「いつまでもこんな世の中じゃないんだろ?」ミハルの死とカイの決意~機動戦士ガンダム 第28話「大西洋、血に染めて」感想
「半分は嘘じゃない・・・」
前回、交戦中にホワイトベース潜入に成功したスパイ・ミハル。周囲を警戒しながらブライトの部屋を漁る。そこにカイが入室して鉢合わせになり、とっさにデスクの下に隠れ拳銃を構える。
ここでミハルの着ていた連邦軍の制服が破れる。サイズがあっていないのを無理やり着ていたようだ。その音でカイがミハルの存在に気づいた。
ミハルはスパイ活動をしていることを隠そうとしてとっさに「私、あんたについて行きたかったんだよ。」と嘘をついた。
しかし、カイはその嘘を瞬時に見破り「じゃあ、そのユニフォームどうしたんだよ?その拳銃もさ」とマジレスしてしまう。口をつぐむミハルに追い討ちをかけるように「わかってるよ。あんなに兄弟思いのあんたが俺を想って来たなんていうのは嘘だってこと」さとすように言う。
ミハルは「嘘じゃないさ。は、半分は嘘じゃない・・・」と返す。この「半分は嘘じゃない」はミハルの本音か、それともその場を取り繕う方便か。
アニメをみると「嘘じゃないさ」というミハルは少々ムキになっている。好意を告白したのに全く意に介さないカイにムカついてとっさに出た本音かもしれない。
南米行きを漏らす
アムロとカイの会話からホワイトベースの目的地が南米ということがミハルにばれた。カイはさらにミハルに「宇宙船用ドックに入るんだよ」とより詳しい情報を漏らす。ここでミハルに情報を漏らしたとしても、ミハルがそれをジオン側に伝える手段はない。それを見越しての行動である。
しかし、今回はジオン側の方が一枚上手だった。
ヴェルデ諸島
ブーンが民間機を装ってホワイトベースに接近、まんまと着艦を果たす。
ここで登場する「ヴェルデ諸島」とは、ベルデ岬諸島のことと考えられる。ベルデ岬諸島は、アフリカ大陸西端のベルデ岬から西方約600キロメートルに位置する群島である。
おそらくブーンはこのベルデ岬諸島の漁業組合の飛行機を盗み、ホワイトベースに接近したということだろう。
目的は当然のことながら、ミハルからホワイトベースの目的地を入手することだ。
木馬に潜り込んだ人たち
残念、ジオン兵で最初にホワイトベースに入ったのはランバ・ラルの部下コズン・グラハムである(第16話「セイラ出撃」)。もっとも捕虜としてであったが。
戦闘行為として初めてホワイトベースに潜入したのはランバ・ラルである(第20話「死闘!ホワイト・ベース」)。
ブーンと交信
ついにブーンにホワイトベースの目的地が伝わってしまった。
このシーンで印象的なのはミハルの居眠りである。
兄弟と別れてから砲弾飛び交う戦場をかいくぐり、ホワイトベースに潜入。クルーに見つからないようにホワイトベース内を探索して士官室を見つけ、情報を探っていたらカイに見つかり、今に至る。
緊張の連続で気の休まる暇のない状況だった。それが、カイの部屋に匿われてようやく一息つけたといったところであろう。そら居眠りもするというものだ。
しかし、それ以上に重要な事実は、スパイであるミハルがカイの部屋で居眠りをするということはミハルがカイに対して心を許しているということである。
前回、前々回からここまでのやり取りで、カイはミハルにとって信頼できる人間になっているということだ。
「これからあんたとは関係のないことだ!」
カイが食事を運んできた。今回のガンダム飯はそこそこ美味しそうだ。少なくとも、前回登場した固そうなパンよりかは食指が動く。
カイはホワイトベースの目的地をミハルにバラしたが、それはミハルにバラしても連絡手段がないためジオン側に情報が漏れる可能性がないと考えていたからである。
しかし、ミハルはジオン側と連絡をつけたという。ここにきてカイは救助を求めて着艦した民間機がジオンのものだと気づく。カイのアテが外れたわけだ。
カイがデッキに急ぐ。その身のこなしが見事だ。第17話「アムロ脱走」でコズンが見せたのと全く同じ動きである。カイもホワイトベースで数々の戦闘を経験し、レベルアップしていることがわかる。
カイは走り出す前にミハルに対して「これからあとはあんたとは関係のないことだ。」という。あくまでもカイはミハルをかばう。
その背後にあるのは一体何だろうか。
ミハルは連邦軍とジオン軍との戦争によって両親を失い、住む場所も失った。幼い弟達を食べさせるためにジオンのスパイとなって生計をたてている。
ミハルは両親を奪った戦争を憎んでいるはずである。しかし、生きていくためにスパイという戦争に加担する活動を行なっている。
何とも皮肉な話だが、ミハルのスパイ活動によってもたらされた情報で、さらに戦闘がおき、ミハルと同じような境遇の者を多数生むことになる。
カイの境遇も似たようなものだ。ザクの奇襲によってサイド7を追われ、命からがらホワイトベースに逃げ込んだと思えば、いつの間にか自らもモビルスーツに搭乗して戦闘行為を行っている。
戦争で日常のささやかな幸せを破壊された者は当然戦争を憎むだろう。しかし、それでも生きていくためにはスパイ活動であったり、パイロットになったりと、その戦争に依存していかなければならない。そしてその行為によってさらに多くの人命や生活が失われる。
カイは、ミハルの境遇にただ同情したという以上に、ミハル達3兄弟が必死で生きようとする姿に自分自身を投影し、ほっとけなくなったのだ。
ブーン脱出!
