富野由悠季のミス!?ガンダムは大気圏を突破できるか!?~機動戦士ガンダム 第5話「大気圏突入」感想
アムロの母は地球に
この回は避難民とのやり取りのシーンから始まる。引き続き避難民がホワイトベースに搭乗していること、これから地球に向かうことが自然に示される。
老人「どうも。両親がいなくなってからというもの、こんな物と一日中遊んどるんです」
アムロ「戦死なさったんですか?」
老人「一週間戦争の時にね。あんたは?」
アムロ「母は地球にいるはずです。父はサイド7で行方不明になりました」
避難民との何気ない会話から、アムロの母親が地球にいることが示される。今後の展開の伏線となりそうなセリフだ。
連邦政府の移住政策の闇
老人「地球へ着いたらあの子をわしの故郷へ連れて行こうと思っとるんだ。もう二度と地球の土は踏めんと思っとりましたからなあ。サイド7に来る前には南米でコーヒー園をやっとってな。知っとるか、これがコーヒーの豆じゃ。今度地球へ帰ったらわしは絶対に動かんよ。ジオンの奴らが攻めてきたって、地球連邦の偉いさんが強制退去を命令したって、わしは地球で骨を埋めるんだ」
老人の発言から、一度宇宙へ移住してしまえば地球への帰還は困難となってしまうこと、地球連邦は宇宙への移住を行う際に強制退去という強硬手段も採っていたこと、が分かる。
第3話の感想で、「半ば強制的に宇宙へ移住させられた人もいるのではないか。」と述べたが、この老人もそうだったのかもしれない。
南米でコーヒー園を営んでいたというこの老人、手にするコーヒー豆は地球での思い出の品だろう。宇宙への移住を強制され、生業を奪われた悔しさ、無念さを忘れないために常に持ち歩いているのかもしれない。
もう二度と地球には帰れないと思っていたところに今回の動乱。この老人にとっては思いがけず地球へ帰還するきっかけとなってしまった。皮肉なものである。
連邦政府のこうした宇宙移住政策に対しては不満を持つものも多数いるはずだ。いま避難民たちは連邦軍に保護されているわけだが、連邦政府にかならずしも好意的というわけでもないだろう。
今後、避難民達と連邦軍との間で何かトラブルでも発生しなければよいが・・・。まぁ、多分起きるんだろうなぁ。
切れるミライ
ミライ「大気圏突入25分前」
ブライト「ミライ、自信はあるか?」
ミライ「スペースグライダーで一度だけ大気圏に突入したことはあるわ。けどあの時は地上通信網がきちんとしていたし、船の形も違うけど」
ブライト「基本航法は同じだ。サラミスの指示に従えばいい」
ミライ「私が心配なのは、シャアがおとなしく引き下がったとは思えないことなの」
ブライト「ミライ、君は大気圏突入することだけを考えていてくれ」
ミライ「ええ、了解」
民間人であるミライが大気圏突入の経験があるというのはかなりすごいことなのではないか。未来ではスペースグライダーのライセンスは自動車の免許のようなもので、未成年の操縦する機体での大気圏突入も頻繁に行われているのかもしれない。
ここでミライがシャアの襲撃を心配する描写があるが、やはりミライは切れる。
リード中尉
リード「若造、聞こえるか?」
ブライト「は、はい、リード中尉」
リード「大気圏突入準備はいいな。我々はサラミスの大気圏突入カプセルで行く。そちらとはスピードが違う、遅れるなよ」
ブライト「はい、了解しました。ミライ、大気圏突入の自動操縦に切り替え、以下、突入の準備に備えるんだ」
ミライ「了解」
ブライト「シャアのムサイは?」
オスカ「変わりません。ただ、ムサイに接近する船があります」
