を行なっていて,十分に信頼できるデータになっています.(選定方法の詳細は実際の本を参照してください.)日本の若者の性行動を考察する上で重要な調査と言えるでしょう.
主な調査項目としては,性規範・性教育・家庭環境・集団と個人の関係などがあり, 様々な側面から若者の性行動を考察しています.今回のブログでは,主に性教育と避妊に関する部分を見ていきたいと思います!(以下のグラフは全て『「若者の性」白書: 第8回 青少年の性行動全国調査報告』からの引用です.)
3.日本の性教育では何を教えているの?
まずはそもそも日本ではどんな性教育が行われているのか,確認しましょう.「若者の性白書」によると,
現在の学習指導要領は2017・18年に改訂され告示されたところであるが、それに示される内容はこの20年間ほとんど変わっておらず、小学校で二次性徴を、中学校で生殖機能の成熟、受精・妊娠、性衝動、情報への適切な対処と行動の選択、HIV感染/エイズと性感染症を、高校で感染症の一環として再度HIV感染/エイズと性感染症、そして思春期の心身の成長(生殖機能)、結婚生活(受精・妊娠・出産、家族計画として避妊含む)、異性尊重の態度と性情報への適切な対処を教えるというものである。
となっています.また,大きなポイントとなるのは以下の点だと思います.
そして、妊娠に至る経緯については扱わない、すなわち性交について教えない、という条件が示されている。
直接「セックス」や「性交」という言葉やその内容に関しては教えないことになっているのですね.この学習指導要領に基づいて,日本全国の中学校・高校で,主に保健体育の授業の一環として日本の性教育は行われています.
4.学校での性教育って効果はあるの?
では実際に,本のデータをもとに性教育がどんな役割を果たしているのか見ていきましょう.
4.1.学校で習ったかどうかをどれくらい覚えているか
まず,そもそもの前提として,学校で習ったかどうかをどれくらい覚えているか,についてです.以下のグラフは,高校生に対してそれぞれの項目を習ったことがあるか,と質問した結果です.
これをみると,項目ごとに大きな差があることがわかります.例えば,本来学ばないはずのセックスに関しては多数が学んだとしていますが,性的マイノリティに関しては三割程度しか覚えている人がいないようです.ただ,増加の勢いはこの中で圧倒的に大きいですね.また,男女平等の問題や人工妊娠中絶の項目では覚えている人が年々減少しているのも気になります.
4.2.学校での性教育で学んだ知識は身についているのか
続いて,学校での性教育が実際の知識に結びついているのかをみてみましょう.以下の表は,性教育を幅広い項目にわたって受けた層=高群と,性教育をあまり受けていない層=低群で,性知識を問う簡単なテストの得点(5点満点)を比べたものです.男女ともに,高群の方が得点が高くなっていることがわかります.
4.3.性教育と性に関する自己決定的態度の関連
続いて,性教育と性に関する自己決定的態度,すなわちセックスなどの性行動のリスクを自分で考えて,適切な判断と行動ができるかどうか,の関係を見ていきましょう.まず最初に妊娠のリスクを把握できているかについてです.
以下のグラフを見てください.性教育を幅広く受けているほど,また,性知識が充実しているほど,妊娠に対する危機意識が高いことが見て取れます.
4.4.避妊について相手と話すかどうかと性教育の関係
次は,避妊について相手と話をするかどうかに関してです.こちらも性教育を広く受けている人ほど話をする傾向にあるようです.また,排卵知識の有無との強い相関があることがわかります.性に関する知識のある人ほど,避妊のことを考えて実際に話し合うという行動につながっていると言えそうです.
また,グラフはありませんが,
セックス(性交)したくないときに言えるかについては、性教育を多様に受けているかどうか、性知識、性交・避妊情報を学校から得ているかでは回答に差はみられなかった
ようです.学校での性教育の限界を感じますね...
5.どれくらいの人が実際しているんだろう?避妊の実情
続いて,若者の避妊の実情を見ていきましょう.
