「俺達と離れたくないんだよ」カツ・レツ・キッカがホワイトベースに乗ってていい理由~機動戦士ガンダム 第30話「小さな防衛線」感想
やる気のない連邦兵
やる気のない連邦兵達である。毎日毎日同じことの繰り返しで生きている気がしないんだろう。
第14話「時間よ、とまれ」ではジオン軍側の兵士のストーリーとして同じような状況を描いていた。
しかし、こうして気が緩んだ時こそ攻撃のチャンスである。シャアはその瞬間を逃さなかった。
新型モビルスーツ・アッガイでジャブロー内に侵入する。
ホワイトベースの編成、所属
ようやくホワイトベースの編成と所属が決まった。
といっても子供らだけで運用というありえない編成で正規の連邦兵の補充もない。このあたりはストーリー上仕方ないところであろう。
所属はティアンム艦隊の第13独立部隊である。
独立部隊とは、
この「独立部隊」の連邦軍内での立ち位置はのちほど明らかにされる。
カツ・レツ・キッカは育児センターへ
今回の主役であるカツ・レツ・キッカの登場である。育児センターとはジャブロー内で働く兵士の子供を預かる保育所のようなところであろうか。
第26話「復活のシャア」でもこの子達の処遇が軽く俎上に載っていた。4〜5歳程度であろう子供達を戦艦に乗せる理屈はない。今回はそのことが本格的に問われる回のようである。
このシーン、フラウボウが辞令を片手で受け取っているところがなかなかいい。ブライトはきちんと両手で受け取っているところを片手である。
連邦軍に組み込まれたとはいえ、形式的にそうなったというに過ぎず、実質的には何の軍事教練も受けていない素人だ。
軍人になりきれないアムロやフラウボウの描写が印象的である。
二階級特進!?
ホワイトベースのクルー達に階級が申し渡される。
ブライト・ノア中尉
ミライ・ヤシマ少尉
セイラ・マス軍曹
アムロ・レイ曹長
カイ・シデン伍長
ハヤト・コバヤシ伍長
フラウ・ボゥ上等兵
階級上位者から呼ばれているのかと思っていたら、アムロとセイラの順序が逆である。陸軍に習えば、軍曹より曹長の方が階級が上なので、セイラとアムロではアムロの方が上官になる。
違和感は拭えないが、まぁ軍の組織体系や呼称は時代や国等によって異なるので、宇宙世紀の連邦軍ではこうなっているということであろう。
アムロは軍隊に編入されることについて何か腑に落ちない感覚があるようだ。
アムロは状況に流れる中でガンダムに乗っているだけで、正規の軍隊教育を受けていないのであるから、その意義を理解できていなくて当然である。
そこにリュウの二階級特進が伝えられる。これにアムロが「それだけなんですか?」とつっかかる。
アムロ達のくぐり抜けてきた危機的状況や、そこで亡くなってしまったリュウをはじめとするクルー達のことを考えればこれくらいのことを言いたくなる気持ちもわかる。
連邦軍も戦死者のことを考えていないわけではない。二階級特進はリュウの功績を讃える恩恵であり、連邦軍なりの敬意の表明である。
しかし、アムロが求めているのはそういう書類上の扱いではない。もっと血の通った人間的な扱いだ。自分達が連邦軍の中で一人の人間として尊重されている実感を伴った扱いだ。
結局、アムロが平手打ちを食らってこの場は収まったようだが、禍根を残しそうな展開である。
アムロがまた殴られたのでアムロ殴られメーターを更新しておこう。
1回目、2回目 ブライトから(第9話)
3回目 リュウから(第12話)
4回目 ロランから(第15話)
5回目 連邦士官から(第30話)
連邦士官から殴られ、意気消沈しているアムロ。「置いていくしかないよ」とつぶやくようにいく。常識的な判断である。
フラウボウは「そうかもね・・・」と同じ意見のようだ。しかし「ここにいて本当に幸せになれるのかしら?」と心残りな部分がある様子である。
未来の子守りロボットの登場だ。この古色蒼然とした近未来ロボットのデザインが実に素晴らしい。こうした描写でこのアニメが40年以上前の1979年のアニメであることを想起させてくれる。