カイが必死にブライトを説得しようとするが、ミハルのことを話すわけにはいかないため、説得材料が「こんな時間にホワイトベースに接近んするのはおかしい」というくらいしかない。
ブライトの対応があっさりしすぎているきらいがないではないが、身体検査もしているし飛行機の所属も調べているし、このあたりが限界か。
ブーン出撃
さて、ブーンの活躍によりホワイトベースの行き先が南米の宇宙船用ドックと判明した。
宿敵ホワイトベースを打倒するチャンスというだけでなく、連邦軍本部の正確な場所も芋づる式に入手できるかもしれない大収穫だ。
シャアにしてみればすぐにでもホワイトベース追跡に向かいたいはずだが、アフリカで連邦軍と対峙しており、持ち場を離れることはできない。
そこにブーンがモビルアーマー・グラブロでの出撃を志願する。
グラブロの出撃シーン。今回出撃するのはモビルアーマーグラブロとズゴック2機である。
よく見ると後方にさらにズゴックが3機ほど控えている。ジオンはまだまだ戦力を温存していると思わせる描写だ。
戦闘開始!!
ブーンのグラブロがホワイトベースに接近。戦闘が始まった。海中からミサイルを発射しまくるグラブロ。
ミサイル攻撃で揺れるホワイトベース内で、ミハルはカツ、レツ、キッカの姿を目撃し、衝撃を受ける。
グラブロ、ズゴックの放ったミサイルがホワイトベースを直撃。爆風で吹っ飛ぶクルーの姿がはっきりと描かれている。
ミハルが「私のせいなんだ」と自責の念から戦闘に参加させてほしいとカイにいう。
ミハルはここにいたって初めて自分のしてきたことの意味を理解したのかもしれない。
ミハルはスパイだ。自分の流した情報がジオン軍によって分析され、戦闘行動に利用される。その結果、多くの人が命を落とす。
ミハルは生きるのに必死で、自分の行動の意味を理解できていなかった。自分の行動は紛れもなく戦闘行為であり、人を死に追いやるものだ。その結果、カツ、レツ、キッカといった弟達と同じくらいの子供も死んでしまうかもしれないのだ。
もっとも、視聴者目線で俯瞰的に見た場合、今回のブーンの攻撃の原因がミハルにあるかと言われると疑問も残る。ミハルの情報がなくてもホワイトベースの居場所をジオンは把握していたし、なによりミハル以外にもたくさんスパイはいるはずで、ミハルの情報だけでブーンは出撃を決めたわけでもない。
しかし、ミハルの心情としては自分の行動がホワイトベースを危機に陥れたという自責の念でいっぱいであろう。カイも「お前の情報ぐらいでこんなに攻撃されねえよ」というが耳に入っていないだろう。
ガンダム出撃!