ブライト「なに、また補給を受けるつもりなのか、シャアは。待てよ、ここで補給を受けるということは、俺達の追跡をあきらめたということなのか」
前回第4話のラスト、ホワイトベースに並走する戦艦があったが、サラミスというらしい。リード中尉という士官も搭乗している。
本回の後半で明らかになるが、リードの役割はホワイトベースとガンダムを無事に連邦軍本部に送り届けることである。
ブライトを「若造」と呼んでいることから、リードの人柄もルナツー司令ワッケインとさほど変わるものではなかろう。ただし、ワッケインよりも小物感がはるかに強い。
シャアの演説
シャア「あらたに3機のザクが間に合ったのは幸いである。20分後には大気圏に突入する。このタイミングで戦闘を仕掛けたという事実は古今例がない。地球の引力に引かれ、大気圏に突入すればザクとて一瞬のうちに燃え尽きてしまうだろう。しかし、敵が大気圏突入のために全神経を集中している今こそザクで攻撃するチャンスだ。第1目標、木馬。第2目標、敵のモビルスーツ。戦闘時間は2分とないはずだが、諸君らであればこの作戦を成し遂げられるだろう。期待する」
このシャアの演説は実にかっこいい。シャアの目的をとてもわかりやすく説明してくれている。
人類史上初めてとなる大気圏突入時の急襲作戦だ。一歩間違えば自分も燃え尽きてしまう。
そんな死と隣り合わせの作戦で出撃する兵士を奮い立たせるための演説だ。
本当は内心恐れを抱いている兵士もいるだろうが、シャア自身もリスクを冒して陣頭指揮を執るのだから行かざるを得ない。上官が優秀すぎるプレイングマネージャーだと部下がとても大変というかわいそうなパターンである。
連邦軍は、大気圏突入のタイミングでジオンが攻撃を仕掛けるとは考えていない。それだけ危険で無謀な作戦ということだ。それを逆手にとって攻撃を仕掛けるところにシャアの策士としての非凡さが窺える。
なお、3機ものザクが補給されたということは、シャアはタイミング的にルナツーに潜入する前くらいにドズルに補給を依頼していたのだろう。さすが、常に二手三手先を読んでいる男だ。
楽観的な連邦兵
リード「地球降下要員は大気圏カプセルに乗り移れ。サラミス本艦はカプセル放出後、ただちにルナツーに帰還せよ。カミラ、ムサイを振り切る自信はあるか?」
カミラ「自信はありません。しかし、考えようによってはうまくいくでしょう。データからするとムサイはソドンと接触しています。補給を受けたか、緊急の何かがあったんでしょう。我々を追ってくるとは思えません」
ジオンの補給艦はソドンというらしい。ガデムのパプア補給艦とは別タイプの艦だ。
ここで、カミラはムサイは補給か緊急事態で追撃はないだろうと予想する。
リード「ミサイルはスタンバっておけ」
連邦兵「了解」
リード「シャアは追ってくるかな?」
連邦兵「まさか」
ことごとく予想の外れる連邦軍。大丈夫か。
こうした演出でシャアが切れ者であることがより強調される。
「スタンバっておけ」
リードの発言で「スタンバっておけ」というセリフがある。この頃から「スタンバっておく」という表現が用いられていたのかとちょっとした感動を覚えた。
ところで、こちらのサイトでは「スタンバって」という言葉の初出はブライトと書いてある。
「おやっ?」と思ってブライトのセリフを確認したが、第1話からここまでブライトは「スタンバっておけ」というセリフは発していない。「機動戦士ガンダム」の中で初めて「スタンバっておけ」と発したのはリードである。
なお、ウィキペディア情報では、この言葉はすでに1974年の「刑事コロンボ」ですでに使われていたようである。なかなか歴史のある言葉だ。
シャア襲来!
