見出し画像

Untitled Fantasy(仮題) 破14

登場人物

マーティ・ハガード(18) 便利屋、元孤児
セレナ・ウィリアムズ(18) ウィリアムズ王国現第二王女
ジョニー・ダグラス(18) 薬剤師、元孤児
エマ・クラーク(17) 機織り、元孤児

タルウィ(?) 魔族、ウィリアムズ王国宰相ドウェイン・ウォーカーとして政界を掌握、国王フレデリックを間接的に殺害

テイラー(62) 王国の老兵、マーティとセレナの剣術の師
ラリー(20) 王都の城門を守る門番、元孤児
セオドア・ウィリアムズ(28) ウィリアムズ王国現第二王子、現ウィリアムズ王国騎士団団長、側室の子
ドゥルジ(?) 魔族の将、女
サルワ(?) 魔族の将
グレアム(283) 天界の若手官僚


初回

前回


本文

ラリー、仰向けに倒れている。
マーティ、ラリーにゆっくり近づく。
セレナ、ジョニー、エマ、二人に近づく。
一同、ラリーの近くで止まる。
マーティ、ラリーの顔の横で膝をつく。

マーティ「ラリー……」
ラリー「……う、あ」

ラリー、意識を取り戻す。
一同、驚く。

ラリー「みんな、どうして……。撤退は?」
マーティ「戻ってきたんだ。国を取り返すためにな」
ラリー「そうか……。俺は結局、この国を、守れなかった」

ラリー、辺りを見渡し、何かを悟ったような顔をする。

ラリー「おまけに、敵に操られ、お前たちに危害を……」
マーティ「よせよ。大変なときはお互い様だ」
ラリー「マーティ……」

ラリー、セレナの方を見る。

ラリー「王女殿下、申し訳ありません……。ろくにお役に立てず……」
セレナ「やめて。王女殿下なんて他人行儀な言い方……」
ラリー「セレナ……」

ラリー、口から紫色の血を吐く。

マーティ「ラリー!」

マーティ、ラリーの上半身を抱き抱える。
ラリー、苦悶の表情を浮かべる。

ラリー「苦しいっ……! 全身が、痛い!」
マーティ「ラリー、しっかりしろ!」

一同、涙を流す。
エマ、歌を歌いだす。
橙色の光がラリーを薄っすら包む。

ラリー「エマ……。ああ、痛みが、引いて……」

ラリーの表情が和らぐ。
ラリー、何かを思い出したような顔をし、マーティを見る。

ラリー「そう、だ……。マー、ティ……」
マーティ「もういい、喋るな」
ラリー「テイ……ラー、先生……が」
セレナ「テイラー!? テイラーは生きてるの!?」
マーティ「待て、セレナ!」

ラリー、瞼を閉じて動かなくなったあと、全身が解けだす。
ラリーの鎧が地面に落ちる。

マーティ「ラリー、安らかに」

マーティ、立ち上がる。
グレアム、マーティたちに近づくる。

グレアム「そいつをゾンビ化したのはサルワという名の魔族だ。新鮮な死体をゾンビに変えて従わせる術を得意としている。戦闘能力はないに等しいが、無尽蔵に死体が手に入るこの場所では最も厄介なタイプだ」
マーティ「そいつが、ラリーを……」
グレアム「ああ、間違いない。魔族の中でもそんなことができるのはサルワだけだからな」
マーティ「サルワ……絶対に許さねぇ」

一同、沈黙。

グレアム「感傷に浸っている暇はない。人界に侵入した魔族の将を倒し、アビスゲートを再び封印するんだ」
マーティ「ああ、わかってる。セレナ、ジョニー、エマ。先を急ぐぜ」

マーティ、大剣を拾い、王宮の方角へ歩きだす。
ジョニー、エマ、グレアム、それに続く。

セレナ、モノローグ(何? この胸騒ぎは? 重大な何かが喉元まで出かかっているような、でも、考えたくないような……)

セレナ、少し遅れてついていく。


〇城下町、大通り

一同、王宮に向かって走っている。
前方から兵士のゾンビと魔物が集団で現れる。
セレナ、戸惑いの表情を見せる。

セレナ「この人たちを斬らなきゃいけないの?」
マーティ「セレナ! 今は気にしてる場合じゃねぇ! いくぞ!」
セレナ「う、うん!」

マーティ、ゾンビと魔物を大剣でなぎ倒していく。
セレナ、躊躇いながら敵を斬っていく。

グレアム「ジョニー! エマ! 後方から二人を援護するぞ!」
ジョニー、エマ「「はい!」」

ジョニー、マーティとセレナが倒し損ねた敵に火球を放つ。
エマ、歌で味方全員にバフをかける。
グレアム、飛んできた攻撃をバリアで防ぐ。
ゾンビと魔物が次々に倒されていく。

セレナ、モノローグ(マーティ、兵士のゾンビ相手に躊躇いがない。ジョニーとエマも……。ドゥルジが言っていた覚悟って、いったい……)

セレナ、戸惑いながらゾンビたちを斬っていく。

セレナ、モノローグ(苦しい。斬っても斬っても覚悟なんて決まらない……。わからない。私は、どうすれば……)

 *   *   *

マーティたち、周囲にいたゾンビと魔物を殲滅する。
溶けたゾンビと魔物の死体が散乱している。
グレアム、ジョニー、エマから約十五メートル離れたところにマーティとセレナがいる。
セレナ、憔悴した顔をしている。

セレナ、モノローグ(私は、自国の兵士を斬った……。王女なのに……)
マーティ「大丈夫か、セレナ? 顔色が悪いぜ」
セレナ「ううん、大丈夫。心配してくれてありがとう」
マーティ「……」