Gアーマーからガンダムが離脱。このシーン、よく見るとGアーマーの左右に取り付けられている2枚の盾が重なる様子が描写されている。
第27話の冒頭、アムロの講義の中で「2枚の盾を重ねるジョイントの開発」が必要だといっていたが、なんと早くも開発されていたようだ。この講義からここまでせいぜい1日かそこら程度しか経過していないと思われるが、連邦軍の技術力はなかなかのものだ。
コアファイター出撃
ハヤトもコアファイターで出撃する。
現状の連邦軍の態勢を確認すると、アムロとセイラがGアーマーで出撃、そこからガンダムが離脱、ハヤトはコアファイターで出撃している。
さてカイはどうするのかと思っていたら、デッキが爆撃を受けカタパルトがやられ、コアファイターを出撃させることができない。そこでガンペリーで出撃することに。
ズゴック撃破
セイラのGファイターが主砲を発射。ズゴックを撃破する。
残るはズゴック1機とグラブロだ。
ガンダムvsグラブロ
ガンダムとグラブロの水中戦である。
前回、前々回とゴッグ、ズゴックと水中戦を展開してきたガンダム。しかし、ガンダムは水中戦用の武器は持ち合わせていない。
ビームライフルを発射するがグラブロが左手でこれを受け止める。左手が溶けるが致命傷ではない。
そこにグラブロが右手でガンダムの右足を掴む。このまま水中戦を続けてもガンダムに勝ち目はなさそうだ。果たしてガンダムの運命は!?
ミハル参戦
ミサイル攻撃を受けて吹っ飛ぶカツ、レツ、キッカ+ハロ。映像はコミカルだが状況はシビアだ。
カイについてデッキまできたミハル。カイに「私も戦わせて」と懇願する。
「このままだったらまたジオンに利用されるだけの生活よ」と感情を吐露する。考えてみれば、ブーンは自国のスパイが乗り込んでいるホワイトベースを撃沈しようとしているわけで、ミハルのことは完全に捨て駒と考えている。
ミハルも自分がただの捨て駒になっていることに当然気づいているはずだ。ホワイトベースを危険に晒してしまった罪悪感、自責の念、そしてジオンに対する失望や憎しみからミハルはカイに懇願する。
カイもついに「ミサイル撃つぐらいできんだろうが!」と折れてしまった。
おもちゃみたいなガンダム
あいかわらずグラブロに右足を掴まれたままのガンダム。グラブロにいいように振り回されている。子供に無邪気にぶんぶん振り回されるおもちゃのようだ。
「レバーはひとつずつ押すんだ。」
ここにきてハヤトのコアファイターは撃ち止め。Gファイターも攻撃を受けすでに着水。残るはカイのガンペリーだけだ。果たして・・・。
カイの指示通りレバーを押すミハル。しかし、水中の敵を狙うのは困難なのか、2発発射して当たらない。
決めきれないところにズゴックからの反撃ミサイルがガンペリーを直撃する。
この攻撃で電気回路が故障。手元のレバーでミサイルを撃てなくなった。
カイが「カタパルトの脇にあるレバーが動かせりゃいいんだが。」とつぶやくように言うや否や、ミハルがカタパルトに向かう。これが悲劇のもとだった・・・。
「むこうから来てくれたよ」とミハルは言うがズゴックの姿は見えない。
よく見ると画面右上に白波が立っている。そこにズゴックがいるということだろう。
ミハルがミサイル発射のレバーを押す。
ミサイルの爆風でミハルは吹き飛ばされ大西洋に消えていった。
ミハルの死に気づかず無邪気に喜ぶカイ。映像や構図は綺麗だ。しかし、それがかえって悲痛さを強調する。
グラブロ撃破
グラブロにいいようにされていただけのガンダムだが、右足が千切れ自由に動けるようになったタイミングを逃さなかった。ビームサーベルを構えてグラブロに突っ込み、グラブロを撃破。戦いは終わった。
「いつまでもこんな世の中じゃないんだろ?」
ホワイトベースに帰艦したガンペリーの前でカイがへたりこんで泣いている。いや「泣いている」というよりも、涙を必死でこらえているように見える。
カイは自責の念でいっぱいだろう。
カタパルトに行かせなければ、ガンペリーに乗せなければ、士官室で見つけたとき独房にぶち込んでおけば、そもそも自分なんかと出会わなければ・・・。
自分がどこでどう行動すればミハルは死なずにすんだのか。それとも、戦争という未曽有の事態にあってミハルは死ぬ運命にあったのか。であればこの戦争とは何なのか。そんな状況で残された弟達はこのあとどうやって生きていけばいいのか・・・。