カツ・レツ・キッカと言い争いをする子供の発言から、ジャブローの子守り事情が伺える。
子供達は親元から離れ、育児センターという名の無機質なフロアに入れられ、そこで日々を過ごしている。
窓はあるが景色は薄暗い岩肌ばかり。この子達は太陽の光を直接浴びたことはあるのだろうか。
子供同士でわずかなオモチャで遊ぶ毎日。相手をしてくれるのはこれまた無機質なロボットだ。育児センターにいる子供達に覇気はなく、笑顔も見られない。
育児センターという名称から保育所のような場所かと思っていたが、「ここでじっとしてお父様とお母様が会いに来てくれるのを待ってるだけだもん」という発言からすると、どうやら違うらしい。
戦争で親が死んでしまった子や、親が遠方へ出撃している子等を収容し、親は定期的に面会にくる程度で、今で言う児童養護施設に近いのかもしれない。
レツの「子供が無邪気じゃいけないのかよ」という発言に対し、「だけどそんなの大人を喜ばせるだけだい」と返す子供。たしかにかわいくない。アムロみたいなひねたガキである。
身なりからしてかなり裕福なところのおぼっちゃんという感じがする。おそらくはそれなりの階級にある士官の子弟なのだろうが、そういった子弟もあまり良い待遇は受けられていないようだ。
ジム量産
量産されたジムをみて「連邦軍もここまでこぎつけた」というシャア。
ジオン軍がこの戦争を有利に進めることができていたのはモビルスーツの実戦投入に成功したことが大きい。そのアドバンテージを最大限に活かして月を押さえ、地球上にも勢力圏を持つに至っている。
しかし、ガンダムをはじめとした連邦軍の新型モビルスーツの登場により戦況は動きつつある。オデッサの戦いでも敗北を喫してしまった。
そこに来てこの量産されたジム達だ。シャアの覚えた危機感はいかほどであろうか。
しかし、シャアにも勝機がないわけではない。ホワイトベースを追跡してジャブローの入り口を掴んだことは大手柄だ。
ここでジャブローを制圧できれば連邦軍の反攻を封じ込めることができる。ジオンにとってここが正念場だ。
「船に帰るんだ」
アッガイの頭上を渡り、ジムの保管庫(?)に侵入するカツ・レツ・キッカの3人。何とも微笑ましいシーンだが、その一方でハラハラドキドキするシーンでもある。
「船に帰るんだ」というセリフが実にエモい。この子達の帰るべき家はもうホワイトベースなのだ。
その後、案の定ジオン兵に見つかり、拘束されてしまった。爆弾も30分後には爆発してしまう。
果たしてカツ・レツ・キッカの運命は!?
おなじみのフォーマット
悪漢に見つかった子供達
時限爆弾を仕掛け「悪く思わないでくれ」と言い残して去る悪漢
知恵と工夫と馬鹿力で縄を解く
爆弾を外し、
遠くへ捨てようと車に乗り込むがエンジンがかからない、
ギリギリのタイミングで味方が現れ救出される、
爆弾を乗せた車はそのまま谷底へ、大爆発。
フォーマットに沿った見事な展開である。
腕時計型通信機
シャアの爆弾設置作戦は失敗に終わったようだ。腕時計型通信機でラジム側と連絡を取る。
ここでの着目ポイントは、シャアが腕時計型通信機を手袋の下に付けているところである。
さらに使用する際、わざわざ手袋をめくって腕時計型通信機を露出させている。
手袋をめくって使うなら初めから手袋の上から付ければいいのにとついつい考えてしまうが、これこそシャアのセンス溢れるおしゃれコーデなのだろう。
シャアとセイラの再会
シャアとセイラの再会である。第2話、第11話に続き、実に19話ぶりである。なお、第11話ではセイラがシャアの姿をチラッとみただけなので、厳密には「会った」とはいえないかもしれないが、こまけぇこたぁいいんだよ。
セイラもシャアのことを「やさしいキャスバル兄さん」というのか。シャアもセイラのことを「そう、アルティシアはもっとやさしい」(第4話「ルナツー脱出作戦」)と言っていた。やはり兄妹だ。
シャアはセイラに「軍から身を引いてくれないか」とだけ言って去っていった。
