スレッガー・ロウ登場!ホワイトベースvsザンジバルの砲撃戦~機動戦士ガンダム 第31話「ザンジバル、追撃!」感想
おとり
前回のラスト、ホワイトベースをおとりとして利用する話が出ていた。今回さっそくおとりとしてのお達しである。
ブライトは「2時間も前に、でありますか?」と、この扱いを私は不満に思っていますよ、という感じを醸す。
これを受けてか、ゴップも「あ、おとり艦はほかに3隻いるから大丈夫だよ(^^)b」と付け加えるが、何の慰めにもならない。
連邦軍の狙いはジオンの「宇宙要塞ソロモン」を叩くことである。ソロモンの名は今回はじめて登場した。その実態は今後明らかにされるのであろう。
本筋とはあまり関係ないことではあるが「ティアンム艦隊」のティアンムさんはいつになったらご尊顔を拝見できるのであろうか。ここ数話その名前はよく出てくるが、肝心のティアンムさんはまだ一度も登場していない。ブライトですら会ったことがあるのかどうかストーリー上明らかでない。
完全に外様扱いのホワイトベースの立ち位置を暗示しているかのようである。
ミライのフィアンセ
ゴップは、ミライには労いの言葉をかけるがブライトにはしない。ミライの家柄の良さからくる差別的な対応である。第4話「ルナツー脱出作戦」でもワッケイン達の正規軍の民間人に対する差別意識が描かれていた。こうした差別意識丸出しな軍人をあえて描くところが機動戦士ガンダムである。
「お婿さん」の話をブライトの前でされてミライが困惑の表情を浮かべる。
「私にはフィアンセがいるんだけど・・・」という感情と「ブライトの前で言わないでほしい・・・」という感情とがないまぜになった絶妙な表情だ。
ゴップは続けて「あ、ああ、フィアンセがいたっけな。ああ、すまんすまん」と追い討ちをかける。とことん空気の読めない上司だ。
「フィアンセ」という言葉にブライトが敏感に反応する。いかにも不機嫌ですといった表情で、足早に去ろうとする。
この辺りの各登場人物の感情表現が実にうまい。言葉で説明しなくても表情や動きで、感情やその場の空気感まで全て伝わってくる。
ブライトは、第17話「アムロ脱走」で、アムロをガンダムから下ろそうという話をミライとしているとき、そっと手を肩に乗せようとしてミライに避けられた過去がある。ミライはブライトのこの思いを知っているので、実にバツが悪そうだ。
スレッガー・ロウ中尉
スレッガー・ロウ初登場である。なれなれしくて、軽薄そうで、ホワイトベースのクルー達を舐めている節がある。艦長であるブライトに敬礼もしなければ敬語も使わない。今後、いかにもホワイトベース内の台風の目になりそうなキャラだ。
カツ・レツ・キッカのスレッガー評は「体の大きいとろこがリュウにそっくり」「お調子者」らしい。いまはまだ新しい人がやってきたという物珍しさで興味津々といった段階だろう。
ホワイトベース発進!
いよいよホワイトベースの発進だ。サイド7からジャブローまでのような逃亡ではなく、今度は軍事行動としての出撃である。なかなか感慨深いものだ。
このシーン、連邦兵がルパンと次元に見えるのだがただの偶然か、それとも富野由悠季の遊び心か。
今回も動物の登場である。ここ数話ジャブロー周辺の動物たちが数多く出てきた。このあたりについては一本まとめ記事を上げようと思う。
ザンジバル発進!
