はじめに:マイノリティには戦略が必要だ|マイノリティのハローワーク
「ロールモデルがいない」という言葉は、障害をはじめとする何らかのマイノリティ性のある人の職業について話すときに、よく使われています。簡単に言うと、お手本になるような人がいないことです。
これを書いている私自身も、中学生や高校生の頃にお手本がいない問題に直面しました。約二万人に一人の割合で生まれてくる遺伝疾患、アルビノ(眼皮膚白皮症として指定難病にもなっています)で、視力が低く、日焼けに気をつける必要があり、見た目も特殊な自分は、何の仕事だったらできるのか、見当もつきませんでした。
両親はわりと教育熱心なほうで、さまざまな職業やなり方、収入などを紹介した子ども向けの本を家の本棚にいくつか置いてくれました。しかし、そのどれにも、”私の知りたいこと”は書かれていなかったのです。視力が低くてもなれるのか、日焼けは避けられるのかといった詳細もそうですが、一番大事な話が欠けていました。
それは、職業選択の場において、マイノリティである私の持てる選択肢はマジョリティのそれよりずっと少ないこと、社会には差別や排除が存在するのでマイノリティなりの戦略を持たねばならない、ということです。
いきなり、「マイノリティで生きるのが大変だから、戦略が必要」と言われても、戸惑うかもしれません。戦略を見つけようにも、「自分もできそう」と思うような働き方をしている人と出会う機会は、そうそうないからです。
また、キャリア相談に応じる支援者や、周りにいる大人、保護者や教員も、マイノリティ性ゆえに生じる困難を想定してどのように進路を選択するのがいいかといったことに精通しているとは言い切れません。
上記の人々が真剣にやっていないわけでは決してないのですが、マジョリティの進路選択とほぼ同じことが通用すると思ってしまうがゆえに、「間違いではないけれど、何かちょっと違う」ことを言ってしまうこともあります。
とりあえず、偏差値の高い学校に進学して、大学で興味のある分野を学ぶ。そうすれば、選択肢は増える。私には、そう信じていた頃があります。現実は、思うよりずっと厳しかったのですが……。
大学卒業後に広汎性発達障害(ASD)と診断された私は、発達障害のある人の就労について調べて、愕然としました。発達障害があるというだけで、自分の特性に合った仕事に適切な待遇で就くことがかなわないのです。障害のある人たちにも公平に昇進や昇給、仕事の機会を用意している企業もないわけではありませんが、障害者採用の求人票と一般採用の求人票を比較してみれば、そのような企業はまだまだ少ないとわかるでしょう。
主に障害のある人の話をしてきましたが、他のマイノリティ性(例えば、セクシュアルマイノリティ、人種マイノリティ、認定されていない障害や疾患など)のある人についても、理由に少しずつ違いはあれど、似たような状況が広がっています。
これでは、安心して働くことは難しいでしょう。離職や転職を繰り返すことになるだけでなく、身体や心を壊してしまう人もいます。そして、その先に待つのは、貧困です。
一つ断っておきたいのですが、マイノリティ性があると貧困に陥りやすいのは、その人が悪いからではありません。これは、マイノリティ性があるために職業生活で生じる困難や、そのなかでもその人にとってよりよい選択肢を探せることなどを伝えられていない現状の教育や就労支援から生じる問題です。もっと大きく言えば、マイノリティ性を理由に、その人から選択肢や自己決定を奪う社会のあり方をこそ、問うべきなのです。
それでも、生きていかねばなりません。ただ黙っていては、社会に殺されるばかりです。あなたが自分の望むものを手に入れるために、戦略が必要です。
この連載では、マイノリティ性のある大人に、どうやってその職業に就いたか、働き方、その人の特性と仕事をしていくうえでの工夫(活かす、補うなど)を中心に、インタビューしていきます。この連載が、あなたの戦略を作るヒントになることを願います。
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