そんな思いが脳内をぐるぐるぐるぐる回っているであろうカイにミハルが声をかける。
このシーン、映像もなにか宗教画を思わせる構図と不思議な雰囲気である。
かつてホワイトベースのクルー達は似たような状況を経験した。リュウの死である。
ブライトは「俺達、こ、これからどうすりゃいいんだ?え?リュウ、教えてくれ。」ともういないリュウに問いかける。しかし、答えは自分で見つけるしかない。
今回のカイも同様である。ブライト同様、カイもミハルに「俺はどうすればよかったのか、どうすればいいのか」と問いかけたはずだ。
しかし、ミハルはもういない。自分が何をなすべきかは自分で考えて見つけるしかない。
リュウの死によってクルー達はそれぞれに自省し「こんな戦争さっさと終わらせなければ」と決意を新たにした。
カイの中のミハルは「いつまでもこんな世の中じゃないんだろ?ね、カイ」と声をかける。いつまでもこんな世の中であっていいわけがない。
このミハルのセリフは「こんな戦争さっさと終わらせてやる!」というカイの決意の表れである。
しかし、戦争が終わったとしてもその世界にミハルはいない。なぜミハルが死ななければならないのか、そんな世界で生きる意味はあるのか、やはり疑問は尽きない。
頭の中の疑問を振り払うかのようにカイは最後、「何で死んじまったんだ~!!」と叫ぶ。
第28話の感想
今回はミハルの最期を描いた回だった。
ここまで第26話、第27話と2話かけてミハルとカイの関係を描いている。マチルダの死もそうだったが、その人物の内面やこれまでの人生を知れば知るほど、人はその死に心を動かされる。
ミハルの死によって心がざわつくのは3話かけてミハルという人物を丁寧に描いてあるからだ。私の心も大いにざわついた。
ラスト、カイが「何で死んじまったんだ~!!」と叫ぶシーンは実にエモい。この記事を書くために第26話から第28話を何度も見返しているが、その中で涙した回数は第1話から第25話の比ではない。
ミハルはなぜ死んだのか。
ミハルがカタパルトでミサイルを発射するレバーを下ろすシーン、よく見るとミハルは3つあるレバーを全部一気に押している。
さらによく見ると、カイは「レバーはひとつづつ押すんだ」と言っており、コックピットではミハルはこの指示通り一つづつレバーを押していた。
しかし、カタパルトにおりたとき、ミハルは「むこうから来てくれたよ」とチャンスが到来したことに気を取られ、カイの「レバーはひとつずつ」という指示を忘れていたのだ。
直前の「ミハル、いいか、ちゃんとやらねえといけないんだぞ。わかってんのか!?」というカイの言葉も果たして聞こえていたのかどうか。
3つのミサイルが一度に発射されその強烈な爆風でミハルは吹き飛ばされてしまった。これがアニメ上のミハルの死の原因である。
ただここはガンペリーの設計上の欠陥なのではないかという気がしないでもない。そもそもミサイルの位置が発射レバーに近すぎる。
この距離なら3発いっぺんだろうが1発ずつだろうが操作者はただではすまないだろう。
ただ、一番外側のミサイルを発射していれば、それならそこそこ距離があるのでミハルは爆風に巻き込まれることなく死なずにすんだ可能性はあるかもしれない。それでもガンペリーの設計上の危険性は払拭はされないが。
さて、ミハルの死についてもう一つ考えてみたい。
ミハルはスパイ活動を行い、ホワイトベースを危機に陥れた。実際に戦闘行為でホワイトベースのクルーが吹っ飛ぶ姿も複数回描かれている。
この意味でミハルは倫理的な問題(自らの行動が原因となって人を死に追いやった)を抱えたキャラクターである。このままミハルがホワイトベースに残り、南米まで向かうというストーリーはあり得ないだろう。
上述のように、ミハルのスパイ活動が今回の戦闘の直接的な要因というわけではないとしても、ミハルの行動が遠因となったことに変わりはない。
その意味でミハルの死は、第4話「ルナツー脱出作戦」で描かれたパオロの死と同様の物語上の必然である。
さて、次回いよいよホワイトベースが連邦軍本部ジャブローに到着する。サイド7を出港してから本当につらく険しい道のりだった。
そこでマチルダの許嫁が登場するという。はたしてアムロは耐えられるのか。そこに注目したい。
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