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小論文指導にまつわるキャリアについて

先日、Gakkenより拙著小池のたった7時間で小論文が刊行されましたが、一点、皆さまにお詫びしなければならないことがあります。それは、いま表に出している私の予備校講師としての肩書きが「現代文講師」であるため、「小論文の指導など可能なのか?」と不安に思われた方がいらしたかもしれないということです。

私としましては、小論文が「国語科教育」のカリキュラムに含まれるものである以上、現在の肩書きのみを載せても問題はないと思った次第です。しかし、確かに受験産業においては現代文と小論文は分業されることが多く、そうしたあり方をむしろ自然に思われている方にとっては、ご不安も当然かと存じます。本書のどこかに、私の小論文指導に関係するキャリアを説明しておくべきでした。この点、深くお詫び申し上げます。

まず、大前提として、私の出身大学は早稲田大学教育学部国語国文科です。当然、国語科教育法等の講義やゼミで、作文・論文の指導法について学んでおります。指導教員の先生の一人は当時の作文・論文指導法研究の第一人者で、私の指導の根っこには、この先生の講義があります。その後、中途で退学しましたが、同大学同学部の大学院へも進学しています。私の小論文指導は、私のオリジナルなもの──言い換えれば学問的な裏付けのない、ひとりよがりなもの──ではないということは、はっきりと申し上げておきたいと思います。

次に、実際の指導経験について。

名前は明かせないのですが、業界最大手のところで、高校生の小論文の添削指導を担当していたことがあります。正確には覚えていませんが、期間は5、6年くらいだったでしょうか(もう少し長かったかも)。赤ペンをうまく握れなくなるほどの枚数を添削しました。非常に大変な仕事でしたが、ここで高校生が書いた実際の小論文を数えきれないほどに指導した経験は、もちろん、拙著の土台の一つになっています。

先述の通り、現在出講する予備校では、私は現代文の講師です。が、近年まで勤めていた塾や医学部予備校では、小論文も受け持っていました。クラス授業個別指導も担当しています。とくに個別指導では、実際に生徒が書く様子の一部始終を隣から見ることができ、これは本当に大きな経験になっています。書くという営みにおいて、生徒がどこでどうつまずくのかを、リアルタイムに確認できるのですから。

あるいは、現在出講する予備校には映像授業部門があるのですが、そこで「現代文と小論文の融合講座」とも言える「表現力養成講座」が立ち上がった際には、小論文講師の先生とともに教材作成を担当しました。実際の講義も受け持っています。

生徒への指導以外でも、小論文というものに携わってきました。

文部科学省検定高等学校用教科書を出版する第一学習社では、高校教員向けの小論文指導のセミナーを担当しています。アンケートでは嬉しいご評価をたくさん頂戴することができ、また、小論文指導における現場の悩みを高校の先生方から直接にうかがう機会もいただけました。言うまでもないことですが、セミナーの準備の過程では、お預かりした、大量の高校生の答案に目を通しています

日本文学協会という学会の研究会・文学教育部会より、「小論文・作文教育」というテーマで講演のご依頼を頂戴したこともあります。大学の先生や高校の先生へ向け私の授業で実践したことを紹介し、また、意見交換などもさせていただきました。

庵功雄編著『「日本人の日本語」を考える』(丸善出版)という論集に、「現代文から見た日本語母語話者の日本語の問題」という論文を寄稿しています。これは、高校生・受験生の実際に書いた文章をもとに、「国語」の授業における作文指導のありようを提言する内容となっています。

大学入試というものを学問的な研究対象として考究していく必要性を痛感し、2024年より放送大学大学院博士後期課程に進学しています。また、新規に発足した大学入試学会へ招待していただき入会し、先日、第一回の学会で発表もしました。発表テーマは、「書くこと」と密に関わる内容です。

……私の"小論文"指導に関わるキャリアは、だいたいこのようなところでしょうか。ただ、「高校生の書いた文章を添削する」ということについては、いまだに毎授業ごとに行っています。いわゆる、要約の指導ですね。あと、これは多くの"現代文"講師が経験することでしょうが、生徒は毎年、私たち現代文講師に「小論文を書いたので見てもらえますか?」と原稿用紙や出願書類を持ってきます

膨大な量の、「高校生・受験生の書いた"文章"」を見てきました。あるいは、「書くこと」の指導について、学問としても研究しています。

そうした私のキャリアを踏まえ、現時点で出した結論が、以下になります。

・少なからぬ高校生・受験生が、"文"のレベルから"書くこと"の学習をやり直さなければならない。つまり、きちんとした文を書くことができない。
・文は書けても文章は書けないというケースも多々見られる。具体的には、文と文とがバラバラになってしまっており、読み手が一貫したメッセージをくみとることができない。
・形式的に文章を書くことはできても、着想や観点、論証プロセスがステレオタイプなものになってしまっている。端的に言えば、どこかで見た考え方や論じ方のコピペであって、自身の思考を実践することができていない。

ですが、以上列挙した点には、克服するための具体的な方法があります。そしてもちろん、それを自学自習することができるように著した一冊が、こちら、『小池のたった7時間で小論文』(Gakken)です。

文が書けないなら、文章が組み立てられないなら、そしてお約束のような内容しか考えられないなら、この段階から始めるべきなんです。ここが、小論文学習の基礎なのです。

かつては、小論文と言えば、超難関大学で問われるものというイメージがあったかもしれません。けれども、いわゆる年内入試等の本格化に伴い、現在では、さまざまな学力の受験生にとって、小論文対策の重要性が増してきています。この傾向は、今後より強まっていくでしょう。

現実の答案と真摯に向き合ってこられた先生方でしたら、きっと、本書の内容に頷いてくださる──そう確信しております。もちろん、改善すべき点や不十分なところもあるでしょうが。

本書は、確かに典型的な「小論文参考書」ではないかもしれません。しかし、だからこそ、存在する意味があるのです。私は私のキャリアにかけて、自信と誇りをもってこう宣言いたします。「本書が小論文参考書の新たなスタンダードとして受け入れられれば、数多くの高校生・受験生が救われることになる」、と。


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