セレナたちの前方に黒い霧が現れる。

マーティ「なんだ!?」
???「すごいや! こんな強い人間、見たことないよ!」
マーティ「誰だ!? 姿を現せ!」
???「そんな大声出さなくても聞こえてるよー」

声の主、姿を表す。
声の主は角の生えた少年。

マーティ「ガキじゃねぇか……」
???「お兄ちゃんたちより長く生きてるけどね」
グレアム「気をつけろ! おそらくそいつがサルワだ!」
マーティ「なんだって!?」
サルワ「ご明察。そう、僕がゾンビ使いのサルワさ」
マーティ「てめぇがラリーを……」
サルワ「んー? もしかしてお兄ちゃんの知り合いをゾンビにしちゃったかな? ごめんごめん。戦力になりそうな死体はできるだけゾンビにしてるからさー、そういうこともあるよねー」
マーティ「ふざけやがって」
サルワ「まあ待ってよ。僕はお兄ちゃんの前に、お姉ちゃんに用があるんだ」

サルワ、セレナの方を見る。

セレナ「わ、私!?」
サルワ「僕知ってるよ! お姉ちゃん、この国の王女様なんだよね?」
セレナ「それが、何?」
グレアム「セレナ! そいつと会話するな! 相手のペースに飲まれるぞ!」
サルワ「無精ひげのおじちゃんは黙っててよ。天界人は部外者なんだからさー。僕はお姉ちゃんに話があるんだよ」
グレアム「マーティ、そいつを殺せ!」
マーティ「言われなくても!」

マーティ、サルワに向かって走る。
マーティ、サルワの頭めがけて大剣を斜めに振り下ろす。
大きな人影が二人の間に割って入る。
マーティの大剣が受け止められる。
人影の正体が明らかになる。

マーティ「あ、あなたは……」
セレナ「セオドア兄様!」

ゾンビ化したセオドアが現れる。
セオドア、手に持った大槌でマーティを振り払う。

マーティ「うおっ!」

マーティ、吹っ飛ばされ、近くの民家の壁を貫通する。

セレナ「マーティ!」
サルワ「この人、お姉ちゃんのお兄さんなんだね。口ぶりが王族っぽかったからもしかしてと思ったんだけど、当たりだね」

セレナ、動揺した顔でセオドアの方を見る。

セレナ「セオドア兄様……」

サルワ、けらけらと笑う。

サルワ「こりゃいいや! 自分の国を取り戻すために戻ってきた王女様を待ち構えていたのは、ゾンビにされたお兄さんでした、ってね! こんな悲劇が目の前で見られるなんて、攻め込んだ甲斐があったよ!」
エマ「最低……」
ジョニー「今までいろんな奴に出会ってきたけど、こんな下衆は初めてだ……」
グレアム、モノローグ(まずい。冷静なジョニーまで怒りを露わにしだした。このままでは完全にサルワの術中だ)

グレアム、翼を広げて低空飛行でセレナたちの方へ飛ぶ。

???「妙なことをするんじゃありませんよ!」
グレアム「!? ぐわっ!」

グレアム、半透明の黒い結界にはじかれてセレナと反対の方向に吹っ飛ぶ。
セレナ、振り返る。

セレナ「グレアム!」

黒い半透明の結界がグレアム、ジョニー、エマを囲んでいる。

???「大方セレナ殿下を抱えていったん逃げようと考えたのでしょうが、そうはいきませんよ」

グレアム「お前は……」

近くの路地からタルウィが姿を表す。

エマ「あの人、王様を殺した……」
ジョニー「宰相ドウェイン。いや、魔族の将、タルウィ」
タルウィ「左様。私はタルウィ。サルワさんが用意した楽しい余興の邪魔はさせません」
ジョニー「なるほど、下衆さ加減はサルワと同等か」
グレアム「ジョニー、平常心だ。お前が我を忘れてはどうしようもない」
ジョニー「わかってますよ、グレアムさん。僕は冷静です」
タルウィ「怒っていようが落ち着いていようが関係ありません。こちらには物量がありますからね」

路地からさらに多くのゾンビたちが現れる。

セレナ、立ち尽くしている。

サルワ「あの三人はタルウィがなんとかしてくれそうだね。さて、それじゃあこっちも始めようかな」

セレナ、セオドアの方を見る。

セレナ、モノローグ(セオドア兄様……。私、セオドア兄様と戦うなんてできない!)
マーティ「セレナ!」

セレナ、振り返る。

セレナ「マーティ!」

マーティ、破壊された民家の中から出てくる。

マーティ「セオドア殿下は俺が葬る。お前に身内殺しなんかさせねぇ」
サルワ「えー、困るよー。仲のいい兄妹が殺し合うからいいのに」
マーティ「うるせぇ! クソガキがよー、必死に戦って死んでいった人たちを弄びやがって!」

マーティ、セオドアに向かって走る。
セオドア、大槌を振りかぶってマーティに叩きつける。
マーティ、大剣で受けるも衝撃で周囲の石畳が陥没する。

マーティ、モノローグ(なんてパワーだ! だいぶ力が馴染んできた実感があるのに、アパオシャの一撃より重い!)
サルワ「ちぇっ、つまんないの。じゃあお姉ちゃんにはもう一人のとっておきを出すしかないね」
セレナ「とっておき、ですって?」

セレナ、怪訝な顔をする。

サルワ「王宮でいい素材を見つけてさー。剣の達人みたいで、生身の人間のくせに普通のゾンビじゃ全然歯が立たなかったんだ」
セレナ「剣の達人? ……まさか!」

サルワの後方からゾンビ化したテイラーが現れる。

セレナ「て、テイラー!」


いいなと思ったら応援しよう!