ミライ「大気圏突入25分前」
シャア「20分後には大気圏に突入する。」
ブライト「ホワイトベース各員へ。本艦は8分後に大気圏に突入します。」
細かく時間を刻んで大気圏突入のタイミングが刻々と迫っていることを示す。徐々に緊迫感を高めている。
ブライトのアナウンスが終わるや否やシャアの襲来である。即座にガンダムが出撃。今回はガンダム1機でザク4機とやりあわなければならない。戦力的にはかなり不利だ。
しかし、ホワイトベース、サラミスの大気圏突入カプセルが無事地球に降下できればとりあえずはOKだ。なんとか追い払うことができればよいのであって、シャアを殲滅することまでは必要ではない。
戦闘シーン
今回は戦闘シーンが長く続く。前回第4話は、ルナツー内の人間ドラマが中心で戦闘シーンは少なかったことの反動だろう。
現在、先頭を航行するのがリードの乗った大気圏突入カプセル、続いてホワイトベース。
ここに後方からシャアのザク4機が襲来。さらにその後方にはムサイも控えている。
この後、連邦軍とジオン軍の戦艦やモビルスーツが入り乱れる展開になる。また、地球の大気圏が迫ってきている描写もある。説明しなければならないことが多い。
この回では今どういう状況なのかを説明するため、戦艦やモビルスーツの位置関係が分かるカットが丁寧に挿入されている。今どういう戦況なのかが分かるようになっている。
アムロvsシャア(4戦目)
シャア「敵もモビルスーツを発進させたようだ。ドレン援護しろ。我々は二手に分かれて攻撃を開始する」
シャアは二手に分かれ、シャアとザク1機でガンダムに対峙、ザク2機でホワイトベース、サラミスのカプセルを襲撃する作戦だ。
まずは、ガンダム対シャアの赤ザク。
ガンダムがバズーカを発射するも赤ザクには一発も命中しない。逆に爆風に紛れて発射された赤ザクのバズーカがガンダムの盾にクリーンヒット。盾が一部破損する。
盾の断面図
バズーカの弾が盾に着弾する際一瞬断面図のカットになる。こういった表現はいまでこそたくさん目にする機会があるが、当時はどうだったのだろうか。そもそもいつごろからこうしたカットが用いられるようになったのだろうか。こういった表現の系譜を辿っていくことも作品鑑賞の一つの楽しみである。
忙しいアムロ
セイラ「アムロ、シャアに気を取られすぎないで。ザクがサラミスのカプセルを」
ここでアムロはシャアに背を向けサラミスのカプセルへ向かう。
途中、コムのザクにバズーカを発射し盾を撃破。
その後、ホワイトベースを襲撃するザクにバズーカを放つが命中せず。
とにかく今回のアムロは忙しい。
アムロ「し、しまった、バズーカのスペア弾が。セイラさん、ビームライフルをくれませんか?」
セイラ「無理よ、ライフルを発射することはできないわ、メカニックマンに聞いてみるけど」
ここでガンダムのバズーカは弾切れ。ビームライフルをセイラに求めるが射出できないと言われる。
武器もなく宇宙空間にたたずむガンダム。ホワイトベースはザクに取り付かれた状態。連邦軍かなり旗色が悪い。
情けないジオン兵
ガンダムに対し正面から強襲をかけるジェイキューのザク。しかしガンダム頭部のバルカンでハチの巣にされあえなく撃沈。
ジェイキュー「あんな所にバルカン砲が、ああっ、嫌だ、嫌だ、シャア少佐、シャア少佐、助けてください、シャア少佐、少佐ー」
妙に情けない最期を見せるジオン兵。ジオン軍も戦争の長期化で戦力を消耗しているため戦闘に慣れていない兵を出さざるを得なくなってきているのか。ジオンの行く末を案じさせる描写だ。
新兵器・ガンダムハンマー!
セイラ「アムロ、今はガンダムハンマーしか撃ち出せないわ」
アムロ「それでいいです」
ここまでビームライフルやビームサーベルといった未来科学の粋を集めた超兵器を駆使して戦ってきたガンダムだが、ここで新兵器の登場だ!
その名はガンダムハンマー!
「とげとげのついた鉄球」というとってもステキな形状の武器だ。
思わずアムロも「それでいいです」と言ってしまうほどである。
ただ、このガンダムハンマ―でシャアのバズーカを回避する描写は実にかっこいい。アムロの戦闘技術が確実に上がってることを思わせる。
重力の影響か?
アムロ「当たらない。バルカンの重心がずれてるのか?」
逃げるザクを追い回しながらバルカンを撃ちまくるガンダム。しかし、全く命中する気配がない。訝しがるアムロ。
おそらくは地球の重力の影響と考えられる。これまでアムロは宇宙空間で戦ってきており、重力の影響を考慮にいれていない。ガンダムの教育型コンピューターにも重力の影響はまだ学習されていないのだろう。
サラミスのカプセルに着弾!
