ダニ舌下免疫療法の気管支喘息に対する効果(日本からの報告)
ダニ舌下免疫療法(SLIT)の気管支喘息に対する効果をみた論文2報を取り上げます。
① Hoshino M, et al. J Allergy Clin Immunol Pract 2019.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=31228618
P: ダニ感作とアレルギー性鼻炎のある20-65歳のGINAステップ2-3相当の喘息患者102人
I: 標準的薬物治療に加えてダニSLITを48週間併用
C: 標準的薬物治療単独
O: SLIT併用群では標準的薬物治療単独に比較して呼気中一酸化窒素濃度(FeNO)が減少し、気管支壁肥厚(WA/BSA, T/√BSA, WA/Ao)が改善し、気腔域(Ai/BSA)が増加し、気流制限と症状スコアが改善した。
② Tanaka A, et al. J Allergy Clin Immunol Pract 2019.(プラセボ対照二重盲検比較試験)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=31541768
P: 18歳から64歳のダニに感作のある喘息患者でフルチカゾン換算200-400μg/日で症状が残る(ACQスコア 1.0-1.5)826症例
I: ダニSLIT 10,000 JAUもしくは20,000 JAU投与。ICSはプロトコルに従い減量。
C: プラセボ投与。ICSはプロトコルに従い減量。
O: エンドポイントとして設定した喘息増悪までの期間には有意差はつかなかった。ほとんどの副作用は軽度から中等度にとどまった。
<個人的コメント>
ともに日本から2019年にJACI Practに掲載されものですが①はpositive study、②はnegative studyでした。
その違いや理由も含めて以下に考察します。
ダニ感作のあるアレルギー性鼻炎に対するダニSLIT(ミティキュア、アシテア)はすでに本邦でも広く使用され始めています。
一方、ダニ感作のある気管支喘息単独に対しては保険適用はカバーされていません(皮下免疫療法SCITは保険適用あり)。
しかしながら、過去の大規模研究ではダニSLITはダニ感作のある気管支喘息に対する増悪抑制効果を有することが報告されており(JAMA 2016. PMID: 27115376)、最新のGINAガイドラインでもステップ3または4(本邦ガイドラインでステップ2-3に相当)のダニ感作のある喘息へのオプション治療としてダニSLITが推奨されています。
https://ginasthma.org/gina-reports/
②の論文は研究結果からだけからみるとnegative studyですが、これはもともとの対象集団のコントロールが良すぎたことが原因の1つかもしれません。
post hoc解析によると短時間作用型β2刺激薬(SABA)の使用は20,000 JAU投与群においてプラセボに比較して抑制されているので(hazard ratio, 0.70; 95% CI, 0.48-1.00; P = .04997)、SABAを使用しているような人をもっと含む集団であれば結果は異なっていたのかもしれません。
その後に①の論文が同じく日本から出ました。
こちらは盲検試験ではありませんがpositive studyとなっています。
こちらの論文では「アレルギー性鼻炎合併例のみ」を対象とし(①では通年性アレルギー性鼻炎も季節性アレルギー性鼻炎もともにない人が全体の約2割あり)、喫煙歴を「5 pack-years未満 かつ直近1年間以上喫煙なし」と厳しくとることで、②に比較して”ダニによるアレルギー反応が臨床的に主症状となっている症例”すなわちダニSLITのメリットがありそうな症例を拾い上げることができたと考えます。
すなわち、実際の臨床でも「ダニ感作のある喘息の中でも、本当にその方の喘息(±鼻結膜炎)でダニがメインの原因となっているかどうか?」を考えながらアレルゲン免疫療法の適応を考えることによって、効果の高い群を拾い上げることができると言えるでしょう。
例えば日本ではハウスダスト中のメインアレルゲンはダニですので、「室内環境での増悪」のエピソードがあればそれもダニが原因となっている可能性を支持するものかもしれません(室内環境での増悪に関しては喘息よりも鼻炎や結膜炎のほうが把握しやすいでしょうか)。
なお、①ではダニSLITによる1秒量およびFeNOの変化は対照群のそれらに比較してそれぞれ103 mL増加、12 ppb減少という結果であり、これらは臨床的に症状改善や増悪予防に効果がある可能性がある値となっています。実際、喘息関連QOLスコアであるAQLQはダニSLIT群で有意に改善しています。
ダニSLITは比較的安全性の高い治療ではあるので、保険適用で認められる範囲で本人が長期舌下内服に同意している方には積極的に勧めるというのも1つの方法かもしれません。導入に際して、症例によっては鼻結膜炎症状だけでなくて喘息症状の改善も見込める可能性があります。