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風俗探偵 千寿 理(せんじゅ おさむ) 番外編:仮面タイガー・ホワイト 「ぼくが弟を護るよ!」
「はあっ、はあっ、はあっ…」
僕の後ろには、もう壁も柵も無かった…
「もう…だめだ… ママ…」
僕は抱っこ紐で固定してる、泣きじゃくる6カ月の弟を抱きしめた。
左手はたぶん折れてるんだ。痛くて動かないから…
ダメだ… あいつが来た。
もう逃げられないよ…
「ちょこまかと逃げ回りやがって。でももう終わりだ。二人とも大人しく俺様に食われちまいな。」
ワニ怪人だ… キバだらけの大きな口を開けてる… あの大きな口で僕とヒビキを食べちゃう気なんだ。
『アイツに食べられちゃうのはイヤだ。
ヒビキ…ごめんな、兄ちゃんが護ってやれなくて… ここから二人で飛ぼうな… そしたらパパの所へ行けるよ…』
「えいっ!」
僕は目をつむって飛び降りた… ここは12階建てのマンションの屋上だから、絶対に助からない… 僕は泣きじゃくる弟のヒビキを右手で強く抱きしめた。
「もうダメだ、落ちちゃうよ… パパ…」
そしたら、僕とヒビキは落ちなかったんだ。フワッと誰かに抱き止められたみたいだった。
でも…抱き止めてくれた手の感触が変なんだ。まるでぬいぐるみのクマさんみたいで毛むくじゃらだった。
それで僕達二人を片手で抱きかかえたまま、5階にある僕達の部屋のベランダまで飛び移って僕とヒビキを降ろしてくれたんだ。
「坊主… よく一人で頑張ったな。もう大丈夫だ。おじさんが来たからな。」
そう言ったおじさんの顔を見た僕はびっくりした。顔の全部に白い毛が生えてるんだ。それでね、白い毛に黒の模様があるの。
僕知ってるよ、動物園で見たもん。
「おじさん… トラなの? でも白いトラなんだね。」
僕の質問におじさんが答えた。
「そう、おじさんはトラのヒーローなんだ。仮面タイガー・ホワイトって言うんだ。強いんだぜ。」
僕は感動した。本物のヒーローが僕とヒビキを助けてくれた。
「でも、仮面タイガー・ホワイトのおじさん… 屋上にワニ怪人がいるんだ。あいつ、悪いヤツなんだ… 子供を食べちゃうの。」
仮面タイガー・ホワイトは僕達をベランダに下ろして言ったんだ。
「分かった、仮面タイガー・ホワイトに任せろ。ここが君達の部屋で間違いないんだな?」
僕はうなずいた。
「うん、ここがママと僕とヒビキの部屋だよ。パパは死んじゃったの… それから、僕の名前はショウタっていうの。」
仮面タイガー・ホワイトが僕の頭をつかんで、グワシグワシって力強く撫でてくれた。
「待ってろ、ショウタ。仮面タイガー・ホワイトがワニ怪人をやっつけてくるからな。」
そう言うと仮面タイガー・ホワイトは、5階から斜め上の6階のベランダへ飛び移ったんだ。僕は慌てて手を振って言った。
「うん、待ってる。必ず悪いワニ怪人をやっつけてね!」
仮面タイガー・ホワイトも僕に手を振ってくれた。そして上に飛んで見えなくなったんだ。
たぶん、また次の階のベランダに飛び移ったんだよ。屋上までああやって行くのかな…? すごいな、ヒーローは…
僕はヒビキを座布団に寝かせてミルクを温めた。ママがお仕事で忙しい時は僕がヒビキの面倒を見るんだ。
僕は片手で一生懸命にやったよ。ちょっとミルクこぼしたけど…
ミルクを飲み終わったらヒビキにゲップさせるんだ。でも右手だけじゃ抱っこ出来ないや…
僕は泣きそうになった。ママはもう少ししないと帰って来ない。
そしたら、後ろから誰かに肩を叩かれて僕はびっくりした。こわごわ振り向くと仮面タイガー・ホワイトだった。
仮面タイガー・ホワイトは僕の代わりに、ヒビキを抱っこしてゲップさせてくれた。そして、ベビーベッドにヒビキを寝かせてくれたんだ。
それから仮面タイガー・ホワイトは、僕の痛い左手を触って調べたよ。
「大丈夫だ、折れてない。すぐに治るけどこうしておこう。」
そう言った仮面タイガー・ホワイトは、僕の左手に台所にあったバットみたいな木の棒に包帯で優しくぐるぐる巻いて動かせないようにしたんだ。
スリコギって言うんだって教えてくれた。それから、タオルを使って首に吊ってくれたよ。
そうしたら、左手は動かせないけど痛く無くなったんだ。
「このままにしておくんだぞ、ママに見せてから病院に連れて行ってもらうといい。ショウタは痛いのによく泣かなかったな…えらいぞ。」
そう言って、また僕の頭を力一杯グワシグワシ撫でるんだ。僕は気になってた事を仮面タイガー・ホワイトに聞いた。
「ワニ怪人はどうなったの…?」
そしたら仮面タイガー・ホワイトは右手の親指を真上に立てた。ニッて笑った口から大きなキバが覗いてた。
「もちろん、やっつけたぜ。ギッタンギッタンさ! ショウタとヒビキの仇は討ってやったからな。」
僕も歯を見せて笑って言ったんだ。
「ありがとう、仮面タイガー・ホワイトのおじさん。もうワニ怪人は来ない?」
僕はちょっと心配だったんだ。
「もう来ないさ。
だってアイツはこの仮面タイガー・ホワイトが、お財布と靴とベルトにしてやったから。」
僕は何のことか分からなかったけど、おじさんに言ったんだ。
「おじさんはすごいんだね、何でおじさんはそんなに強いの?」
仮面タイガー・ホワイトはちょっと考えてから答えてくれたんだ。
「ショウタもママの言うことをちゃんと聞いて、好き嫌いしないで何でも食べてヒビキの面倒をよく見たら、おじさんみたいに強くなれるぞ。」
僕は感動した。
「うん、約束するよ。僕も絶対にヒーローになるんだ!」
仮面タイガー・ホワイトは、また僕の頭をグワシグワシ撫でて言った。
「よし、その調子だ。じゃあ、まずママの帰ってくるまでお利口に留守番してるんだぞ。」
「うん、わかった! ママが帰るまで僕がヒビキを護るよ!」
僕の返事を聞いた仮面タイガー・ホワイトは、僕に右手を振ってからベランダを飛び越えたんだ…
「おじさんっ! ここ、5階だよ!」
僕が慌ててベランダの手すりの間から下を見下ろしたら、おじさんが地面を走ってた。そして、僕を見上げてまた手を振ってくれたんだ。
おじさんは、マンションの近くに停めてあった大きな車に乗って、走って行っちゃった。
「カッコ良かったなあ… 仮面タイガー・ホワイト…」
僕が空を見上げたら、お空に真ん丸なお月様が浮かんでたんだ。
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