ホワイトベースがジャブローを発進したとの報を受けて、そのあとを追うようにシャアもザンジバルで出撃する。ザンジバルといえば、第12話「ジオンの脅威」でランバ・ラルが地球へ降下した際に搭乗していた艦だ。
この時のザンジバルはまだテスト中で、すぐにドズルの元に返還されたらしく、実践投入されることはなかった。今回、満を持して再登場である。
しかし、この時点でシャアは連邦軍のおとり作戦に引っかかってしまっていた。作戦第一段階は連邦軍に軍配である。シャアがそのことに気づくのはもうしばらく後のことだ。
新型モビルアーマー・ビグロ
今回のジオン軍の新型兵器はモビルアーマーのビグロである。トクワンの説明では「高速戦闘」向きとのこと。
また、黒い三連星の見事なジェットストリームアタックを見せたドムもパワーアップして再登場である。
バーニアとは姿勢制御用の補助エンジンのことである。
「バーニアをパワーアップしてあるリック・ドム」とは、要するに、本来ドムは陸戦用のモビルスーツで宇宙空間での戦闘には不向きだが、今回登場するリック・ドムはバーニアが改良してあって、宇宙空間でも動きやすく姿勢を保ちやすくて、ザクよりもはるかに強いよということだろう。
作戦的中
月へ向かうよう見せかけるホワイトベース。しかし、シャアはそれをおとりだと見抜いた。そして、今頃はジャブローから別艦隊が発進しているであろうことまで推察している。さすがである。
しかし、見抜いたとはいえ、シャアたちがそのおとりに連れられてきてしまっていることに変わりはない。トクワンは引き返そうと提案するが、シャアは「先制攻撃を仕掛けるしかない」とホワイトベースとの戦闘を決意する。
ホワイトベースvsザンジバル
ホワイトベースとザンジバルの戦闘が始まった。ホワイトベース側はGスカイ、Gブルイージー、ガンキャノンである。対するザンジバル側は新型モビルアーマー・ビグロとドム2機だ。
セイラのGブルイージーにビグロが突っ込んでくる。セイラがビーム砲で応戦するが、ビグロのスピードが異常に速い。撃った時点ですでにビグロはGブルイージーの上空をすり抜けていた。さすが高速戦闘用の新兵器である。
さらに、ビグロの攻勢が続く。すれ違いざまにかぎ爪状のアームにGブルイージーを引っ掛ける。
しかし、セイラの言う通り、引っ掛け方が悪かった。Gブルイージーのビーム砲がビグロの方を向いており、このまま発射すればビグロを撃墜できる。
ところがここでセイラがビーム砲の発射を一瞬ためらう。「このビグロにキャスバル兄さんが乗っているのではないか」ということが頭をよぎったのだ。
この一瞬のためらいがセイラを危機に陥れる。ビグロはGブルイージーを地球に向けて放り投げた。
アムロの「上昇するんです!」の声も虚しく地球に落ちていくGブルイージー。このままではガンダムに換装することもできない。果たして!?
「じゃあやらねえ」
ブライトがスレッガーに主砲にまわるように指示をする。しかし、そのやりとりは軍隊のそれとは思えない。
「ご専門はなんでしょう?」とか「主砲の方にまわっていただけませんか?」とか、艦長としての指示というよりは「お願い」である。
しかもスレッガーの方も、ホワイトベースの向きを変えてくれと「条件」をつけたり、それが通りそうにないとみるや「じゃあやらねぇ」といって通信モニターを一方的に切断したりと、やりたい放題である。
まるでサイド7を出撃した直後、素人集団でまったくまとまりのなかった頃のホワイトベースを想起させるようなやりとりである。
今回の転属の命令を受けた時、スレッガーはどう思ったのだろうか。こんな子供ばかりが乗り込んで運用しているテレビアニメみたいな軍艦に配属され、しかも命令されたのはおとりという危険な任務。
左遷されたという思いが強いはずで、だからこそなかばやけくそ気味にここまで奔放で自分勝手な言動をとっているのであろうか。それとも、もともとそうした言動で鼻つまみ者だったために「ここがお似合いだ」とホワイトベースに配属となったのか。
いずれにせよ、スレッガーにしてみればなんでおれがこんな船に乗らなければならないんだという思いが強いはずだ。
