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欧米と比べてなぜ日本の気候変動対策は「生ぬるい」のか?(1/3) 〜日本の労働組合に欠けている「公正な移行」という前提 (山本健太朗)

筆者 山本健太朗(やまもとけんたろう)
ニューヨーク州立大学オルバニー校卒、東京大学大学院総合文化研究科修士課程
 1997年に青森県で生まれ、神奈川県に育つ。学部時代はトランプ政権下のアメリカで広がる同世代の社会運動のなかで学ぶ。現在は、労働とエコロジーをテーマに思想研究をしている。

はじめに

 いま、世界の労働組合は絶対に避けられない問題に直面している。それは、気候変動対策の文脈で急速に進む、産業の「大転換」への対応だ。このため、欧米ではすでに雇用にも大きな影響が生じている。たとえば、大量の二酸化炭素を排出するエンジン車の製造は大きく縮小せざるを得なくなっている。実際、EUは2021年に、域内でのハイブリッド車を含む、ガソリン車の新規販売を2035年までに禁止する方針を打ち立てた。現在約160万人の雇用を支えているドイツの自動車産業においては、2030年までに約30万人分の雇用が削減されると試算されている[1]。

 日本の産業もまた、この世界的な転換の潮流に大きな影響を受けることが予想される。それにもかかわらず、日本では、気候変動対策としての産業の転換についてあまり語られることはない。近年の日本における気候変動をめぐる議論は、いまだに「環境を守ろう」という抽象的なスローガン程度にとどまっている。「気候変動」という言葉からは、依然として「北極の氷が溶けて困っているシロクマのために地球温暖化を止めよう」などというステレオタイプかつ幼稚なイメージが想起されるのではないだろうか。あるいは、近年の企業や行政による、内実のともなわない「SDGs」や「サステナビリティ」「エコ」の連呼が目につくくらいだ。

 このような現実を前に、日本の若い世代にも正直言って「生ぬるい」と思っている人は多いのではないか? アメリカの大学に通い、気候変動をめぐる社会的な議論の盛り上がりを肌身で感じた筆者は、日本の現状に強い違和感を抱いてきた。例えばアメリカでは、ミレニアル・Z世代は、先住民の土地を汚染するおそれのある原油パイプラインの建設現場を占拠し、実際に建設作業を遅延させた。また、2018年にグレタ・トゥンベリに象徴される若い世代が、企業や政府に気候変動対策を求め、各国の街を埋め尽くした。さらに彼女らはパンデミック後にドイツの炭鉱で座り込みをおこない、アメリカの若者と同様に工事を遅延させた。

2023年1月10日 炭鉱拡張計画に反対し、ドイツ西部の旧リュツェラート村に各国から若者が集まり工事を直接止めようとした。武装した警察が抗議者たちを強制的に排除する様子。 © Lützi Lebt

 とくに欧米の企業や政府にとっては、こうした若い世代の社会運動が、ビジネスや政権運営における大きな「リスク」となっている現状がある。社会運動の圧力を受けた各国企業と政府は、気候変動という文脈で技術や産業のあり方を変えざるを得なくなっているのだ。

 しかし、日本と欧米の違いはそれだけでない。日本の気候変動対策をめぐる議論の場で欠けているのは、「労働組合」の存在だ。今日の欧米における気候変動対策は、労働組合による「具体的な産業・雇用政策の策定」の要求をつうじて実現しているという事実がある。近年、欧米の労働組合は、「公正な移行(just transition)」という概念を用いて、旧来の二酸化炭素排出量の多い産業の労働者たちが「気候変動対策による失業」といった不利益を被ることなく、新たなグリーン産業への移行を実現できるよう要求してきた。欧州グリーン・ディールやアメリカの大規模インフラ投資はその最たる例だ。筆者が日本で気候変動対策が進まない理由を考えるうちに気がついたのは、欧米では今や「当たり前」な「公正な移行」という前提が欠けていることだ。したがって本論考では、近年の欧米の労働組合による、「産業政策としての気候変動対策」を求める「公正な移行」の流れについて、前・中・後編にわたってその意義と限界を論じたい。

 まず前編では、近年の全米自動車労働組合(UAW)による、電気自動車の製造過程への従業員の移行を求めたストライキの事例をもとに、労働組合による気候変動対策要求の現状を見ていきたい。