第4話でも述べたが、シャアの弱点はアルテイシアに対して危害を加える行動を取れないところである。
連邦軍にアルテイシアがいる限り、シャアは思い切った攻撃をすることができない。だから「軍から身を引いてくれ」とアルテイシアに言ったのだ。
あとは、優しい優しいアルテイシアが戦争という殺し合いの世界に身を置いていること自体にシャアは耐えられないということもあるだろう。
アムロvsシャア(8戦目)
いよいよガンダムの出撃である。アッガイをばっさばっさと薙ぎ倒していくガンダム。ズゴックも左腕を斬り飛ばされてしまった。シャアも「腕を上げた・・・」と感心するほどである。
今回は撤退戦なのでシャアが不利という状況ではあるものの、ガンダム単騎で複数撃破は素晴らしい働きである。
ただ、このシーン、見たところ撃破されたアッガイは3機のはずだが、シャアは「4機」と言っている。ダイジェスト的に撃破シーンを省略されてしまったアッガイがいるということか。
大団円
育児官コーリンの「子供達は連邦軍の未来を背負う者として大切に育てられるんですよ」という言葉が印象的だ。子供達も将来の軍人候補者として育てられるという戦時ならではの発想である。
アムロの「この子達が生きてる間にジオンも連邦軍もない世界だって来るかもしれないでしょ」というセリフはとにかく青臭い。いかにもアムロが言いそうなセリフだ。
これに対し、カイのセリフは現実主義者であるカイらしい。「俺達と離れたくないんだよ」とカツ・レツ・キッカの気持ちを代弁しているし、ホワイトベースのクルー達と幾多の戦禍を切り抜けてきた実績をアピール。大人向けの説得材料をきちんと提供している。
カイがカツ・レツ・キッカに援護射撃をするのはミハルと離れ離れになってしまったジルとミリーのことがあったからであろう。
ともあれ、カツ・レツ・キッカははれてホワイトベースに搭乗することを許されたわけだ。
大団円を迎えたクルー達の輪から少し離れてセイラが窓の外を見やっている。
「軍から身を引いてくれないか」という兄の言葉を反芻しているのか、不安そうな表情を浮かべている。
エヴァンゲリオン!?
会議の状況が完全にエヴァンゲリオンである。
元ネタはこれだったのか。それとももっとさかのぼれる伝統的なシーンなのか。完全な予想だが宇宙戦艦ヤマト(1974年)にも似たようなシーンは出てきそうな感じがする。このあたり、ご存知の方がいらっしゃれば教えてほしい。
こういう一つのシーンに着目して掘り下げるのも作品鑑賞の楽しさの一つである。
今回の冒頭で、ホワイトベースの所属が決まったと言っていたが、その実態はなかなかブライト達にとってなかなかハードな展開であった。
ホワイトベースの苦難はまだまだ続きそうである。
第30話の感想
軍艦であるホワイトベースにカツ達のようなちびっ子が乗っているのはなぜか。今回はこの点を掘り下げ、カツ・レツ・キッカがホワイトベースに搭乗してよいという物語上の正統性を描いた回である。
カツ達が主役であるため、全体的に箸休め回という印象があった。モビルスーツ戦はおまけのような描かれ方である。
それでもジムの量産、ホワイトベースの処遇、シャアとセイラの再会などなど、今後の戦争の運命を左右しそうな事情もたくさん盛り込まれており、いわゆる「捨て回」といったものでは決してない。
とくに、ジャブロー内の子供らの置かれ状況はなかなか身につまされるものがあった。ジル・ミリーといい、育児センターの子供たちといい、果たしてこの子達が太陽の下で元気いっぱいに遊べる日はやってくるのか。
さて、次回ホワイトベースは再び宇宙へ旅立つ。ラストで語られた「おとり専門部隊」とはいかなる意味なのか、次回明らかになるであろう。
連邦軍本部に到着しても気の休まることのないホワイトベースのクルー達、果たして彼らに安寧の日は訪れるのか。
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