【組織づくりプロジェクト連載Vol.2】組織の現状と向き合い、一人ひとりの多彩な強みを生かした組織へ(株式会社リリムジカ )
<リリムジカの組織づくりプロジェクトとは>
介護施設などで音楽を通した場づくり(ミュージックファシリテーション)を提供しているリリムジカ。コロナ禍で訪問できない現場が増えた事や、共同代表の辞任など体制の変化によって、組織変容の必要性に直面していた。組織のあり方やリリムジカの存在目的を改めて問い直し、しなやかで強い組織へと進化する為、GEMSTONEがシステムコーチングを主軸として組織づくりへ伴走型の参画を行なっている。
組織づくりプロジェクト連載Vol.1の記事はこちら。
コロナ禍における組織の現状
第1回セッションからおよそ1ヶ月ほど経った1月初旬、リリムジカ代表の柴田、事業企画ディレクターの小林、ミュージックファシリテーター・リーダー達の計9名と共に第2回セッションが実施された。
「ハイドリーム(※)の状態を話すと、(現在の感覚とのギャップに気づき)切なさがある。」メンバーの一人が発した言葉を皮切りに、各々が声を出す。日頃はなかなか言えない、心の奥のもやもやした感情も吐き出していく。組織の現状が、次第に浮き彫りになってくる。
要素が複雑に絡み合う中で、一つ見えてきたのは、仕事の減少によるミュージックファシリテーターの心理及び業務面の揺らぎだ。コロナ拡大防止の影響を受け、現場となる介護施設の受け入れが大幅に減った。この影響を受けたファシリテーターは仕事を通して喜びや繋がりを感じる機会が減り、大袈裟にいうと個人のアイデンティティに影響を受ける。
対応の動きは様々だ。自分で考え、今は生活のためにと他の仕事を探して兼業する人と、ミュージックファシリテーションの仕事がいつ入っても良いよう、スケジュールを確保するなどして会社の判断を待つ人。先の見えない中で待つことに疲弊する人も出てきた。一人の声は決して一人の声ではなく、システムの一つの声を代表している声だ。
ミュージックファシリテーターとしての仕事は、一人ひとりに裁量権があり、仕事のやり方も自由だ。しかし、コロナ禍での仕事との向き合い方は悩ましい。誰もが自分から状況を打破する動きができる訳でもない。メンバー間でも、他者を批判しているように感じてしまったり、自分の責任にして抱え込んだり、知らない間に声を出さずに孤独感を感じていたり。
また、ファシリテーターが34名、営業エリアも拡大した今、経営・運営チームの方針や考えを、その文脈を含めて的確に伝達することは難しい。ファシリテーターが表面的な部分や結論だけ受け取って、違和感を声に出したり、議論する事なく流れる事もあり得る。逆に、ファシリテーターがその声を経営・運営に届け、実行まで推進する事も難易度は高い。
特にコロナ禍で「会社」としても手探りで進む中では、方針も現場対応も日々変えていく必要がある。経営・運営チームの危機感・使命感と、ミュージックファシリテーターの危機感・使命感。個々の認識の違いが生まれてしまうのは当然ともいえる。
重要なのは、「それで、どうするか」だ。思っていてもなかなか言えないことを、言わないままにしておくのでは何も始まらないし、強い組織も生まれない。このセッションを通して、まず思っている事、感じている事を場に出してみる。チーム全体で現状の壁を認識し、埋める打ち手を取る。率直な対話の中で、そんな空気が生まれ、チームが一歩ずつ前へ進んで行った。
※ハイドリーム:第1回セッションで使用したコーチングのツールで、組織としての「最高の状態」を各々が全身を使って表現、皆で共有した。
第三の存在®「リリムジカちゃん」の声を聴く
