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現状の設計マネジメントの課題とは?|トヨタ流開発ノウハウ 第36回
◆設計マネジメント
さまざまな企業で設計マネジメントに困っている管理職が多くいます。
その原因は1つです。
設計マネジメントを定義(一般的なマネジメントではなく、開発部門や設計部門に特化したマネジメント方法です)しておらず、設計者から管理職になった途端、会社から「マネジメントをしなさい!」と役割だけを追加されているからです。
その結果、管理職毎にマネジメントの方法が異なり、部下の成長を妨げてしまうばかりか、新製品の創造や新たなシステムの導入も日常業務に追われて、できなくなるでしょう。
では、それらの困っている内容や適切な設計マネジメントが行われないとどうなるのかを皆さまにご理解いただき、本来どのようなマネジメントをするべきなのかを解説していきたいと思います。
◆設計マネジメントの課題
1.現状の設計マネジメントの課題
1)進捗管理
本来の進捗管理は後述で解説するとして、現在、設計マネジメントにおける進捗管理の課題はどのような内容になっているか確認しましょう。
(1) 進捗放置
進捗放置とは、例えば下記のような会話でのマネジメントのことを言います。
A設計課長:出図納期は1週間後だが、順調か?
A設計者 :はい!順調に進んでいるので大丈夫です。
A設計課長:よし!それではそのまま進めてくれ!
・・・1週間後。
A設計課長:今日が出図納期だろう。図面を提出してくれ。
A設計者 :実は問題が発生し、本日中に完成できそうにありません…
これらのことを私は進捗放置と呼んでいます。設計部門での納期と言えば、出図納期です。出図納期までの課題解決をマネジメントせず、出図納期のみを管理するマネジメントです。
ベテラン設計者は問題なく課題解決をしながら、進めることができますが、新人設計者や新たに中途採用された設計者は課題解決ができず、また課題解決に時間がかかり、出図納期までにすべての検討が終わりません。
(2) 進捗監視
進捗監視とは、細かいタスクまで全て管理しようとするマネジメント方法のことです。
これでは設計者が疲れてしまいますし、マネジメント者もタスクの管理だけで一日が終了してしまいます。
進捗監視では、設計者に権限が全くない状態です。全てマネジメント者に確認しなければなりません。
先ほど解説したように全てのタスクについて報告しなければらなない状況では設計者が疲れてしまいますし、自分の役割とは?とマネジメント者に疑いを持ってしまうかもしれません。
2)技を盗め!
昔は、「ベテラン設計者の設計ストーリーや設計をしている場面、図面などからノウハウを盗め!」とよく言われていました。
過去の図面などから技術を理解し、自分のモノにしようとする考え方です。設計者は職人気質の方が多く、このような考え方は今でも存在します。
もちろん、これらの考え方が悪いわけではありません。時には必要でしょう。
しかし、何十年もその企業で培ってきた技術やノウハウを図面などのドキュメントを読むだけで本当に自分のモノにできるでしょうか?
また、何の教えもなく設計をしながら、身に付くでしょうか?
今の時代の技術・ノウハウは非常に高度であり、複雑です。高度かつ複雑な内容を理解、把握することを設計者に丸投げしているのが、大きな課題です。
3)設計者を苦しめるツール
FMEAやDRBFM、DRなどさまざまな設計に必要なツールがプロセスに組み込まれているかと思います。それらのツールの使い方や実施を全て設計者に丸投げしてしまっています。また、DRでよくあるのが、次のような内容です。
設計者A:Aユニットの評価を完了し、目標は一部未達ですが、次のような対応策により、目標達成の見込みが…。
設計課長A:ちょっとまて!試作評価時点で目標が未達なので、ダメだ。やり直し。量産試作段階に移行するまでになんとかして目標をクリアせよ。
設計者A:(見込みの策の説明が終わっていないのに…)最後まで説明させてください。見込みの策で問題ないと考えます。量産試作時点で確実に目標をクリアできます。
設計課長A:ダメだ。仮に目標がクリアできなかった場合にどうにもならないし、クリアできる保証はない。
設計者A:・・・。分かりました。評価後に、DRを再度実施します。
これでは、単なる設計者のつるし上げです。
設計課長は設計者を吊るし上げするために存在するのでしょうか?
