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【こぼれ話006】顔を隠して父子の関係を描く〜機動戦士ガンダム 第33話「コンスコン強襲」
なぜ顔を隠すのか?
サイド6で奇跡的な再会を果たしたアムロとその父テム・レイ。テムがアムロに回路を手渡すシーンで、アムロの顔とテムの顔が回路に隠れるように描かれている。
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この演出意図は何か。この表現について考えてみたい。
結論から言うと、これはアムロとテムの淡白で稀薄な関係を表現したものだ。
アムロとテムの関係
そもそもアムロとテムの関係はどのように描かれていたのかを振り返ってみよう。アムロとテムの関係が一番よくわかるのは機動戦士ガンダム第1話「ガンダム大地に立つ!!」である。
アムロとテムはともにサイド7で生活していたが、テムはガンダムの研究・開発に没頭し、アムロのことを気に掛けていた様子はない。かなり淡白な親子関係である。
そのことはアムロのセリフからもうかがえる。
フラウ「入港する軍艦にアムロのお父さん乗ってるんでしょ?」
アムロ「だと思うよ。一週間前に地球に降りるって言ってたから」
フラウ「ここも戦場になるの?」
アムロ「知らないよ。親父は何も教えてくれないもん」
アムロとテムとの間ではごくわずかな会話しかなされておらず、アムロも父親がどんな仕事をしているのかよくわかっていない。
また、ガンダム搬送作業中のテムにアムロが駆け寄るシーンでも両者の関係を垣間見ることができる。
アムロ「父さん」
テム「第三リフトがあるだろう」
連邦兵F「リフトは避難民で」
アムロ「父さん!」
テム「避難民よりガンダムが先だ。ホワイトベースに上げて戦闘準備させるんだ」
連邦兵F「はっ!!」
アムロ「父さん!!」
テム「ん、アムロ、避難しないのか?」
アムロ「父さん、人間よりモビルスーツの方が大切なんですか!」
テム「早く出せ」
アムロ「父さん」
テム「早くホワイトベースへ逃げ込むんだ」
アムロ「ホワイトベース?」
テム「入港している軍艦だ。何をしている」
連邦兵F「エ、エンジンがかかりません」
テム「ホワイトベースへ行くんだ。牽引車を探してくる」
アムロ「父さん・・・」
ガンダム搬送作業中のテムにアムロが「父さん」と呼びかけるがテムは気づかない。再度さっきより大きな声で「父さん!」と呼びかけてもまだテムは気づかない。さらに大きな声で「父さん!!」と呼びかけてテムはアムロの存在に気付く。3回目でようやくである。
アムロはテムに「人間よりモビルスーツの方が大切なんですか!」と問いかけるが、テムは質問を無視して作業を続ける。アムロへの声かけは「ホワイトベースに逃げろ」だけだ。しかもアムロへの声掛けは部下に指示を出す片手間にしているに過ぎない。テムの頭はガンダムのことでいっぱいでアムロのことはほとんど考えていない。
父親が軍人で極秘任務を遂行している立場という点を考慮に入れるとしても、かなり淡白な親子関係である。「任務の遂行」と「家族の安全」の狭間で葛藤する様子はまったく見られない。これがハリウッド映画なら両者の狭間で苦悩する姿を描きそうなものだが、機動戦士ガンダムはそういったことはしないのである。
このように、テムとアムロは親子ではあるもののその関係は淡白で稀薄であった。そして、今目の前にいるテムは酸素欠乏症の後遺症で思考力が低下し、こうした状態に拍車がかかっている。
こうした淡白で稀薄な親子関係を「顔を隠す」という表現で演出しているのがこのシーンである。同じ部屋ですぐ目の前に座っているのに、お互い顔を見せない・見ないことで関係の稀薄さを表現するというなんとも印象的なシーンだ。
片目を描く意味
ただ、このシーン、よくよく見るとテムの顔は回路で完全に隠れてしまっているのに対し、アムロの顔は半分だけ回路で隠れて片目は描写されている。この違いはいったい何だろうか。
このあとアムロは父親に恐る恐る「父さん、僕、くにで母さんに会ったよ。父さん、母さんのこと気にならないの?」と問いかける。テムは酸素欠乏症の後遺症もあってアムロのことなどまったく考えていないのに対し、アムロはまだ親子の絆を信じているのだ。アムロの中にわずかに残った父親への想いを表したのが、この「片目だけを描く」という表現である。
こうした何気ない表現から登場人物の心情に思いを致すのも作品鑑賞の楽しみの一つである。
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