このカツ・レツ・キッカ達を見ている時の言動からもそうした思いが透けて見える。
アルテイシア回想
第4話で、シャアはルナツーに攻撃を仕掛ける前に、アルテイシアのことを回想していた。
このときは「アルテイシアはあんなに強い女じゃない」と自分に言い聞かせてルナツー攻撃を決意した。
今回も同様である。「あんなに戦争を嫌っていたアルテイシアが宇宙戦艦なんかに乗り込んでるわけないよな」と言い聞かせて、攻撃を継続する。やはりアルテイシアを危険にさらす行動をとることができない点はシャアのアキレス腱である。
セイラもシャアも全く同じことを考えているが、最後はためらわず攻撃をするシャアに対し、最後の最後で踏み切れなかったセイラ。戦場でこの違いはかなり大きい。
「指揮権は私にある」
事故的にミライに抱き着く形になったスレッガーを苦々しく一瞥するブライト。スレッガーの「ブライト中尉さんよ」の呼びかけに「指揮権は私にある!」とブチ切れる。
そうはいいつつも、ホワイトベースを方向転換することは約束した。
なお、このシーン、スレッガーの手がミライの肩に乗ったままだ。ブライトですら触らせてもらえなかったミライの肩にである。
その手をミライがさりげなく払っているのも見どころだ。
ガンキャノン出撃
ガンキャノンがアムロとセイラの援護に向かうため出撃。
それを確認してブライトがホワイトベースの180度回頭を指示。スレッガーの望み通りの展開に。
ここから先はスレッガーの腕の見せ所である。ミライに声をかけブリッジを後にするスレッガーだが、果たしてその腕前はいかに。
しかし、ブライトも成長したものだ。アムロと対立して意固地になり、なかなかアムロを独房から出さなかった頃のブライトのままであれば、絶対にホワイトベース回頭はなかっただろう。
リュウの死は決して無駄ではなかった。
ガンダム換装
ビグロに完全に押されているアムロ。セイラは地球に落下中で役に立っていない。あの時の一瞬のためらいの代償はでかい。
地球に落下中のGブルイージーの直前でミサイルを爆発させ落下速度を落とすというアクロバティックな技をはなつアムロ。このあたりはいかにもアニメという感じである。
速度が落ちたところでガンダムに換装。宇宙でのガンダム換装ははじめてだが何の問題もなく完了。
セイラがモビルアーマーのパイロットについてアムロに尋ねるが、アムロには意味がわからない。当然である。戦闘中に話すことではない。
前回シャアとエンカウントしてからセイラはずっと悩み通しである。まったく戦闘に集中できていない。そろそろセイラとシャアの関係も隠しきれなくなってきているのではなかろうか。
宇宙戦艦同士の砲撃戦
いよいよ砲撃戦である。ホワイトベースもザンジバルも射程距離はほぼ同じ。壮絶な撃ち合いになるはずだ。なお、ブライトは「艦隊砲撃戦用意」と言っているが、ホワイトベースは1機だけなので「艦隊」ではない。
ブライトとシャアが言っている「回避運動」とは、敵艦に狙い撃ちされないようにジグザグに動いたり、加速したり、減速したりしながら、敵艦に狙い撃ちされないようにする行動のことである。こういう軍事用語をさらっと入れてくるところも機動戦士ガンダムらしい。
ここでもシャアはアルテイシアのことを回想している。しかも今度は幼い頃のアルテイシアの映像付きだ。ただこの絵は少々ひどい。
砲撃開始!
ホワイトベースが一斉射撃を仕掛ける。これに対しザンジバルはじっと耐える。耐えてホワイトベースを引きつけてから一気にカタをつけるつもりだ。
ホワイトベースの攻撃を耐えきったザンジバル。反撃開始だ。
ここでシャアがザンジバルをホワイトベースに向けて特攻させる。大胆な作戦だ。「うろうろ逃げるより当たらんものだ」というが部下は半信半疑である。ただこの場面で「私が保証する」と言い切ってしまえるのがシャアの強さであろう。
シャアの特攻にブライトはこの表情。完全にうろたえている。すかさずミライに右によけろと指示を出す。
シャアは余裕の表情。ホワイトベースの動きをみて「おじけづいている」と見抜き一気に攻勢をかける。ブライトも艦長として板についてきたとはいえ、やはり采配はシャアの方が上である。
直撃!
