FTX破綻:超基礎的なまとめ(金融マーケットインフラ・オタクより)
連日報道され世間を騒がしている米国仮想通貨交換所FTXの破綻であるが、複雑であるのと情報が細切れに出ていることもあり
と、とても間違っているわけではないが、もっと大局見たほうが良いのに、と思われる意見も良く見かける。個人的に興味があり、色々読んでみたので自分が読んだものの一部の紹介とともに、超基礎的なまとめを共有したい。まずはお断りから
なのでもし「これ違うんじゃない?」「この意見賛成しづらい」などあれば是非ご連絡ください。では早速 let's go!
何が起きたのか?
FTXとはなんなのか?
FTXが仮想通貨の取引所(仮想通貨交換業者)というところまでは理解されていると思うが、世界に600ほどあると言われている取引所の中でも大手の取引所のスケールを理解することも大事である。Kaikoの発信している「The FTX Collapse: A Market Analysis」にとても分かりやすいグラフがあるが、バイナンスが取引量では70%以上を占める「1強」であるが(そしてそのバイナンスは今回の破綻のストーリーの中の大きな参加者でもある)それに続くのがコインベース、そして今回破綻のFTXだったのである。
なので、今回のFTX破綻は誰もあまり想像しなかった大手の急な破綻なのでおおごとなのである。
イベントの経緯
今回の破綻の経緯に関しては日経が以下の記事でとてもきれいにまとめている。
・11月7日 バイナンスCEO、ツイッターでFTX非難
・11月8日 バイナンス、FTXの事業買収で合意
・11月9日 バイナンス、FTXの買収方針を撤回
・11月10日 日本でFTXの取引停止
・11月11日 FTXが破産法申請
そしてまた何が起きたのかは以下の日経の記事にあるが、顧客資産を使ったグループ会社内(FTXから投資会社アラメダに対する)の不適切融資である。
僕も11月8日からは会社でも毎朝この話題を話していたが、一日一日ストーリーが急転するまさに激動の一週間であった。
インパクト
ではこの破綻のインパクトというのはどんなものがあり、何を気にしないといけないのだろう?当然取引所に資金を預けていた個人たちが出金をできないことは簡単に理解できると思うが、このインパクトはそれよりもさらに大きく、なので「暗号資産業界のリーマンショック」とも言われているのである。
個人へのインパクト
大手の取引所ということでインパクトを受ける個人の数は多く、
とのこと。そしてFTXはとてもマーケティング熱心だった企業でもあり、広告塔として起用されていたスポーツ選手たち(どの業界でも一流選手)
・アメリカンフットボールNFLでスーパーボウル7回制覇に貢献したトム・ブレイディ選手
・プロバスケットボールNBAのステフィン・カリー選手
そして日本に身近な選手でも
・米大リーグ・エンゼルスの大谷翔平選手
・プロテニスの大坂なおみ選手
などが米投資家の今回の問題の訴訟の対象にもなっている(FTXと「広告塔」米投資家提訴-大谷選手、大坂なおみ氏も対象)。
企業へのインパクト①:VC(ベンチャーキャピタル)
そして個人以外のインパクト、またどのように業界が繋がっているのかというのは以下の日経の図が良く説明してくれている。
まずは図②左の箱のVC(ベンチャーキャピタル)へのインパクトであるが、こちらはFTXの事業の成功を期待して事業に出資をしていたわけであるが、急な破綻ということで、その投資の価値というのが一気にゼロになるのである。発表されているVCだけでも
・セコイア・キャピタル:シリコンバレーの有名VC。1億5,000万ドル相当出資しているとのこと。
・テマセク・ホールディングス:シンガポール政府の所有する投資会社。17日、FTXへの出資分2億7500万ドルの評価額をゼロにすると発表。
・ソフトバンク:1億ドル相当出資しているとのこと。
・オンタリオ州教職員年金基金:9500万ドル相当出資。
こちらのリストを見て分かるのが、出資をしていたのはシリコンバレーのテック向けVCだけではなく、ある国の政府系投資会社、ある国の教職員の年金基金、そして日本の企業とそのインパクトは遥かに広く、その投資額も大きい(皆1億ドル級以上)。
しかしそのような巨額な投資をしながら、どのVCもFTXに取締役などを送り込んでおらず(もしくは送り込めなかったのか)、投資家としての企業を監督する義務も果たされていなかった、という側面もある。
企業へのインパクト②:運用会社
次は図②の下の箱である運用会社。こちらは運用を目的とした資産をFTXに預けていたのだが(証券会社に運用するための資産を預けているのと同じイメージ)そちらの資産の引き出しが現在できなくなっている状態なのである。発表されている運用会社でも
・ギャラクシー・デジタル・ホールディングス: 有名な暗号資産投資会社であり、7680万ドルほどの預け資産があると言われている。
・ガロワ:ヘッジファンドのガロワは資金のおよそ半分の役1億ドルがFTXに預けられている、としている。
企業へのインパクト③:仮想通貨貸付業
図②最後の右の箱である仮想通貨貸付業。こちらはFTXへ資金を融資していた企業であり、この融資も当然焦げ付くのでインパクトを起こすのである。
・ブロックファイ:暗号資産融資の世界最大手であり、仮想通貨を担保とした法定通貨の貸付サービスなどを提供している。そのブロックファイが破産申請の準備を進めているようだと報じられている(ブロックファイ、破産申請を準備か:WSJ)
・ジェネシス:16日に顧客の出金と新規ローンの組成サービスを停止すると発表している。
今回はFTXに直接つながっている、ある意味「第一次取引先」へのインパクトだが、この次に出てくるのはその企業の取引先と第二次の波である。これも出てきてみないとまだ影響のスケールは分からないが、既に出始めているのが図②の仮想通貨貸付業の箱の下にあるが
