花粉症に対するオマリズマブの効果(AI 2006、JAMA 2001)

桜の開花とともに花粉症の症状がピークを迎えています。
今回は抗IgE抗体・オマリズマブの季節性アレルギー鼻炎に対する効果をみた論文を2報紹介いたします。

【KACJ-24】Okubo K, et al. Allergol Int. 2006 Dec;55(4):379-86. (PMID: 17130680)
Omalizumab is effective and safe in the treatment of Japanese cedar pollen-induced seasonal allergic rhinitis.

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=17130680

P: 中等度から重度の日本人スギ花粉症患者100人

I: オマリズマブ喘息用量投与 血清総IgEと体重に基づいて2週または4週ごとに1回あたり150、225、300、375 mgのいずれかを皮下投与

C: プラセボ(ランダム化プラセボ対照二重盲検試験)

O: プライマリアウトカムである鼻症状投薬スコア (DNSMS)はオマリズマブ群の方がプラセボ群よりも有意に低かった(1.39 ± 0.18 vs 2.50 ± 0.17; P <0.01)。 セカンダリアウトカムである眼症状投薬スコア (DOSMS)もオマリズマブ群の方が減少した(0.46 ± 0.12 vs 1.25 ± 0.12; P < .001)。 血清遊離IgEの減少度が臨床的有効性と関連した。  安全性は良好であった。


【KACJ-25】Casale TB, et al. JAMA. 2001 Dec 19;286(23):2956-67.(PMID: 11743836)
Effect of omalizumab on symptoms of seasonal allergic rhinitis: a randomized controlled trial.

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=11743836

P: 米国の25の施設に受診した中等症から重症のブタクサ花粉症患者500人 (血清総IgEは30-700 IU/mL)
I: 花粉シーズン中12週間のオマリズマブ投与。 IgEが151-700の場合は50 mg、150 mg、300 mgのいずれかを3週間ごと合計4回 IgEが30-150の場合は50 mg、150 mg、300 mgのいずれかを4週間ごと合計3回
C: プラセボ
O: プライマリアウトカムである鼻症状スコア(RQLQ)はオマリズマブ 300 mg群の方がでプラセボ群よりも有意に低かった(プラセボとのスコアの差は-0.23 [95%CI -0.38 - -0.08] P = .002) 遊離IgEの減少と鼻症状や抗ヒスタミン薬レスキュー使用の減少が有意に相関した。

<個人的コメント>

成人・小児の重症喘息に対して保険適用となっているオマリズマブ(ゾレア)は2009年に本邦での保険適用を得ており、アレルギー疾患に対する抗体医薬治療の先鞭をつけた薬剤です。
20年以上前からこの薬剤のIgE依存性の即時型アレルギー疾患に対する治療効果や安全性をみる試験は行われており、ゾレアの開発時の名称であるrhuMAb-E25の臨床試験報告をみてみると、喘息よりもむしろアレルギー性鼻結膜炎をターゲットとしていたようです。
たしかに喘息よりもアレルギー性鼻結膜炎のほうがIgE依存性の程度が直接的な疾患であるということは、抗ヒスタミン薬の効果が前者には乏しくて後者には著効するという面をとってみても明らかでしょう。

rhuMAb-E25に関する主な報告を古い順に並べると、同薬が血清の遊離IgEを減少させ、適切な濃度設定がなされればブタクサによる鼻炎症状を軽減することができたという報告や(J Allergy Clin Immunol. 1997 PMID: 9257795)、同様にシラカバによる鼻炎症状とQOLを改善したという報告(J Allergy Clin Immunol. 2000 PMID: 10932067)があります。
さらに通年性のアレルギー性鼻炎に対しても鼻症状関連QOL(RQoL)を改善して抗ヒスタミン薬のレスキュー使用を減らしたという報告があります(Ann Allergy Asthma Immunol. 2003 PMID: 12952110)。
そしてこの頃になって、喘息に対する効果が大規模試験で報告されるようになってきました。現在の臨床では当たり前のように言われているフェノタイプやエンドタイプという概念も当時はなかったのですので、オマリズマブが効果のある喘息患者を探ることも手探り状態であったこと思われます。

本邦では今季、世界に先駆けて季節性アレルギー性鼻炎に対するオマリズマブが保険承認されています。
保険承認の根拠となった第3相試験結果は昨年のAAAAIで発表されているものの、https://www.jacionline.org/article/S0091-6749(18)32697-6/pdf
まだ論文化はされていないようです。
オマリズマブの季節性アレルギー性鼻炎に対する処方には保険上いくつかの制約がありますが(https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000565817.pdf
下記4点が要点となります。

① 「季節性アレルギー性鼻炎」とあるが、当面はスギ花粉症のみの想定(処方は2月から5月の間に限定)
② スギ抗原特異的IgEがクラス3以上の症例が対象
③ ベース処方の抗ヒスタミン薬は処方を継続する
④ 医療機関初診で導入する場合には、最低1週間は抗ヒスタミン薬を投与後にIgEを測定してから導入を検討する。

高額な薬剤であるため手術など他の治療法も検討された上での導入となるかと思いますが、「とにかく今季の症状を抑えたい!」という方は一考してもよいのではないでしょうか。

なお、導入する場合にはアレルゲン免疫療法(SCIT、SLIT)への説明も必要となりますし、実際オマリズマブを検討するくらい症状が強い(あるいは抗ヒスタミン薬の副作用が強い)患者さんにはアレルゲン免疫療法を積極的に検討するべきかと思います。

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