サラミスのカプセルに着弾。損傷し、大気圏突入が不可能になってしまった。
マーカー「サラミスのカプセルに弾が当たりました!」
ブライト「あのまま大気圏突入ができるのか?」
マーカー「わかりません!」
リード「ブライト君、このままだとカプセルが中から燃えてしまう」
ブライト「了解しました、ホワイトベースに収容します」
リード「頼む」
ブライト「セイラ、アムロに2機のザクを引き離すように伝えろ」
セイラ「無理です。アムロはシャアと戦うので精一杯なのよ」
ミライ「10パーセント加速。サラミスカプセルの前に出ます」
ブライト「オムル、サラミスのカプセルを収容する、準備急げ。カイ、リュウ、対空援護しろ」
先ほどは「若造」と呼んでいたブライトのことをこの時は「ブライト君」と呼ぶリード。非常にわかりやすい態度である。
第4話の感想でも書いたが、連邦兵は上の者に対しては敬意を表すが、下の者に対しては尊大な態度をとる。ここでもその描写は健在である。
リードはカプセルが着弾した際の焦りっぷりといい、部下へ当たり散らすところといい、無能な上司を絵に描いたような存在だ。
アムロへザク2機を引き離すよう無茶ぶりするブライト。セイラに無理だと即答されてしまう。
すかさずミライがサラミスのカプセルの前にホワイトベースを移動させることで収容を図る。
セイラ、ミライの方が状況が見えている。
"赤い彗星"シャアのモビルスーツ講座
シャア「クラウン何をやってる。敵の銃撃の来るとこはわかったはずだ、接近して叩け。それではザクの性能は発揮できん!」
クラウン「は、しかし、銃撃が激しくて」
シャア「これで激しいものか。よく相手を見て下から攻めてみろ。コム、私についてこれるか?」
コム「は!少佐、大丈夫であります。ザクの右手が使えないだけです。ヒートホークは左手で使います」
シャア「上等だ、よく切り抜けてくれた。私と敵のモビルスーツにあたる」
ホワイトベースの機銃攻撃をよけるだけのクラウンをシャアが叱責する。
ザクの持ち味は接近戦である。大きな戦艦と対峙する場合、戦艦と距離を取ってしまうとただの的になってしまうが、戦艦に取り付いてしまえば相手は攻撃ができなくなる。あとは手持ちの武器で戦艦を撃破すればいい。
以上、シャア少佐のモビルスーツ講座でした。
シャアに褒められたアムロ!?
シャア「ええい、腕が上がってきたようだな、このパイロットは。」
これは素直に受け取っていいのだろうか。アムロの腕も上がっているのだろうが、それよりもガンダムの教育型コンピューターの経験値が上がっているとみる方が自然かもしれない。
ここでコムのザクをガンダムハンマーで見事撃破。残りはクラウンとシャアだけだ。
時間切れ・・・だが・・・
セイラ「アムロ、ホワイトベースに戻って。オーバータイムよ」
アムロ「了解、セイラさん。しかし・・・シャア、これが最後だ!」
シャア「クラウン、ドレンのカプセルに戻れ。クラウン!クラウン、聞こえないのか!?」
ブライト「大気圏突入、シャッター上げろ。ガンダム収容は後部ハッチから行う。各砲座収容。アムロ、ホワイトベース後方のハッチから入れ、もう危険だ」
アムロ「了解。でもバルカンの弾丸が残ってる。あいつをやってやる」
ここで時間切れ。アムロにホワイトベースに戻るよう指示を出す。しかし、アムロがこの指示を無視してザクを襲撃する。
この戦闘は、大気圏に突入しようとしているホワイトベースに対し、それを邪魔してやろうというシャアが仕掛けた攻撃である。
ホワイトベースの勝利条件はシャアを撃退し、無事大気圏を突破することである。敵の殲滅は目的から外れる。
その意味でアムロの行動は上官の命令に反するだけでなく、ガンダムの機体と自分を無駄に危険にさらすものだ。アムロは今回の作戦行動の目的が理解できていない可能性がある。
オスカ「アムロに伝えてください、これではガンダムも大気の摩擦熱で燃えてしまいます」
「大気の摩擦熱で燃える」と言っているがこれは誤りである。
