新規図面のなぜ?|トヨタ流開発ノウハウ 第8回
今の時代の設計の在り方
新規図面を作成する際に、「この形状は加工が出来るのだろうか?」、「この寸法は測定できるのだろうか?」など、加工や生産のことで悩むことが多くありませんか?
私が新人設計者の時、「分からないことは現場に行って確認せよ!」とよく言われていましたので、評価や試作工場の現場によく足を運んでいました。
私の時代のように、ある程度設計者に余裕があり現場を学べる環境であれば、設計者も加工や生産のことを理解、勉強することが可能かもしれません。
しかし、今の時代はどうでしょうか?
私の時代(今から約20年前)よりも設計者にかかる負荷が多くなっているのが事実ですし、設計担当者に限らず、管理監督者も多くの仕事をかかえているでしょう。
さらに、働き方改革により仕事の時間も制限され、昔よりもさらに効率的に仕事をしていかなければなりません。
このような状況下で・・・。
1.設計者から出図される図面の品質が低下している。
2.設計者は3DCADでお絵描きをしている。
3.設計者は加工や生産のことを勉強していない。
などなど・・・。
このように設計者のみを責めていいのでしょうか?
実際、責めても解決しませんし今の時代にあった設計の在り方、図面品質の確保の仕方が必要と私は感じます。
設計と図面品質向上のための4つの改革(前編)
設計はITツールなどにより、効率化が進められているものの、根本的な設計の教育、設計のプロセスなどに大きな変化はありません。さらには、設計マネジメントについても同様です。
今の時代にあった設計部門の構築をしていかなければ、いつまで経っても技術部から出図される図面の品質は低いと言われ続けてしまいます。
上記を踏まえて考えると、設計品質・図面品質向上のためには、以下4点の改革が必要になってくるでしょう。
1.設計者教育の構築
2.設計品質ツール(DRやDRBFMなど)の使い方の見直し
3.設計開発プロセス改革
4.設計マネジメント
今回は1.設計者教育の構築と2.設計品質ツールの使い方の見直しに焦点を当てていきたいと思います。
1.設計者教育の構築
皆さんの会社では設計者教育をどのようにしていますか?
多くの企業は基本的な設計者教育をOJTに頼っているのが現状です。設計者といっても、機械などのハードウェア設計やプログラムなどのソフトウェア設計など様々な領域があります。
その各領域での教育計画が決まっておらず、教育自体が設計現場任せになってしまっているのではないでしょうか?
これではOJTをする側の能力によって、設計者の成長度合いが大きく異なってきますし、そこで人事制度の目標管理により、新たな目標を定めたとしても自助努力のみになってしまうでしょう。
そうならないためにも教育体系を立案し、確実に1つずつ教育していくことが必要であると共に、教育の結果、能力が身についたのかを管理するためにもスキルマップが必要になってくるでしょう。
その教育体系の中に追加してほしいのが、加工や生産現場の知識と見学です。
加工や生産現場を机上で学んでも身に付きませんし、一度図面を描いて自分で加工、組立してみるのが能力向上の一番の近道です。
私自身は大学で旋盤やフライス盤を使用し、図面通りに加工してみるという授業もありましたが、今の大学ではそのような授業がだんだん少なくなってきているようです。
そのため、会社で教育していかなければなりません。
多くの企業の教育体系では、加工や生産現場の教育が含まれていません。
その結果、設計者も机上でしか勉強せず(もちろん、自ら進んで加工現場に足を運んでいる設計者もいるとは思います)、加工、組立出来ない図面をいとも簡単に描いてしまう。
これからは日本の製造業の強みでもある製造現場のノウハウを確実に設計者に伝承していく教育を実施していかなければなりません。
2.設計品質ツール(DRやDRBFMなど)の使い方の見直し
皆さんの会社ではDRが設計者のつるし上げにあうイベントになっていませんか?
DRBFMやFMEAをただ設計者に実施せよ!と押し付けるだけになっていませんか?本来、このような設計品質ツールというのは、問題の未然防止が目的であるため、製造現場に出図されて以降、問題が発生しないようにするための仕掛けのハズです。
しかし、これが単なる資料作成やイベントごとをこなす事になってしまうと、時間をかけた会議や資料作成の時間がムダになってしまいます。
今一度意味をしっかりと考えて、設計品質ツールの使い方を見直すべきです。
まずはDR(Design Review)について考えてみましょう。
①DRの問題点(多くの企業のDRの現状)
設計者が逃げ腰、好ましくないムード(余計な仕事をやらされる)
設計者が吊るしあげ、黙って聞くだけ
説明会、開発苦心談に終る(一方的コミュニケーション)
好ましくない事態、異常事態(リスク)を予測しない
計画性が不足(状況対応、出たとこ勝負)
DRの目的手法について全員の合意がない
DR終了後のフィードバック反省によって改善を重ねない
②本来のDRの在り方
①のようなDRは問題点を抽出するのが目的となってしまっています。問題点=リスクを抽出することはもちろん重要ですが、そのリスクをどう解決するかが重要です。
リスクを抽出するだけであれば、誰でもできます。要は評論家ですね。DRを主催する設計者や参加するレビュワー(技術部門だけではなく、他部門の参加者も同様)はリスクを見出して、その解決の方向性や具体的な解決策について議論をしなければなりません。
では具体的にどのように進めるべきなのでしょうか?
あるべき進め方は下記のようになります。
------------------------------事前準備------------------------------
A:レビュワーに対し、1週間前にDR資料を送付する
B:レビュワーはDR資料を読み込み、DR3日前までに問題点=リスクを抽出する
C:設計者はレビュワーから提出されたリスクに対する解決策の仮案を検討する
------------------------------DR本番------------------------------
A:ファシリテーター(設計者)は抽出された問題点=リスクを確認する
B:解決策の仮案について問題がないか確認する
C:問題があればその場で具体的な解決策を決定する
D:解決策を誰がいつまでに実施するのかを設定し、DRを終了する
このようなDRの進め方をすれば、設計者がつるし上げにあうこともありませんし、レビュワーの思い付き発言もなくなるでしょう。
確実な解決策についてのみ議論していくことにより、前向きなDRとなります。
参加者全員で衆知を集めるための活動にしていき、後工程で発生するであろう不具合を確実に減少させていきましょう。
時代にあった仕組みを
皆さまいかがでしょうか?
図面品質の低下は単に設計者が勉強していないわけではありません。
現在の設計の仕組みそのものが時代にあっていないのです。
しっかりと時代にあった教育や仕組みを構築することによって、日本の製造業におけるモノ造りのノウハウを確実に伝承していきましょう。
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