ホワイトベースとザンジバルがすれ違うその瞬間、スレッガーが主砲を発射。これがザンジバルを直撃する。
両軍ともに直撃はこの1発のみ。スレッガー、なかなかやるやん。
ドム撃破!
セイラのGファイターがドムを撃破。
ガンダムもビグロに挑む。
捕まったガンダム
ビグロに引っ掛けられたガンダム。グラブロといいこのビグロといい、最近のガンダムはモビルアーマーによく捕まる。
ガンダムが高速のビグロに捕まり、その加速によってアムロが気を失う。
トクワンはこれさいわいと主砲による攻撃を試みる。両手でガンダムを固定し、主砲前にセット。ガンダムピンチ!
お目覚め
と、思っていたら、アームがガンダムを掴んだ際の衝撃でアムロがお目覚め。
ビグロのビーム砲をギリギリでかわし、ビームライフルで撃ち抜く。危機一髪である。
「スレッガー中尉、さすがですね」
スレッガーはセイラにウィンクしたり、ミライに「一緒にシャワー行こうぜ!」と言ったり女性陣からは顰蹙を買っている。ただの軽口セクハラ野郎である。
しかし、カイやアムロ、ハヤトとは一緒にシャワーに行っているということは馬があうのか。なかなかつかみどころの難しいキャラである。
第31話の感想
今回はブライトとシャアの対決を描いた回である。ホワイトベースとザンジバルというそれぞれの新型軍艦を率いる艦長同士の直接対決だ。
今回のホワイトベースvsザンジバルの砲撃戦は、ガンダムvsグフに勝るとも劣らない名勝負である。
この2人、以前にも対決したことがある。それは第8話「戦場は荒野」での一幕である。
その時はブライトの作戦が見事に決まり、ホワイトベースは危機を脱した。まぁその時のジオン軍の司令官はガルマで、シャアはわき役だったわけだが。
今回はどうか。ザンジバルの特攻作戦に完全に狼狽してしまったブライトと、その様子を的確に見抜き攻勢をかけるシャア。うろたえるブライトと余裕の笑みを浮かべるシャアの対比が見事だ。
ブライトにしてみればシャアが追撃してくるというだけでも大変なのに、そこに新入りのスレッガーがうろちょろして、しかも命令もろくに聞いてくれないありさまである。まさに「内憂外患こもごも至る」の状態だ。
そんな中ブライトの成長が垣間見えたのが印象的であった。リュウの死は決して無駄ではなかった。その反省や教訓はブライトの中で確実に生きている。なんとも胸熱な展開だ。
当のスレッガーであるが、なかなかその人物像をつかみきれない。表面的には周囲の女性になれなれしく、軽口をたたき、艦長命令には反発するただのセクハラクソ野郎だ。
しかし、よくよく見るとスレッガーがブライトに反発したのは、主砲を敵艦に向けるためにホワイトベースを転回してほしいと頼んだのに受け入れられなかったときである。その際、「慣性飛行中だからできはず」とホワイトベースの状況もよく理解している。
回頭すると加速できなくなるのでザンジバルに追いつかれてしまう。そう考えブライトはスレッガーの提案を拒否する。
しかし、この時点でGスカイとGブルイージー、ガンキャノンを出撃させており、ザンジバル側との戦闘は覚悟しているはずだ。ならばホワイトベースも回頭して主砲も使えるように準備するのは自然な流れである。
もっとも早く状況を把握し、作戦行動を提案していたのはほかならぬスレッガーだった。しかもザンジバルに主砲を直撃させるという確実な腕ももっている。こう考えればスレッガーはなかなか優秀な人物といえるだろう。
セクハラクソ野郎からセクハラ野郎に昇格である。
さて、次回はドレン率いるムサイ艦隊がホワイトベースの前に立ちふさがる。ドレンといえば、シャアの部下として常に行動を共にしていた人物だ。この2人が再びホワイトベースに挑む。
果たしてホワイトベースの運命は!?