第二次の波もまだスタートしたばかりでこれからまだ出てくるのであると思われる。この後、他の企業の破綻が起こると今度その企業の取引先、その次とインパクトはどんどん連鎖するのである。
暗号資産業界の流動性へのインパクト
そしてインパクトは個人や企業だけでもなく、さらに広く流動性へのインパクトも大きいとされている。「Crypto Liquidity in a Post-Alameda World」(Kaiko)で説明されているが、
暗号資産の流動性を支えている企業というのは数が多いわけではなく5,6社などであり、残念ながらその中の1社がアラメダだったという訳である。そしてそのオペレーションはFTXからの不適切融資による資金に頼っていたという訳である。このアラメダの不在が開ける流動性の穴を「アラメダ・ギャップ」とこのKaikoの記事では表現されているが、その長期的インパクトはまだ時間が経たないと分からない。
何を学ぶのか
さて、かなり多岐にわたるインパクトをカバーしてきたが、せっかくなら分析をするだけでなく、ここから何を学ぶのかである。
今が「冬」であることの認識
いる業界によって見えにくいのかもしれないが、金融やテック業界は今「冬」真っ只中である。1年前に比べると企業の成長のスピードは遅くなり、資金調達が遥かに難しくなり、テック業界では大量解雇がスタートしている(テック、始まった大量解雇)。
ただ、この業界の「冬」に何が起きるかというと
・存在するべきでなかったビジネスモデルや企業の化けの皮がはがれ、業界からいなくなる。
・ビジネスモデルその他強い企業はさらに強くなる、素晴らしいスタートアップなどでも資金調達などに苦しむので「冬」には比較的低いコストで買収なども可能。
なので今回の件も現在が「冬」でなければ
・アラメダの投資業績も好調であれば不適切な融資をFTXが回す必要も少なかったかもしれない。
・そしてアラメダもFTX本体ももっと簡単に追加資金を確保できたかもしれない。
のだが、現在「冬」なので不適切なビジネスモデルが露呈して業界から退場になったと見ることができる。
なので、現在が「冬」であるという認識はとても大事だし、まだまだこれから業界の「清掃」が進みさらなる強者として今より強くなって出てくる強者にも注目しないといけない。
世界は繋がっている
今回FTXという一企業の破綻がこのような広範囲なインパクトを与えるように、今は世界は繋がっているし、色々な業務フローが社内・社外繋がっている。DX(デジタル・トランスフォーメーション)に関わる人でもweb3などのプロジェクトに関わる人でも、狭い一社の業務フローだけを区切って虫眼鏡で見るのではなく、1つの変化がさらに周りに企業や業界にどのような変革を起こすかなどの深堀りすることができる能力やそれを楽しむ感覚は大事だと思われる。
イノベーションと規制のバランス
今回の一件が業界でさらなる規制の必要性の議論を呼ぶことは間違いない。以前にも書いたことがあるが、僕は現存の金融とDeFiの世界は現時点ではパラレルワールドだと思っていて
暗号資産の世界も壮大なサンドボックス(イノベーション促進のために、一時的に規制の適用を停止するなど、新たなビジネスの実験場の仕組み)に近いと思っており
・イノベーション促進のために規制を弱くした世界・環境を提供
・規制が弱い世界で「事故」が起こった時に、新しい規制を追加(ただしそれによりイノベーションのスピードが遅くなる)
などのサイクルを繰り返すのだと思う。自分が毎週末話す「DXを語ろう!」のClubhouseでのディスカッションでも出ていたが、暗号資産の世界の更なる一般化というのは同じように危険をはらむ自動運転の一般化と同じような生みの苦しみかもしれない。
(あとがき)フィードバックも金融業界の効率化などの仲間も募集しております
いかがだったでしょうか?是非このnoteへのフィードバックも聞きたいし、こんな目線での金融業界の効率化など一緒に仕事をするパートナー企業や個人募集しております。
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では楽しい世界をみんなで頑張って築き上げましょう!
参考資料
・The FTX Collapse: A Market Analysis (Kaiko 11月10日)
・FTX破綻、何が起きたのか 激動の1週間を振り返る(日経 11月18日)
・仮想通貨交換大手FTXが破産法申請 (日経 11月11日)
・【FTX】破綻の連鎖懸念広がる、仮想通貨業界の見通しに暗雲 (ブルームバーグ 11月16日)
・FTXと「広告塔」米投資家提訴-大谷選手、大坂なおみ氏も対象 (ブルームバーグ 11月17日)
・FTX破綻、取引会社やファンドに影響拡大 (日経 11月18日)
・カナダの州年金基金、FTX出資評価額ゼロに-1年で133億円失う(ブルームバーグ 11月18日)
・ノボグラーツ氏のギャラクシー、FTXへのエクスポージャー113億円 (ブルームバーグ 11月10日)
・Hedge fund Galois Capital says half its capital stuck on FTX exchange -FT (ロイター 11月12日)
・ブロックファイ、破産申請を準備か:WSJ (CoinDesk Japan 11月16日)
・バイナンス、FTX買収を撤回 暗号資産32兆円消失 (日経 11月11日)
・Crypto Liquidity in a Post-Alameda World (Kaiko 11月14日)
・テック、始まった大量解雇 (日経 11月18日)
・再び激震が走る暗号資産(仮想通貨)市場:大手取引所FTXの破綻懸念 (NRI 11月11日)