ガザ地区におけるジェノサイド条約適用事件 仮保全措置命令(2024年3月28日)
先ほど「ガザ地区におけるジェノサイド条約適用」事件の新たな仮保全措置命令が出されました。
本文はこちらからご覧いただけます:
https://www.icj-cij.org/case/192
これに先立つ2023年1月26日の仮保全措置命令では,
が命令されておりました。
その後,2024年3月6日に南アフリカは裁判所に対し,ICJ規程41条とICJ規則75条1項・3項,76条に基づいて,さらなる仮保全措置を命令し,および/または1月26日の仮保全措置を修正することを要請しました。
これを踏まえて下されたのが,28日の命令です。
以下では,裁判所の命令を,かなり大雑把にご紹介いたします。
Ⅰ 一般的な観察
・請求内容
南アフリカの要請は,以下のように命令の明確化・修正を求めています。
対してイスラエルは,この要請の棄却を求めています(パラ12)。
・ICJ規則76条1項:事情の変化の有無
ICJは,仮保全措置の取消し・変更に関する規則76条1項の条件が満たされているかを判断するために,1月時点で仮保全措置の根拠となった事情に変化が見られるかを確認します(パラ13-15)。
裁判所は,2024年3月18日にIPCグローバルイニシアチブがガザ地区における食糧不足を警告する報告書を出したこと,2024年3月15日に国連児童基金がガザの2歳未満の幼児の栄養失調率が驚愕の増加を見せていると報告したことを挙げて,「ICJ規則76条にいう事情の変化」があるとし,修正ができるものと判断しました(パラ22-23)。
II 仮保全措置を提示する条件
・ICJ規程41条:仮保全措置命令の条件充足性
1月26日の命令では「一応の管轄権」を認めており,これは再検討する必要がないとします(パラ24)。
また同じ命令で,仮保全措置の少なくとも一部が,ジェノサイド条約で守られるべき権利の保護を目的とするものであるとしており,この点も再検討の必要がないと言います(パラ25)。
そこで,いま問題となるのは,回復不可能な損害を与える危険があるか,および,緊急性があるかだとします(パラ26)。
ICJは,パレスチナでの食料供給の不安定性,および感染症リスクの増加を指摘し(パラ31),こうした飢餓の原因にイスラエルの行為があることを指摘しました(パラ34-36,38)。
加えて,ラマダンの月の即時停戦を命じる国連安保理決議2728にも留意しています(パラ37)。
これらを踏まえると,回復不可能な損害を与える更なるリスクを伴い,かつ,ICJの最終的な判決の前にこうした損害が発生する現実的で差し迫ったリスクが存在するという意味で,緊急性があると判断しました(パラ40)。
Ⅲ 結論と講じられるべき措置
以上から,ICJは,2024年1月26日の命令で示された仮保全措置命令を修正する必要があると結論付け(パラ41),次のような措置を命じました。
・緊急に必要とされる基本的サービスや人道支援を提供できるようにするために,必要かつ効果的なあらゆる措置を遅滞なく講じること(パラ45(a))
・イスラエルの軍隊が,人道支援の提供の妨害を含めて,ジェノサイド条約のもとで保護される集団たるパレスチナ人の権利侵害となる行為を行わないように直ちに確保すること(同(b))
・1月26日に命じられた措置の即時かつ効果的な実施の必要性を確認(パラ46)
・1か月以内に報告書を提出(パラ47)
最後にICJは,仮保全措置命令の拘束力を再確認しました(パラ48)。