 ついで中編では、これまで「保守的」とまでいわれてきた欧米の労働組合が、その態度を改めざるを得なくなった歴史的背景を明らかにしてみたい。

 そして後編では、「公正な移行」の限界を指摘する。2010年代後半から欧米の左派のあいだでは、「公正な移行」が見逃してきた、①グローバルサウスからの「新たな資源収奪」の問題、また②ケア産業への支援の軽視、ひいては③「企業に雇われる働き方」じたいの不自由さも指摘されつつある。そこでは「公正な移行」の限界を乗り越えた、より自律的な労働のあり方が模索されているのだ。
 
 そもそも、このかんの気候変動による被害の急速な拡大により、「公正な移行」を求めているだけでは、もはや「間に合わない」というリアリティがある。しばしば日本でも驚きの目をもって報じられる欧米の産業転換は、それすらもハッキリ言って生ぬるいのだ。そこで欧米の若い世代の社会運動は、「公正な移行」が前提とする「政労使」の対立と妥協を前提とする仕組みの外側で、生産のあり方じたいを根本から問う直接行動を展開している。そこで最後に「公正な移行」の限界をのりこえる、労働・エコロジー運動のポテンシャルについて論じて、前・中・後編を締めくくりたい。

 



世界から取り残される日本の気候変動対策

 現在、日本の商社や銀行は、世界で急速に進む、気候変動対策による産業・市場の大転換を前に慌てふためいている。経済・ビジネス紙の見出しには「再エネ投資」という言葉が並ぶ。その後に続くのは、決まって「あなたの会社は対応できているか?」という問いかけや「日本企業が世界の市場から締め出されてしまう!」といった憂慮の声だ。

 そんななか、コロナ・パンデミックの最中の2021年には、世界各国の急速なグリーン産業への移行の動向を追った、『グリーン・ジャイアント』という新書がベストセラーとなった[2]。その著者である経済・ビジネスジャーナリストの森川潤は、「国際的な脱炭素化の流れに取り残された日本企業は、気候変動対策で生まれる新たな市場の枠組みから締め出されてしまう」と、日本のビジネスパーソンに向けて警鐘を鳴らしている。

 2020年、日本政府は突如、2050年までに二酸化炭素の排出を実質的にゼロにするという「カーボンニュートラル」を宣言した。その背景には政府関係者のあいだでの大きな「焦り」があったようだ。というのも、2015年の「パリ協定」締結後、欧州の国々を筆頭として世界各国の宣言が続き、2020年の時点で、約120カ国がカーボンニュートラルを宣言していた。

 とくに決め手となったのは、アメリカの政権交代だったという[3]。米大統領選挙の開票を1週間後に控え、日本政府関係者らは、気候変動に懐疑的なドナルド・トランプから、気候変動対策に関心が高いリベラル層を代表するジョー・バイデンに政権が交代する場合のシナリオを考えていた。「いよいよアメリカも産業の脱炭素化に本格的に舵を取るのではないか?」という大きな懸念があった。

 実際に世界では、気候変動対策によって生まれる新たな市場をめぐり、各国資本がしのぎを削っているという状況がある。「グリーン・リカバリー」とも呼ばれた、パンデミックからの経済復興が大きな画期だった。これは、パンデミックで停滞した経済を再び加速させるため、今後必要となる産業の気候変動対策に多額を費やし、経済を活性化させようという企図によるものだ。

 たとえば、2020年にEUは、10年間で1兆ユーロ(約168兆円)を気候変動に対処するための技術と雇用に投じる、「欧州グリーン・ディール」の計画を大々的に発表した[4]。また、アメリカのバイデン政権も2021年に、総額1.2兆ドル(約189兆円)規模のインフラ投資法案を可決させた[5]。具体的には、電気自動車の充電スタンドを全米50万箇所に設置することなどをつうじて、全米中のインフラを「グリーン経済」に堪え得るものに刷新するという大プロジェクトだ。

 また、2030年までに販売する全ての車を電気自動車化する計画がある、ドイツのメルセデス・ベンツの取締役の1人は、「私たちが新しい基準を作って、主導権を握り、未来を切り開いていくのです」と述べている[6]。そして彼らの動きを反映し、各国やEU政府が、それぞれ独自の環境規制やフォーマットを導入している。事実2021年にEUは、2035年にハイブリッド車を含んだ、ガソリン車の新車販売を禁止する方針を打ち立てた。

 さらに金融においては、欧米の金融機関どうしが環境・社会にかんするガイドラインを形成し、それら枠組みに当てはまらない銀行や企業を間接的に締め出している(ESG投資)。

 若い世代のカルチャーや政治に詳しい森川は、こうした欧米企業による転換の背景に、ますますラディカル化する若い世代の社会運動の勢いを逃さず指摘する。というのも、人権・環境意識が高く「気候正義」や「人種正義」、そして「社会主義」を求める若者を相手に、企業や政府はなんとか切り抜けなければならない状況にまで追い込まれているのだ。