これまでのメンバー同士の対話を通して、コーチから提案があったワークは「第三の存在」だ。リリムジカに人格があると想定し、「リリムジカちゃん」と名付ける。そして、一人ひとりがリリムジカちゃんになりきり、コーチ陣から投げかけられる問いに答えていく。
「リリムジカちゃんは何を必要としていると思う?」この問いに対し、出てきた声は「自立」と「つながり」。「自立」と回答したメンバーは「コロナ前は自分なりにリリムジカのことを考え、行動してきたつもりだった。でも、コロナ禍で仕事が減り、自分はリリムジカのために何ができるのか、何がしたいか、考えてもほとんど何も出てこなかった。リリムジカという存在に今まで頼りきっていたことに気づいた。だからリリムジカちゃんからは『自立しなさい』と言われていると思う。」
「自立」と「つながり」は、一見すると相反するもののように思える。しかし、自立しているからこそ人とのつながりが重要になるし、つながるためには誰かに依存するのではなく、一人ひとりが自分の足でしっかりと立つ必要があり、互いに補完しあう関係にある。
特徴的だったのは、リリムジカちゃんとメンバー間の愛がシステムに溢れてきたことだ。リリムジカちゃんは「大丈夫だよー」「堕ちるところまで堕ちてみれば」「なんとかなるさ」と言い、メンバーからリリムジカちゃんへは「大好きだよー」と言う声が届けられる。このチームが、リリムジカという存在や、それにまつわる仕事に愛を持って向き合っている姿が鮮やかに立ち上がった。
経営・運営陣とファシリテーター陣、それぞれ立場から景色を見る
2月の第3回セッションは、組織の現状を皆で共有した上でシステムの姿を立ち上げていく事を目的として、「ランズワーク」というツールを用いて、各々の立場から見える景色を明らかにしていった。また、この回は全員に楽器を持ち込んでもらい、彼女らの得意な表現方法である音楽や歌も使って表現してもらった。
「ランズワーク」では、3つの国を立てた。「経営・運営の国」「ミュージックファシリテーターの国」、そしてその二国の合併である「私たちの国」だ。このワークでは「国」という比喩を部門や人に当てはめ、各々がその国の国民になりきり、どんな国か、その国の好きなところ、その国が大切にしているものなどを声に出し、自分たちの国の姿を明らかにする。
まずは、「ミュージックファシリテーターの国」。専門家集団で、個性豊かな国民がたくさんいる。自立度と自由度が高いが一人ひとりが互いを認め合っているところがこの国の魅力。誰かを喜ばせることに情熱を持っている。他国の国民に知っておいてもらいたいことは、自分が好きな音楽を参加者(介護施設のお年寄りなど)と楽しくできてハッピーであること、ミュージックファシリテーションではアイコンタクトや空気感など、音楽以外でも参加者と触れ合う機会があり、それも含めて楽しいことだ。
続いて、「経営・運営の国」。国民は2人しかいないが、どうしていきたいかを自由に描ける国だ。音楽を色々な人に届けるために、ルールや縛りをもって届けるのではなく、ミュージックファシリテーター一人ひとりの内側から湧き出たものに乗せて色々な人に届けたいという想いがある。自分たちはキャンバスに薄く鉛筆で下書きをする程度で良く、仕上がりの色が自分たちの想像と異なっていても、多くの人に音楽を届けるという想いが達せられるのであれば構わない。自分も含めて自分らしく自然体でいられる環境をつくり、この国が居場所として機能するよう、情熱を注ぎたいと考えている。この国にいて難しいと感じることは、少人数であるために何でもできないといけない。「思ったようにできない」と悩んだとしても、周囲から見て「できてるじゃん」と思われるのが辛い。他国の国民とは、良いことも悪いことも互いに言い合えるようになりたい。
「私たちの国」はどんな国?