本来は設計者をサポートするために存在しているところが、DRでは、敵に回ってしまっています。これではマネジメント者失格です。
◆設計マネジメントの考え方
2.本来の設計マネジメントの考え方
本来の設計マネジメントは「成果を最大化させること」に尽きると考えます。
本来1人で生み出していた成果を2人、3人で業務を実施することにより、1人では生み出せなかった成果を創出できます。これがチーム活動であり、そのチームの全体の業務の方向性を定めるのが、マネジメント者の仕事です。
この考え方でマネジメントをした場合の最大アウトプットは、「新ソリューションの創出」や「新プロセスの構築」が実現できるようになります。
むしろ、これらのアウトプットを出すために設計マネジメントが存在すると私は考えます。
では、その設計マネジメントを実現するための手段を解説していきます。
1)設計部門・グループ方針の立案
どれだけ小さい企業でも設計部門や設計グループが存在するのであれば、必要となるものです。
方針を立案せずに新しいソリューションは生まれません。生まれたとしても設計者よがりの製品になってしまうでしょう。
設計部門・グループ方針は、経営戦略や事業戦略から落とし込み検討する必要があります。会社や事業の方針に沿って考えた場合にどのような方針を立案しなければならないのかを検討するのです。
ポイントは、①守りの戦略、②攻めの戦略、③成長の戦略です。
これらの具体的な内容は司会の記事でで紹介します。
2)実務における進捗管理・コントロール
設計者の負荷をコントロール(平準化)していきながら、設計品質の高いアウトプットを創出するために必要なマネジメント内容です。
ポイントの下記の通りです。
①各設計案件の難易度設定
②正しい進捗管理
最も効率的な生産性を実現させるための進捗管理は、「期限までにどのような能率で仕事をしてもらうかを設定した上で、順調にその予定が進捗しているか確認すること」です。
よくマネジメント者に必要な行動として「はきもの」が必要だと言われています。
はきものは次の言葉の頭文字を取ったものです。
「は…背景」、「き…期限」、「も…目的」、「の…能率」
特に能率を設計者と共有できていないことが多いのではと感じます。
能率は、マネジメント者が設計者の能力を把握した上で、どれぐらいの工数で納期までに実施してほしいかということです。それらを共有し、設計者をマネジメントしていきます。
3)マネジメントに有効な品質ツール
さまざまな品質ツールがありますが、ここではDRを取り上げます。
DRを有効的なツールとしての活用方法を定義し、マネジメントできるようにならなければなりません。
本来のDRは、「課題解決」が目的です。しかし、単なる課題だけを抽出し、対応策を設計者に丸投げしてしまっています。
それではDRの意味がありません。DRで解決策まで議論するようDRをしっかりとコントロールしてください。
対応策まで議論すれば、あとは先ほどの進捗管理方法に従い、期限までにやり遂げます。
4)設計者の教育方法
教育がOJTのみになっている場面をよく見かけます。これは先ほど解説した技を盗めということと変わりません。
OJTのみではなく、しっかりとした教育計画を立案する必要があるでしょう。また、教育計画を立案するためには、各設計者の能力を把握することができていなければなりません。
教育と並行して必要なのが、ノウハウの蓄積です。
図面にはさまざまなノウハウが盛り込まれていますが、図面だけを見てノウハウを把握することは不可能です。
設計をしながら、新しいノウハウや技術を創出した場合には都度、蓄積していく必要があるでしょう。
設計ノウハウ書の蓄積方法については、また紹介したいと思います。
これらの4つの手段を実施し、設計マネジメントの目的である「成果を最大化させること」ができるようにチームをまとめていってほしいと思います。
講師プロフィール
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株式会社A&Mコンサルト
代表取締役社長 | 中山 聡史
2003年、関西大学 機械システム工学科卒、トヨタ自動車においてエンジン設計、開発、品質管理、環境対応業務等に従事。ほぼ全てのエンジンシステムに関わり、海外でのエンジン走行テストも経験。
2011年、株式会社A&Mコンサルトに入社。製造業を中心に自動車メーカーの問題解決の考え方を指導。
2015年、同社取締役に就任
2024年4月、代表取締役社長に就任
主なコンサルティングテーマ
設計業務改善/生産管理・製造仕組改善/品質改善/売上拡大活動/財務・資金繰り
主なセミナーテーマ
トヨタ流改善研修/トヨタ流未然防止活動研修/開発リードタイム短縮の為の設計、製造改善など
※2024年6月現在の情報です
近著