電気自動車の製造過程への移行を求める全米自動車労働組合(UAW)のストライキ

 しかし、若者の気候正義運動に注目するだけでは、事態の全容は見えてこない。ここでは変化のもう一つの面に着目したい。じつは、近年の欧米においては、労働組合が企業や政府にたいして「産業政策としての気候変動対策」を求めている、という重要な前提が存在するのだ。労使が産業のグリーン化をめぐって激しく対立しており、その対立と妥協を原動力に、大転換が着実と進んでいる。その最たる例が、2023年の全米自動車労働組合(UAW)による、気候変動対策などをめぐって行われた約1ヶ月半にわたるストライキだ。

 日本でも報道されたが、2023年10月、ゼネラル・モーターズ(GM)やフォード、クライスラーなどで働く労働者を含む、全米自動車労働組合(UAW)が大きなストライキを打った。これはアメリカ史上初といえる、アメリカ3大自動車メーカー(ビッグ3)の3つの工場で一斉に打たれたストライキだった。UAWは100年近い歴史をもつ、アメリカを代表する労働組合であり、最も戦闘的な組合の一つでもある。この時は15万人いる組合員のうち、5万人近くが仕事を拒否し、生産ラインに大きな影響を及ぼした[7]。そしてこのストライキの影響は、ビッグ3にとどまらず、合計で70億ドル(約1兆億円)の経済損失が生じたという試算もある[8]。

ミシガン州ベルヴィル・GM Willow Run Distribution Center前のピケ線の様子(2023年9月26日撮影、パブリック・ドメイン)

 組合の要求には、日本でも報じられた「賃上げ」だけでなく、「エンジン車の製造過程から、電気自動車の製造過程で生まれる雇用への従業員の移行を保障する」ことが含まれていた。

 自動車産業は世界的に、エンジン車から、電気自動車へと急速にシフトしている。この流れのなかで、エンジン車の製造過程で働く労働者たちは雇用を失うおそれがあった。事実、労働組合が強い存在感を誇るアメリカ北部から、組合による規制が弱い南部へと生産拠点が移されることが危惧されていた。

 そのため、次の雇用への移行期に①彼ら彼女らが困窮することのないように、しっかりと失業保障をすることと、②新たなスキルの訓練を進めることを企業に確約させる必要があったのだ。

 そこで、彼ら彼女らは、電気自動車を製造する新工場での組合による規制を認めさせるために、企業との交渉を展開した[9]。だが、ビッグ3は組合員たちの求めに一切耳を傾けない強固な姿勢を取った。その結果、彼ら彼女らはストライキに踏み切ることとなった。ストライキは1ヶ月半以上続き、結果として賃上げや新たな工場での条件にかんする労使間の一定の合意へと結実した。

 彼ら彼女らが掲げていたのが「公正な移行(just transition)」というスローガンだ。日本ではまったく聞き慣れない言葉かもしれないが、これはとてもシンプルな概念だ。

 今後、気候変動対策によって環境負荷の高い産業は縮小し、そこでの雇用は減少する。先に挙げたエンジン車の製造や、炭鉱・鉄鋼業などがわかりやすい例だろう。当然、そうした産業で働く労働者の多くが失業してしまうことになる。一方で、気候変動対策によって新たに生まれる産業と雇用もある。電気自動車の製造は、その最たるものだ。新たに生まれる産業へと、労働者が不利益を被ることなく移行できるように、労働組合が積極的に発言していく、というのが「公正な移行」の発想だ。移行の最中には、失業保障や代替となる雇用が提供され、次なる産業で堪え得るスキルや資格取得の支援がなされる。

 

「公正な移行」はすでに欧米の政労使関係の新たなパラダイムとなっている

 「公正な移行」はすでに、欧米の「政労使」関係を理解するうえで無視できない枠組みとなっている。EUの産業政策と気候変動政策には、必ずといってよいほどこの「公正な移行」という文言が組み込まれている。

 国際機関においても、同様の状況だ。2015年のパリ協定にも、長らく欧米の産業別労働組合が求めてきた「公正な移行」が明記されている。ILO(国際労働機関)もパリ協定の翌年、「公正な移行へのガイドライン」を発表しているのだ[10]。

 日本で働く私たちが知らないあいだに、世界では産業の転換に伴う政労使のルール決めが進んでいた。いまや「公正な移行」は一部の左派による議論にとどまらず、国際機関における雇用と環境をめぐる中心的なフレームワークとなっているのである[11]。