JAXAの解説が非常に分かりやすいので紹介する。
「地球帰還(きかん)時に超高速で大気圏に突入する宇宙船は、すごい勢いで前方の空気を押しつぶします。その押しつぶされた空気中の分子同士が、激しくぶつかり合って熱が発生します。つまり宇宙船と空気との摩擦(まさつ)による発熱ではありません。」
大気圏に突入する機体が高温になるのは、前方の空気を強く圧縮することによって発生する「断熱圧縮」が原因である。
「大気との摩擦」という説明は我々一般人にとってはイメージしやすいものであるけれども明確に間違いである。
富野由悠季のような天才でもこのようなミスをするのか。
こちらのサイトではさらに詳しく「断熱圧縮」について解説されている。
リード「ブライト君、私の使命はこのホワイトベースとガンダムを無事に連邦軍本部に送り届けることなんだ!ガンダムを収容しろ!」
ブライト「アムロに言ってください」
リード「素人が使うからこんなことに!」
ブライト「しかし、ガンダムを出さなければホワイトベースを撃ち落されていました」
ミライ「リード中尉、椅子にお座りください、危険です。外壁冷却機能プラス3に上昇」
リード「軍法会議ものだぞ、いいな?」
ブライトも命令に従わないアムロにイライラしているのだろう、「アムロに言ってください」とつい言ってしまう。
しかし、上官であるブライトにも全く責任がないということにはならない。
この発言も含めて今回のブライトは精彩を欠く。
情けないジオン兵(その2)
クラウン「しょ、少佐、シャア!助けてください!げ、減速できません。シャア少佐!助けてください」
ここでも情けない最期を見せるジオン兵。先ほどのジェイキューも最後に泣き言を言っていた。ジオン兵の質の劣化を物語る描写である。
こうした情けないジオン兵の言動を見ていると、前半のシャアの演説の見方も変わってくる。
ここまではっきり説明して鼓舞してやらなければならないというお守りのような意味合いにも聞こえてくる。
燃え尽きるザク
大気圏で燃え尽きるザク。
このザクが燃え尽きる様をはっきりと描くことで、同じ状況のガンダムはどうなってしまうのかというハラハラ・ドキドキ感が生まれている。
マニュアルは大事
アムロ「あった、大気圏突破の方法が。間に合うのか?姿勢制御、冷却シフト、全回路接続。耐熱フィルム」
機内でマニュアルをめくるアムロ、大気圏突破の方法を見つける。
今回の最大の功労者は、大気圏突入の真っただ中という危急時に、初めて読んだ素人の民間人でも即座に内容を理解し実行できるようなマニュアルを書いた人である。
ペラペラの耐熱フィルムでガンダムを覆うアムロ。
アムロ「もつのか?これで」
もっともな疑問である。
ガンダムの性能を誰も知らない?
シャア「モビルスーツの位置は変わらんな。燃え尽きもしない」
ドレン「どういうことでしょう。あのまま大気圏に突入できる性能を持ってるんでしょうか」
シャア「まさかとは思うが、あの木馬も船ごと大気圏突入をしているとなればありうるな。残念ながら」
ジオンもさることながら、連邦軍の誰もガンダムが大気圏突破の性能を持っていると知らなかったようだ。しかしここは少々不自然に感じた。
大気圏に突入することになるのであれば事前にマニュアルを熟読しておくはずである。特にパイロットであるアムロは当然読んでおくべきである。
大気圏突入時に攻撃を仕掛けてくるはずがないと連邦軍は想定しており、ガンダムの性能の事前調査を怠っていたと考えれば一応話はつながるが、それでも不自然さは否めない。
シャアの狙い
シャア「無線が回復したら大陸のガルマ大佐を呼び出せ」
ドレン「ようやくわかりましたよ、シャア少佐。よしんば大気圏突入前に敵を撃ち漏らしても、敵の進入角度を変えさせて我が軍の制圧下の大陸に木馬を引き寄せる、2段構えの作戦ですな」
シャア「戦いは非情さ。そのくらいのことは考えてある」
シャアの作戦をドレンが説明してくれている。ガンダムやホワイトベースを撃ち漏らしても、ジオン軍の勢力圏内に降下させることができればジオン軍の攻撃のチャンスは続く。