国の現状を理解した上で、それぞれの国を訪問する。それぞれの国の良いところや「もっとこうしたら国が良くなりそうなのに」といった意見を率直に、ただし相手の国に敬意を持って話していく。「経営・運営の国」の国民から見た「ミュージックファシリテーターの国」は、楽しさやエネルギーが溢れていて、まるで南国のよう。一方、専門家であり、集団であることの難しさや両立に悩み、助けを求めているように見えるという。
「ミュージックファシリテーターの国」の国民から見た「経営・運営の国」の印象は、落ち着きがあるように見えるが、マンパワーが足りていないために余裕がないように見える。「手伝って」「助けて」というメッセージは感じるが、どんな助けを求められているのかが分からないため、手伝うことが難しい。
その国の国民として声を出すことで、自分の立場を客観的に見ることができ、相互理解を深めることにもつながった。
最後に「経営・運営の国」と「ミュージックファシリテーターの国」が合併して「私たちの国」になり、それぞれの国から輸入したいものやどんな国にしていきたいかを話していく。それぞれの国から輸入したいのは、太陽のような明るさ、落ち着き、視野の広さなど。良い意味で雑多に色々とあって、どこかが調子が悪くても補えるような国にしたい。「私たちの国」を明らかにすることを通して、リリムジカの今の姿、そしてこれからどんな組織にしていきたいのか、方向性がつくられてきた。
「ファシリテーターがつくるリリムジカ」へ
プロジェクトの中間を過ぎた3月末にコーチと経営・運営チームのプロジェクトオーナーチームで中間レビューを実施した。振り返りであり、これからの方向性を共に創る作戦会議だ。リリムジカに今必要なことは?GEMSTONEができるベストは?コーチができるベストは何だろう?
2時間にわたる議論を通して出てきた一つの方向性は「ピラミッドをひっくり返す」だった。通常、組織はピラミッド構造になっており、多くの人はこの前提を無意識でも持っている事が多い。しかし、議論を通して「経営は現場(顧客と関わる大事なポジション)を支えるもの」「ミュージックファシリテーターの国の南国感・エネルギー値がリリムジカを救う」という哲学や願いが明らかになった。そこから、おそらくはリリムジカメンバーも持っているであろうピラミッド構造の前提をひっくり返し、逆三角形にするというビジュアル・イメージが湧き、「ファシリテーターがつくるリリムジカ」を体現していくという道が握られた。
これまでのセッションを通して、リリムジカの声を聞き、互いの立場や見えている景色の違いを共有した。一人ひとりがリリムジカのことを真剣に考え、真摯に向き合ってきたことで意識や行動が変わってきた。ここから始まる行動をどう定着・継続させ、組織的な成果に変えていくか?コーチが見立てた、今必要なものは「成功体験」。そのためには自分の在り方の拠り所が重要である。第4回のセッションは、一人ひとりの魅力や影響力をシステムで認知し、使える状態とすべく「メタスキルをつくる」ワークを行った。
自分の天才性を武器に変える
メタスキルとは、一人ひとりの持つ個性や特徴を「スキル」と名をつけて自覚的に使う事を目指した言葉。自分一人でそれを定義する事もできるが、自分の天才性は自分にとっては長年自然にやってきた事で、ブラインドスポットである事が多い。従って、それをシステムで認知、表現する事で、自覚的に使いやすくする助けとなる。本人よりも周囲の方が、その人らしい強みや長所に気づきやすいともいえる。
一人一人の認知・発見が相次ぎ、ワークは爆笑や気づきの喜びで大いに盛り上がった。表現され、ピン留めされた一人ひとりのメタスキルはグラフィックで表現されている様に、多彩で魅力溢れるものとなった。相手の長所や素敵だと思うところを、本人に直接伝える機会はなかなかない。伝えられた本人は少し照れながらも、周囲から言われることで「自分はここが強みなんだ」と認識できる。それが自分らしくいられ、互いに尊重し、高め合える関係性づくりにつながる。
愛に溢れ、個性・魅力に溢れるリリムジカチーム。この集合体としてのシステムの姿が、どんどん明らかになっていく。このシステムが世の中、そして彼女たち自身にもたらす良きインパクトが楽しみでならない。
(Vol.3につづく)
(文:鈴木麻由、深町 英樹/GEMSTONE)