 近年では、2021年にEU理事会が「公正な移行基金」の創設に合意した[12]。この基金のもとで、雇用の分野だけでも約3億ユーロ(約505億円)が投じられようとしている。これには労働者のトレーニングや教育、失業者への支援などが含まれる。

 この動きが加速した背景に、2015年のパリ協定の締結と、「グリーン・リカバリー」とも呼ばれた、コロナ・パンデミックの最中の、その後を見据えた経済復興計画の策定があるのは確かだと考えられる。だが、こうした出来事のはるか以前から、欧米では(とりわけ欧州においては、より計画的に)「公正な移行」が着々と進んでいた。

 たとえばドイツ西部のルール地方では、2007年の時点で石炭採掘業からの完全撤退をめざし、地域と労働者が新たな「デジタル・エコノミー」で創出される産業・雇用に対応するための支援策が合意されている[13]。連邦政府と州政府は170億ユーロ(約2兆9,000億円)を投じて、早期退職制度と求職支援、訓練と再教育、そして他の産業への移動のための支援を開始した。かつては石炭・鉄鋼業が地域の約70%を占め、100万人規模の雇用を担っていたが、石炭需要の低下により20世紀後半の時点ですでに産業には陰りが見えていた。そうしたなかで、労働組合と石炭企業、連邦政府・州政府のあいだで、大転換が合意されたのである。

 つまり「公正な移行」のエッセンスは、政労使の対立と妥協を前提とした、さらなる経済成長のための計画である。なお、この経済成長のための産業計画には、いくつもの問題が含まれている。後編ではそれら問題点を整理し、オルタナティブの可能性を提示する。


日本の「公正な移行」の現状

 さて、日本における「公正な移行」の現状を見てみよう。先に結論を述べると、日本の労働組合は、世界的に進む産業の転換をめぐった、政労使のルール決めに大きく乗り遅れてしまった。

 たとえば、日本最大の組合員数を誇る「連合」は、世界では続々と大規模な気候変動対策=産業政策が実現するなか、「節電・省エネ」や「地域清掃活動(クリーン・キャンペーン)」といった漠然とした取り組みを例に挙げ、組合員の環境意識が高いと評価している程度だ[14]。これは世界各国と比べると相当にズレた認識だといえよう。欧米では、労働組合が気候変動対策を求める若者のデモに積極的に参加し、資金や動員の面においても具体的な支援をおこなっているのが当たり前のあり方だ。だがそのような労働組合の姿は日本にない。

 そして「公正な移行」の要求にかんしては、2022年に芳野会長による、岸田総理大臣への「意見表明」にとどまっている[15]。これは具体性を欠いた要求であり、たんなるポーズとしか考えられない。それにもかかわらず「連合」は、政府の通称「グリーン・トランスフォーメーション推進法」の成立過程で、「公正な移行」の文言を入れたことを成果であると宣伝している[16]。

 だが、法案の成立とそこでの「公正な移行」の採用は、あくまで前述の世界の動きに押された日本政府の行動の反映にすぎない。そもそも「企業別労働組合」という組織形態を取る日本の労働組合には、①内実の伴った転換(転換の規模や公正さ)を政府や企業にたいして求める論理が備わっていなければ、②それらを押し付けていく力を持ち合わせていない。なぜなら、労働組合が企業ごとに作られることによって、労働組合とその組合員(正社員が中心で、非正規労働者の発言権は制約されている)の最大の関心は、産業全体や社会全体、ひいては地球全体の課題ではなく、あくまで自分たちの企業の業績向上だけになってしまった。

 対照的に、欧州の「産業別労働組合」は、個別の企業を単位にするのではなく、その名のとおり1つの産業全体が組織の単位なので、個別企業の競争とは(相対的に)独立した、より普遍的な利害表現がしやすかった(とはいえ、20世紀の産業別労働組合は公害・環境問題にたいして保守的だった。これについては中編で展開する)。

 こうした理由から、労使協調的と評されるようになった日本の労働組合は、1970年代を境に、ストライキをつうじた要求をおこなわなくなった。1990年代に日本で生まれた筆者は、大規模なストライキで「経済が止まる」光景や街を埋め尽くす労働者の姿を知らずに育った。だが、留学先のアメリカでは2018年当時、大きなストライキの波が広がっていて、堂々と要求を掲げる労働者たちの姿がメディアで繰り返し報じられていた。まさに「労働者が社会を動かす」まったく「違う世界」を見た感覚だった。