さすが、常に二手三手先を考える男である。
なお、ここから地球上にもジオン軍が制圧している領域があることが分かる。地球から最も遠いサイド3から進撃して、地球上にも勢力圏をもつに至っているジオン軍。これまでの快進撃ぶりを物語っている。
シャアとガルマ
ガルマ「よう、なんだい、赤い彗星」
シャア「その呼び名は返上しなくちゃならんようだよ、ガルマ・ザビ大佐」
ガルマ「ははは、珍しく弱気じゃないか」
シャア「敵の”V作戦”って聞いたことがあるか。その正体を突きとめたんだがね」
ガルマ「なんだと」
シャア「そのおかげで私はザクを8機も撃破されてしまったよ」
ガルマ「ひどいものだな、そんなにすごいのか?」
シャア「そちらにおびきこみはした。君の手柄にするんだな。のちほどそっちへ行く」
ガルマ「よし、そのご厚意は頂こう。」
シャアとガルマはお友達のようだ。階級はガルマが大佐でシャアが少佐。通常であればシャアが敬語を使うべき関係だ。
しかし、お互いにため口である。ガルマもそのことを気にも留めない。なんせ最初の呼びかけが「よう、なんだい、赤い彗星」である。シャアも会話の最後でガルマのことを「君」と呼んでいる。
この2人は階級を越えたかなり親しい間柄のようだ。年齢もそんなに変わらないと思われる。
ガルマはずーっと毛先をくるくるしている。髪に触る癖は不安感やストレスからくる場合があるが、ガルマの癖もおそらくこれであろう。
大佐という重任にありながら毛先をくるくるする様からして、ガルマはたぶん小物である。
ブライトの表情の変化
無事大気圏を突破したガンダム。ジオンのザクが燃え尽きてしまったのとは対照的に無傷である。ガンダムの性能の高さが窺える。
ブライト「ヤツめ、あとで締め上げなければならんが、このモビルスーツがあれば連邦軍はジオンに勝てる」
このセリフを言うときのブライトの表情の変化が素晴らしい。目元の描写がわずかに変わるだけだが、それだけでブライトの感じた手ごたえ、自信、希望を表現している。こういうところにプロの技が光っている。
シャアに嵌められたホワイトベース
マーカー「予定進入角です。現在までのコースです」
リード「これではなんにもならんじゃないか!!ブライト君!」
ブライト「そう思います。ここはジオンの勢力圏内です」
リード「冗談じゃない。うっ」
セイラ「傷の手当てを」
ブライト「シャアは戦術にすぐれた男です。我々はシャアにはめられたんです」
リード「突破するんだ、なにがなんでも!」
マーカー「敵機です!」
リード「なに」
大気圏突入時にシャアに襲撃され、窮地を乗り越えたと思ったらガンダムが収容できず、そのまま大気圏を突破。ガンダムは何とか無事だったものの、ジオン軍の勢力圏内に降下してしまう、そのことが判明したまさにその時に敵機の接近を知る。
文字通り、ホワイトベースには息つく暇もない。
第5話の感想
いよいよ地球に到着したホワイトベース。しかし、シャアの術中にはまりジオン軍勢力圏内に降下してしまった。そこにガルマザビ率いるガウの艦隊が接近する。
これまではシャア率いる一小隊が相手だったが、今度はガルマの大艦隊である。
はたしてホワイトベースの運命は!?
今回のお話は戦闘がメインだった。人間ドラマ、セリフで見せるというよりは映像で状況を説明するところが多かった。
シャアの采配が冴えわたる回だ。シャアの策略にホワイトベースははまり大ピンチに陥っている。次回以降の地球上での展開が気になるところである。
民間人とアムロとの会話からこの物語の背景もより詳細に明らかになってきた。連邦政府の強硬的な移住政策とジオン軍の蜂起は無関係ではない。
こうした背景事情が重奏低音として横たわっていることに着目すれば、より深く「機動戦士ガンダム」を味わうことができるだろう。
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