5.1.どれくらいの人が避妊しているのか
まず最初に,そもそもどれくらいの人が避妊しているのか,についてです.下の図をみてください.おおよそ7割程度の人が常に避妊しているようです.逆にいうと,三割(高校生女子に至っては4割)の人は避妊せずに性交しているようです.また,この避妊の中には膣外射精などの不確実な方法も含まれています.確実な避妊をしている人はさらに少なくなるでしょう.避妊しない人は結構多いんですね...
5.2.知識と断れるかどうかと,確実な避妊の実行の関連
続いてみていくのは,避妊に関する知識とセックスしたくないときに断れるかどうかという二つのパラメータが確実な避妊の実行にどう影響するか,ということです.ここでは,避妊に関する知識は「膣外射精が不確実な避妊方法であることを知っているかどうか」,確実な避妊方法を「コンドームまたはピル」によるものと定義しています.下のグラフを見ると,基本的には知識があるほど確実な避妊を実行できていることがわかります.一方,性交を拒否できない女子においては,知識があったとしても確実な避妊をするようにはならないということがわかります.これに関しては現状はコンドームが主流な避妊方法であり,女子は男子に協力してもらって避妊するしかないことが背景にあると考えられます[2].
6.避妊と性教育の関係
上でも書きましたが,これまでの性教育と避妊の関係をまとめると
・性教育は正しい避妊の知識の習得に役立っている
・ただし,知識があってもちゃんと避妊ができるかどうかはパートナーとの関係・コミュニケーションスキルに依存する
となります.学校での性教育だけではなく,パートナーと正しくコミュニケーションをとり,自分の意向を伝えるスキルを身に付けてもらうこと・相手の意見を尊重することと避妊の重要性を改めて認識してもらうことが大切ではないでしょうか.また,女子だけが,相手に対してNOと言えないと確実な避妊をする確率が下がってしまう,などの部分に見られる男女の非対称性には,ジェンダーロールや性規範の意識も関わっているように思われますね.
7.まとめ
ここまでを踏まえて,三つにまとめたいと思います.
一つ目として,まず思うのが,データの大切さです.何かをしたいと思ったときには,自分の感覚や身近な人の話ももちろん大切ですが,やはりデータをもとに議論することは大切ですね.問題を正しく認識することで,適切な解決策も見えてくるでしょう.
二つ目に,「性教育を行なっても相手とのコミュニケーションがうまく取れず,知識があっても適切な避妊ができていない女子が多い」という問題がありました.これに関しては,まさにGenesisが取り組んでいる性的同意の問題に関わってくる点です.Genesisとしてもワークショップなどを通して今後も取り組んでいけたらと思います.加えて,コンドームに頼りがちな現在の避妊の状況は,女性が男性に協力してもらうことが絶対に必要な状況を作り出してしまっているため,それを改善するために,ピルやIUSなど女性が主体的に使用できる避妊方法へのアクセスをより容易にしていくことも,確実な避妊を広めるためには大切なことだと思いました.
最後に,今回紹介したデータはこの本のごく一部に過ぎません.家庭環境と性行動の相関,性行動の減少の原因に関する考察など,まだまだ面白い話がたくさん載っています.kindle版だと2200円くらいで買えて,個人的にはめっちゃ安い...それでこのデータ見れるんですか...という感じでした.皆さんぜひ機会があれば手にとってみてください!
8.もっと知りたい人へ
・日本の性教育の現状については,学習指導要領を簡単にまとめるのみにとどまっています.より詳しく知りたい方は,参考文献の[1]を参照してみてください.
・「青少年の性行動全国調査」に関しての詳細はこちらを参照してください.
・日本の性教育の現状を認識するには,海外の性教育と比較するのも有効です.オランダの性教育に関する記事がGenesisから出ていますので,そちらも是非見てみてください.
9.参考文献
[1]https://www.jase.faje.or.jp/jigyo/journal/seikyoiku_journal_201806.pdf
[2]若者の性白書ー第8回 青少年の性行動全国調査報告
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