 欧米とは異なり、労働組合の突き上げを受けなくなり、技術革新を怠るようになった日本の自動車産業は、①このままエンジン車の製造を続けて、世界市場でシェアを失っていくか、②欧米(加えて中国)企業の下に組み込まれ、かろうじて生き残るしか道がない、といわざるを得ない[17]。


前編のまとめ

 欧米では気候変動に対応すべく、すでに産業と雇用の「大転換」が起きている。筆者は「なぜ、日本では気候変動対策が進まないのか?」と問うなかで、日本の気候変動対策をめぐる議論の場において、労働組合の存在感が薄いということに気がついた。欧米では「公正な移行」のパラダイムのもとで、UAWといった労働組合による「気候変動対策=産業・雇用政策」を求める行動が拡大している。気候変動対策は、政労使の対立と妥協を経て、欧州グリーン・ディールやアメリカのインフラ投資といった、具体的な産業・雇用政策として実現されているのだ。このことから、欧米における気候変動対策の推進は、日本で一般的となっている抽象的な努力目標の提示や啓発活動などとは異なり、具体的な制度・政策の転換に結びついていることが理解されるだろう。

 つまり日本においても具体的な気候変動対策を進めていくには、労働組合をどうにかしなくてはならないのだ。これが本編でもっとも伝えたかったことだ。

 とはいえ、読者は疑問に思うだろう。なぜこれまで二酸化炭素を大量に排出するエンジン車を製造してきた自動車産業の労働組合が、いま気候変動対策を求めているのだろうか? 事実、高度成長期を経て、自動車産業に代表される重化学工業の労働者は、高賃金と福利厚生の拡充を享受してきた。欧米においても重化学工業の労働組合には、保守化し、公害や地球温暖化、ひいては気候変動をもたらす産業にしがみついてきた歴史が確かにある。

 そこで中編では、欧米の重化学工業の労働組合までもが態度を改めることになった背景を明らかにしていきたい。

 脚注

[1] NHK 「EVシフトの衝撃 ~岐路に立つ自動車大国・日本~」(2024年5月1日アクセス)

[2] 森川潤(2021)『グリーン・ジャイアント 脱炭素ビジネスが世界経済を動かす』文藝春秋

[3] 同上。

[4] 駐日欧州連合代表部(2020)「脱炭素と経済成長の両立を図る『欧州グリーンディール』」 以下、為替レートは2024年5月1日現在のものとする。

[5] NPR “Biden says final passage of $1 trillion infrastructure plan is a big step forward” (2024年5月1日アクセス)

[6] NHK 「EVシフトの衝撃 ~岐路に立つ自動車大国・日本~」(2024年5月1日アクセス)

[7] ロイター「米自動車労組、GMと暫定合意 一斉スト終了へ」(2024年5月1日アクセス)

[8] ロイター「UAWスト、経済損失70億ドル超との推計 幅広い企業に影響発現」(2024年5月1日アクセス)

[9] 電気自動車の製造過程には、ビッグ3に限らず、さまざまなハイテク企業が関与する。UAWは、ビッグ3の直轄が中心である既存の工場では労使関係を確立していたが、さまざまな企業が入り混じる新工場では、労使関係が確立されていなかった。ビッグ3には、組合による関与を排除し、労働条件を引き下げて利潤率を回復させるという思惑があるのだろう。

[10] ILO (2016) “Guidelines for a just transition towards environmentally sustainable economies and societies for all” (2024年5月1日アクセス)

[11] そのため1970年代当初のアメリカ労働組合運動が編み出し、1990年代に各国労組に広がったこの言葉は、今日では国際機関のテクノクラートたちのジャーゴンとなった。

[12] 駐日欧州連合代表部(2021)「EU理事会、温室効果ガス排出の実質ゼロに向け、「公正な移行基金」の創設に合意」(2024年5月1日アクセス)

[13] 気候ネットワーク(2021)「【事例集】公正な移行―脱炭素社会へ、新しい仕事と雇用をつくりだす―」(2024年5月1日アクセス)

[14] 日本労働組合総連合会(2018)「「連合エコライフ21」 新たなる大作戦!?その1~「連合エコライフ21」改良のポイント~」。小熊(2018)「労働者側の取組み―気候変動と雇用、公正な移行の実現と連合の取組み」(『大原社会問題研究所雑誌714号』法政大学大原社会問題研究所)

[15] 日本労働組合総連合会(2022)「「GX実行会議」において、芳野会長が「公正な移行」について意見表明」(2024年5月1日アクセス)

[16] 日本労働組合総連合会(2023)「「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律」(GX推進法)の成立に関する談話

[17] 階級闘争と技術革新の関係性については中編にて詳しく展開する。



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